京都府のクリニックで去年、出産中に胎児が死亡し、母親も生死の境をさまよう医療事故が起きていたことが分かった。
我が子を抱いて撮った一枚の家族写真。両親がつけた名前は「暖(だん)」。3538グラムだった。
しかし、暖くんは産声を上げることなくこの世を去った。家族を襲ったのは「医療事故」だった。
我が子を失った妻:殺されに行ったようなものだなというのが、率直な気持ち。
担当の医師:反省点はあるが、できることはやった。
我が子との対面を待ち望んでいた家族に一体、何が起きたのか。
■「我が子が生きていた証を残したい」
京都府内に住む30代の夫婦は、去年5月、待望の我が子を出産中に失った。
我が子を失った妻:段々と意識が薄れてきて、これは危ないかもしれないと直感的に思いまして。
我が子を失った夫:無力感でいっぱいだったんですけど。大丈夫なんだ、大丈夫なんだと思いたい気持ちで。
我が子が生きていた証を残したいという思いで、今回はじめて、カメラに胸の内を語ってくれた。
妊娠が判明したのはおととし。時にはつらいつわりもあったが、時折感じる“胎動”から、明るい未来に思いをはせて乗り越えられた。
我が子を失った妻:(おなかの中で)激しく動くというよりは、手足をゆっくり伸ばして。もしかしたら暖くんはすごくおっとりした子なのかなとか、おなかの中にいるんですけど、個性はもうすでに感じていて。
そんな2人が大事な出産を託したのが、自宅から徒歩圏内にあった産婦人科クリニックだった。
我が子を失った妻:一番通いやすくて、なおかつ歴史もあったので。ちょっと信用してしまった。
我が子を失った夫:その病院でいいんじゃないかというふうに勧めてしまったところがあり、自責の念というか、『あの時の私の判断が』という思いは、今も持っています。

■出産当日 陣痛とは違う痛みで命の危険を感じた女性
2人は通院中、クリニックの対応などに特に疑問を感じることはなかったということだが、去年5月の出産当日、予期せぬ事態に陥る。
我が子を失った妻:赤ちゃんの健康状態を監視するためのモニターのアラームが鳴り始めまして。
あまりにも長く鳴っているのに、病院の人たちが全くに意に介さない状態だったので、『アラーム鳴ってますよ』と伝えると、特に何かリアクションがあるわけではなく。
いっこうに鳴りやまないアラームと、陣痛とは違う痛みで遠のいていく意識。命の危険を感じた女性は、担当の医師にこう告げる。
我が子を失った妻:おなかを切ってください。
担当の医師:応援の医師を呼ぶから40分待ってほしい。
我が子を失った妻:待てない!近くの総合病院に送ってください!

■“赤ちゃんはだめだった” 搬送される前に死亡 女性は子宮破裂の危険な状態
女性はその後、ハイリスクの分娩を取り扱う母子医療センターに運ばれる。集中治療室で目を覚ますまで見ていた夢を、今も鮮明に覚えている。
我が子を失った妻:額縁の中に入った暖くんが『ママはこっちじゃなくてあっちでしょ』と、指示されるがままに川を渡って、振り返ったところで夢は途切れた。目を覚ましてすぐに夢のことを思い出して、赤ちゃんはだめだったんだなと。
“ひだまりのような包容力”夢で出会った印象から“暖(だん)”と名付けた。
その後、最愛の我が子は運ばれる前にお腹の中で死亡していたこと、女性も子宮が破裂し危険な状態だったことが分かる。
傷も癒えない中、夫婦は我が子に惜しみない愛情を注ぎ、出産から11日後、天国へと送り出した。
我が子を失った妻:赤ちゃんのイメージは私の中で、手に指を当てると掌握反射がある。暖くんの手に指をあてても、もちろん握られることはなくて。本来、暖くんが自分でつかんでいったものが、全てつかめなくなってしまった。

■クリニック・医師からの謝罪はなし “大きなミス”はなかったと主張
我が子を失った悲しみとともに夫婦の頭から離れないのが、あの時の“違和感”だった。
我が子を失った妻:果たして産院は、私と赤ちゃんの状態をきっちりと監視してくれていたのか。こういうものは万一を考えて動くべきだと思うんですけど、そういうこと(万が一)をしっかり考えていたのか、すごく疑問が残ります。
現時点で、クリニックや担当の医師からの謝罪はないということでした。関西テレビが担当医師に接触すると、次のように主張した。
担当の医師:反省点もあるが、自分なりに正しいと思うことをやった。確かに分娩の経過で、(心拍のモニターの)読み間違いがあった。ただ早い段階で搬送を決めるなど、的確な判断があったので、最悪の事態は免れたと思っている。
ミスは認めたうえであくまで、“大きなミスはなかった”と主張したのだ。
医師の主張は正しいのか、あの時、現場では何が起きていたのか。

■医療事故調査委員会は「胎児の危険を見過ごした」「安全に晩出できた可能性がある」と結論
第三者で構成される医療事故調査委員会は、こう結論づけている。
<医療事故調査委員会の報告書より>「(胎児心拍数モニターの)判読に誤りがあり、児が危険な状況だという認識がなかった」
心拍の異常を知らせるアラームが鳴っても、クリニック側は胎児の危険を見過ごした点を指摘。
さらに、早い段階で陣痛を促した点についても…。
<医療事故調査委員会の報告書より>「自然に分娩の進行を待ったならば、安全に晩出できた可能性がある」「母からの訴えがあり、当院での帝王切開ではなく、搬送が決まった。訴えが無ければ、母体死亡の可能性もあった」
我が子を失った妻:むしろ産院に行かず、道端で産気づいた方が、暖くんは無事に生まれられたんだろうなと思うと、殺されに行ったようなものだなというのが、率直な気持ち。
我が子を失った夫:少しやわらかく言ったとしても、『余計なことをした』という気持ち。
その後、クリニック側は和解金の支払いを申し出たということだが、夫婦は受け入れず「過失がある」などとして担当の医師らを刑事告訴した。

■「医療過誤」あっても立件のハードルは“高い”と弁護士
医療裁判に詳しい酒井孝浩弁護士に話を聞くと、胎児の状態を示すモニターの判読ミスなどが過失となる「医療過誤」と判断される可能性があると指摘する。
医療裁判に詳しい酒井孝浩弁護士:(分娩中の)ここにミスがありますよということが、今まで見た報告書に比べると、明確に記載されているというふうに感じました。
一方で、立件のハードルは“高い”とも話す。
医療裁判に詳しい酒井孝浩弁護士:民事で『医療過誤だ』ということが認められていても、刑事事件にならないというケースはたくさんあります。
どれだけの証拠集めができるかがポイントになると思うけれど、集めきれなかった場合には、やはり起訴は断念してしまうことはあり得る。
今回の分娩で繰り返し起きていた不適切な医療行為。家族を引き裂く結果となった。
取材の最後、我が子を失った夫婦はこう言い残した。
我が子を失った妻:人生をかけて、暖くんの生きざま死にざまをしっかりと発信して、次の事故の防止だとか、何らかの形につなげていきたい。
(関西テレビ「newsランナー」2026年6月11日放送)

