ブタの臓器をヒトに移植しても大丈夫なんでしょうか?
ブタの腎臓を人に移植する国内初の治験が始まります。明治大学発のベンチャー企業「ポル・メド・テック」は、拒絶反応が起きにくいよう遺伝子を改変したブタの腎臓を、腎不全の患者に移植する「異種移植」の研究を進めています。
実用化に向けた治験は早ければ2028年にも実施されるということですが、そもそもなぜブタなんでしょうか?
※サムネイルの画像は実際のドナーブタ

村上知彦医師(薬院ひ尿器科医院 )
村上知彦医師(薬院ひ尿器科医院 )
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今回、村上知彦医師(薬院ひ尿器科医院 )の監修で、ブタの腎移植についてまとめました。

ヒトの腎臓移植は平均15年も待機

腎不全の患者さんは、血液をろ過して老廃物を排出する腎臓の機能、端的に言えば尿を出す機能が低下します。

人工透析
人工透析

症状が進めば、1回4~5時間程度の人工透析を週に3回受けなければなりません。
心身に大きな負担になり、日常生活や仕事にも多大な影響があります。
将来的に透析が必要になる“予備軍”は、約1000万人以上いると言われています。
そして、腎不全の患者さんが人工透析から解放されるには、腎臓の移植しか道はありません。
しかし、現在、日本の腎移植待機者は約1万5,000人。脳死ドナーからの移植は年間200件程度しかなく、平均15年も待つ必要があります。

今回のブタの腎臓を移植することの最大のメリットは、「圧倒的な臓器不足の解消」と「待機時間の短縮」です。
ブタは妊娠期間が約4ヶ月と短く、一度に10頭前後の子を産むため、医療用として計画的に安定供給しやすいのです。

ブタの腎臓はヒトの腎臓とほぼ同じ大きさ

とは言え、なぜブタなんでしょうか?
まず、ブタの腎臓の大きさは、ヒトの腎臓とほぼ同じです。

ヒトの腎臓の重さは1個あたり約100〜150g(握り拳くらいの大きさ)です。
ブタ(特に移植用に育てられた系統)の腎臓は、人間の成人とほぼ同程度の大きさに調整可能で、機能的にも近いのです。

臓器移植の最大のリスクは、「免疫拒絶反応」です。
この点においても、ブタは遺伝子改変がしやすい。医療用ブタの研究は数十年の歴史があり、遺伝子編集技術を使って人間の免疫に合わせる技術が大きく進歩しています。

また、サルなどの霊長類をドナーにすることは、倫理的・愛護的な観点から世界的に強い反発がありますが、ブタは家畜としての歴史もあり、比較的受け入れられやすい背景があります。

こうした条件が揃う動物は他にほとんどなく、国際的にもブタは異種移植のドナー動物として最も有望と考えられています。

勢いよく尿を作り始め…

一番肝心なことですが、ブタの腎臓を移植したら、人間の腎臓と同じように、しっかりと血液を濾過して尿を排出できるようになります。
これまでのアメリカでの治験でも、ブタの腎臓を人間の血管に繋いだ瞬間に、みるみるうちに綺麗なピンク色に変わり、その場で勢いよく尿を作り始めたことが確認されています。人間の体内で老廃物(クレアチニンなど)を排出する機能も、しっかりと働いたということです。

アメリカでブタの腎移植を受けた男性は…

もちろん、移植のリスクはあります。
先述したように、拒絶反応を防ぐために69カ所もの遺伝子を改変していますが、それでも長期的には人間の免疫が勝ってしまい、臓器が傷ついていくリスクがあります。

研究が先行するアメリカでは、この技術を用いた移植により、透析が不要な状態を9カ月間維持した患者も報告されています。
でも逆に、「たった9カ月間だけ?」と思われるかもしれません。
なぜ9カ月で、その後はどうなったのでしょう?

(イメージ)
(イメージ)

この男性患者は、2025年1月に移植を受けました。
移植から約9カ月が経った2025年10月、ブタの腎臓の機能が徐々に低下(慢性的な拒絶反応や、たん白尿の発生)したため、医師団は安全を最優先してブタの腎臓を手術で摘出しました。
尿の排出機能も失いかけたため、摘出後は再び「人工透析」の治療に戻りました。
幸いにもアンドレウスさんは無事に回復し、現在は元気になって、改めて「ヒトのドナーからの腎移植」を待つリストに戻っています。
彼は「透析から解放された9カ月間は奇跡のようだった」と語り、この医療の進歩に貢献できたことを誇りに思うとコメントしています。

無菌化された施設でクローン豚を育成

また、ブタが持つ特有のウイルスが人間に感染し、新しい感染症を引き起こすリスクもゼロではありません。そのため、病原体を厳格に管理した特殊な施設でクローン豚を育てる必要があります。

ブタの腎移植は、最新技術で大きく進展しているのは事実です。
一方で、長期生着(何年も臓器を使えるか)はまだ証明されていません。
臓器移植のドナー不足を解消する切り札となるのか。2028年にも予定される日本の治験は、実用化に向けた大きな節目となりそうです。

※この記事は、医療健康情報を含むコンテンツを公開前の段階で専門医がオンライン上で確認する「メディコレWEB」の認証を受けています。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

記者として社会部10年、経済部2年、ソウル支局4年半の経験を持つ編集長を筆頭に、社会部デスク、社会部記者、経済部記者、モスクワ支局長、国際取材部記者、報道番組ディレクター・プロデューサー、バラエティー制作者、元日経新聞記者、元Yahoo!ニュース編集者、元スポーツ紙記者など様々な専門性を持つデスク11人が所属。事件や事故、政治に経済、芸能やスポーツまで、あらゆるニュースを取り扱うプロ集団です。