「事業領域をできるだけ狭くした中で売り上げを増やす。本当に難しいです。そんな簡単じゃないです。だから(事業領域を)広げちゃうんですけど、そうでなくて、領域を広げずに売り上げていくんです。そうすると1位になる。その領域で。1位になると全然変わってきます」
分かりやすく力強い口調に、集まった人たちは、食い入るように聞いていた。
東京・有楽町のセミナー会場で壇上に立ったのは、福井に拠点を置くユニフォームネクストの横井康孝社長。父親から引き継いだ年商6000万円の会社を100億円企業にまで成長させた“後継ぎ” 経営者だ。
“後継ぎ”に伴走 最大500万円支援
東京都ではこれまで、スタートアップ支援に注目が集まってきた。一方で、大田区や墨田区など、町工場を含む中小製造業の集積もある。都内の製造業事業所は約3万7300にのぼり、こうした企業の技術や雇用をどう次世代につなぐかは、東京都の産業政策上、大きな課題だ。
このため、東京都の産業労働局は「ツギノツギ」プロジェクトを始動。後継者に外部人材をつなぎ、専門家が伴走、さらに新規事業の実証費として最大500万円を支援する。つまり、後継者をアイデアづくりから実証、資金面まで支える制度だ。事業承継を単なる世代交代ではなく、新たな事業創出=「第二創業」のきっかけと捉えている。
“福井モデル”を東京に 連携の狙いとは
今回のセミナーは、これまで東京都と福井県の自治体間で培った関係性がベースとなり、「ふくい産業支援センター」が企画立案・主催、都の「ツギノツギ」との事業連携により開催された。
福井県では、ふくい産業支援センターを中心に2017年からベンチャー支援を本格化。
県内企業を発掘し、成長段階に応じてビジネスモデルの磨き上げや営業戦略、組織づくりなどを伴走支援してきた。
今回の連携の背景には、こうした現場密着型の支援ノウハウを、都内の後継者支援にも取り込む狙いもあるとみられる。
狭い領域で徹底的に勝ち、「1位」を
講演で横井氏は、「一つも1位になっていないのに、いろいろやっても会社は大きくなりません」と成長の本質をシンプルに語った。
「飲食店のユニフォームで1位になった。そうしたらお客さんがどんどん増えて、利益率が大きく上がったんです」という自身の経験がその裏付けだ。
小さな会社にとって重要なのは、広げることではなく、絞ること。「事業領域を絞って売り上げを増やす。それをやれば会社は強くなる」つまり、狭い領域で徹底的に勝ち、「1位」を取る。
「そこからちょっとずつ、1位の領域を広げていくんです」この積み重ねこそが、持続的な成長につながるという。
「1位」をつくるイノベーションとは
では、その「1位」をどう作るのか。横井氏はこう話した。
「1位を作るには、イノベーションが必要です」
ただし、その意味は一般的なイメージとは異なる。
「“あったらいい”をやるのは、イノベーションっぽいけど落とし穴なんですよ。誰も困ってないことに手を出しても意味がない。自分たちの領域で、お客さんが困っていることは何か。それを解決することです」
そして、象徴的な例として、ある弁当店の取り組みを挙げた。
「普通は前日の夕方までしかキャンセルできない。でも、その店は運動会のお弁当を当日の朝6時までキャンセルできるようにしたのです」
顧客のリスクを引き受ける発想だが、それだけでは単なる“安売り”になってしまう。
そこで、この弁当店では、米を炊くタイミングを変える等、サービスとオペレーションの両方を変えることで、利益を確保しているという。顧客満足と利益の両方を追求・両立させることが『イノベーション』といえるのだろう。
“継ぐ”は「しがらみ」を「味方」に
また、東京の“後継ぎ”からの「公開相談会」では、「既存のお客さんには(そのサービスを)やっている?」「会社が倒産しない限り、どうしようかと思うんだったら、人は採用する方向で」など、抽象論ではなく、経営の現場が垣間見えるやり取りが飛び交った。
セミナー後、横井氏は「東京はスタートアップに注目が集まっていますが、『どうしていいかわからない』といった後継者の人たちが、実は多いのではないかと思いました。」と話すとともに、スタートアップと後継者の違いについて「“継ぐ”っていうのは、いろんな思いを、そこに責任を感じて“持っている”ところが一番大きな違いだと思います。すでに資金とか設備を持っているという良さがある一方で、しがらみとか前社長が雇った年配の社員たちがいる。その人たちとどうコミュニケーションを取るか、自分が何かやりたくてもそこがうまくいかない、といったようなことがあります。自由度は少ない分、味方につけさえすればすごく力になってもらえます」と語った。
その言葉には、“後継ぎ”として会社を立て直し、成長させてきた実体験がにじむ。
“後継ぎ”を新しい挑戦の入り口に
地方と東京。“後継ぎ”とスタートアップ。先輩経営者と新人後継者。
それぞれをつなぐことで、新しい成長の選択肢が見えてくる。
「小さい会社でも勝てる戦い方がある」
先輩“後継ぎ”の姿は、会社を継ぐことを、重荷ではなく、新しい挑戦の入り口として捉え直すきっかけとなるのではないか。
(フジテレビ解説委員 小川美那)
