子どもの歯は大人の歯よりも表面が未成熟で、口腔環境の悪化の影響を受けやすいです。
その一方で、災害時の支援物資はパンや菓子類などの高カロリー食品が多くなります。生きるためには必要なことですが、糖質の摂取量はどうしても増えてしまいます。
しかも、大人同様、災害時は水不足によって歯磨きの回数が減りがちです。厳密なエビデンスはありませんが、被災後にむし歯が増えたという報告は各地で聞かれます。
2~3日ケアをおろそかにして急に虫歯になるわけではありませんが、1週間、1カ月と満足なケアができないとむし歯のリスクは高まります。子どもの年齢や、水や歯ブラシの有無などによってやり方は異なりますが、その場でできる限りのケアをしてあげてください。
水が限られていたり、歯ブラシがない場合はティッシュやハンカチなどで歯を拭ってあげるだけでもいいです。細かな汚れは取りにくいですが、大きな汚れを取り除くだけでも口の中の細菌の数は減らせます。
「口のケアは命を守る」という文化を広げたい
ちなみに、実は避難所よりも在宅避難の方が、口腔ケアの質が低くなってしまう可能性があります。指定避難所には比較的早く水や支援物資が届きますが、自宅避難者は支援の対象から漏れやすいためです。
一方で避難所にも課題があります。歯ブラシの他に歯間ブラシやフロスが届いても、正しい使い方が分からない人が多いのです。さまざまな避難所に行った際、使われず大量に余っている光景も何度も見ました。
また、多くの高齢者の「人前で入れ歯を外したり洗ったりすることに抵抗がある」という点も目を向けていく必要もあるでしょう。対策のひとつとして、避難所の運動場の真ん中に水場を作るのではなく、生活の場に近いところに段ボールなどで仕切ったプライベート空間を設置すること提案します。ちょっとした仕切りさえあれば、恥ずかしさや水を使うことへの申し訳なさなどにとらわれず、口腔ケアに集中できるはずです。
被災地で活動していると、誤嚥性肺炎という言葉を知っている人は増えたように感じますが、「その原因が口の中の細菌である」ことを知っている人はまだ多くありません。
私は、非常食や飲料水を備えるのと同じように、「口腔ケア用品を備える」という文化が当たり前になってほしいと思っています。口腔ケアは単なる身だしなみではありません。
災害時には肺炎などを防ぎ、ときには命を守るための大切な備えなのです。
足立了平(あだち・りょうへい)
ときわ病院歯科口腔外科部長。災害時の口腔(こうくう)ケアの重要性や、災害関連死予防の研究・啓発活動に長年携わる。
取材・文=内山直弥

