漁師を悩ませる”厄介者”をエコ素材へ

宍道湖特産のヤマトシジミ。そのシジミの漁で長年悩まされてきた「水草」が、大手製紙会社のボイラー燃料として生まれ変わっている。

「においを嗅いでみるとほのかに磯の香りがします」…現場を訪れた記者がそう表現した固形燃料の正体は、漁師たちが休漁日に汗をかいて刈り取った水草そのものだ。

廃棄物として処分されるだけだった”シジミの天敵”が、いま静かに注目されている。

休漁日に…総出で刈り取り作業

出雲市の漁港。
何艘もの漁船が宍道湖へと繰り出すのは、宍道湖の朝に慣れ親しんだ風景だ。

しかしこの日、漁師たちがシジミ漁の道具「鋤簾(じょれん)」で引き揚げたのはシジミではなかった。
緑色の物体がびっしりと絡みついた鋤簾、水草である。

「水草がいっぱい生えると本来はシジミを捕りたいが、水草ばっかりかかってしまうので」と漁師は苦笑いを浮かべる。

この日は、宍道湖漁協が設けた「水草刈りの日」だ。
休漁日を利用して、湖一円の漁師が一斉に水草を刈り取る取り組みで、年に10回程度実施されている。
平田漁港からは漁師20人が参加し、人力で2時間かけて土のう袋40個ほどを集めた。

引き揚げた水草を土のう袋へ詰める作業 2時間で40袋に
引き揚げた水草を土のう袋へ詰める作業 2時間で40袋に
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約15年前から続く「大量繁殖」 漁師の頭痛の種に

宍道湖での水草の大量繁殖は、約15年前から続いている問題だ。
船のスクリューに絡まって漁船の航行を妨げるだけでなく、シジミの生息環境を悪化させるとして、漁業者にとって深刻な頭痛の種となってきた。

「きょうはとっても少ないほう。これからどんどん水草が伸びてきて、何倍も量が出てくると思う」と漁師は話す。
水草が成長する夏には、この日の10倍以上の量が採れるというから、問題の規模は決して小さくない。

これまで集められた水草はゴミ収集車に積み込まれ、廃棄物として処分されるだけだった。
だが2025年、その流れが変わりつつある。

宍道湖に大量繁殖した水草 約15年前から船の航行やシジミの生育に悪影響を及ぼしている
宍道湖に大量繁殖した水草 約15年前から船の航行やシジミの生育に悪影響を及ぼしている

厄介な水草を資源に…「固形燃料」という新たな答え

松江市で産業廃棄物の処理事業を手がける「アースサポート」が、宍道湖の水草問題の実態を知り、漁協に協力を申し出たのが転機だった。
同社はもともとプラスチックゴミなどを原料とした固形燃料の製造を事業として行っており、漁協から無償で回収した水草を原料の中に混ぜ込む形でリサイクルを実現した。

水分を多く含む水草は、通常の焼却処分では手間とコストが余分にかかるうえ、多量の二酸化炭素を排出するという課題がある。
一方、固形燃料の製造では細かく砕くだけでよいため、コスト削減と環境負荷の低減を同時に達成できるという。

松江市のゴミ処理施設に運び込まれ機械で処理された水草は、若干緑がかった固形燃料となって出てくる。
完成品は大手製紙会社に販売され、ボイラー燃料として活用されており、水草入りでも品質に問題はないとされる。

アースサポートの佐藤将吾施設部長は「地域環境のためにこの事業をやってます」と語りながら、現状の課題についても「(収益は)ちょっと出ないですね…今は平田の漁港だけをやっているが、可能であればもっともっと範囲を広げていけたら、宍道湖で困っている藻や水草をリサイクルできるかなと思う」と率直に明かす。

コストとCO2排出量で固形燃料化に軍配が上がる
コストとCO2排出量で固形燃料化に軍配が上がる

漁師も期待 シジミ量の“天敵”の有効利用

宍道湖漁協の渡部和夫組合長は、この取り組みを。「厄介者が再利用されて燃料になるので環境にいいんじゃないでしょうか。いま流行りの『SDGs』ですね」と評価する。

現場の言葉は素朴だが、取り組みの本質を的確に突いている。
廃棄コストの削減、CO2排出の抑制、地域漁業の環境改善。
いずれも地域が長年抱えてきた課題への実践的なアプローチである。

漁協はさらに、水草を牛のエサとして活用する可能性も模索しており、”シジミの天敵”の有効利用に向けた動きは少しずつ広がっている。

宍道湖のほとりで積み重ねられてきた小さな試みが、やがて湖全体の再生につながる日も遠くはないかもしれない。

回収した水草を積み込んで施設へ向かうゴミ収集車
回収した水草を積み込んで施設へ向かうゴミ収集車
TSKさんいん中央テレビ
TSKさんいん中央テレビ

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