政府は、首都直下地震への備えをまとめた基本計画を、約10年ぶりに大きく見直した。新しい被害想定をもとに、今後10年の減災目標として、死者数と建物被害を半数以下に抑えることを目指す。
東京圏に集中するリスク
東京圏には約3690万人が暮らし、建物は約965万棟。政治、行政、金融の中心で、企業の本社機能が集まるこの地域で大きな地震が起きれば、影響は首都圏だけに留まらず、日本全体の社会や経済に広がる恐れがある。
2025年12月に公表された首都直下地震の新たな被害想定では、19パターンのうち最も大きな被害が想定される都心南部直下地震が起きた場合、最大で死者約1万8000人、建物の全壊・焼失約40万棟、避難者約480万人、帰宅困難者約840万人、経済的被害約83兆円と示された。とくに深刻なのは、死者数と建物被害の約7割が火災によるとされている点で、今回の防災対策の基本計画では火災をどう減らすかが柱になっている。
今回の計画で何が変わるのか
今回政府が掲げたのは、想定される死者約1万8千人と全壊・焼失約40万棟を、今後10年で半数以下に減らす目標だ。かつての計画では「おおむね半減」としていたが、今回は「半減以上」とより踏み込んだ姿勢を示した。さらに、新たに災害関連死と経済的被害を「最大限減らす」と書き加え、直接の被害だけでなく、長引く影響も抑える方針を打ち出した。
また、具体的な目標は、かつての47項目から189項目にまで増えた。首都中枢機能の維持だけでなく、家庭の備蓄、感震ブレーカーの設置、マンション防災、避難生活の環境、復興準備まで、暮らしに近いテーマが目標として並んだのが大きな変化だ。
火事と倒壊をどう減らすか
火災対策で最も重視されるのが、感震ブレーカーだ。感震ブレーカーは地震の揺れを感じると自動で電気を止める装置で、停電のあとに電気が戻ったとき起きる通電火災を防ぐ効果がある。
政府は、首都直下地震緊急対策区域(1都9県309市区町村)での感震ブレーカーの設置率を2024年度時点の20%から、2035年度までに「おおむね設置」といえる水準まで高めるとしている。

住宅の耐震化も、もう1つの大きな柱だ。政府は、緊急対策区域の住宅について、2023年度時点で92%の耐震化率を、2035年度までに耐震性が不十分な住宅をおおむね解消する水準まで引き上げる方針を示した。建物が倒れにくくなれば、命が助かる可能性が高まり、また避難所に行かなくてすむ人も増える。火事と倒壊の両方に対策を打つことで、全体として被害を抑えようとしている。
防災を日常に
今回、政府が強調したのが「防災意識の醸成と社会全体での防災体制の構築」だ。災害のときに行政だけが動くのではなく、住民、企業、地域、行政がみんなで備えるという考え方に切り替えることを意味する。
この考え方を象徴するのが、内閣府防災担当がSNSで発信している「#防災を日常に」というメッセージだ。家具を固定する、食料や水を3日分以上備える、地域の訓練に参加するといった行動を、特別なことではなく、普段の生活の一部として続けてもらう狙いがある。新たな基本計画では、フェーズフリー(日常的に使う身の回りのモノやサービスが非常時にも役立つ考え方)や在宅避難、広域的避難といったキーワードも盛り込んだ。
マンション防災も重要に
首都圏での課題とされているのが、「マンション防災」だ。政府は、年1回以上防災訓練をしているマンションの割合を、2023年度の51%から2033年度までに100%にする目標を盛り込んだ。さらに、エレベーターの地震時管制運転装置の設置率も、2024年度の48%から2035年度に70%へ引き上げるとしている。
狙いは、地震が起きても自宅やマンションで、できるだけ生活を続けられるようにすることだ。そうなれば、避難所に人が集中することがなく、支援が本当に必要な人に届きやすくなる。マンションで暮らす人が多い首都圏ならではの課題を、数値目標を通じて解決しようとしている。
毎年点検する仕組みも
今回の計画では、目標を立てるだけでなく、その進み具合を毎年点検する仕組みも新たに導入された。政府は、有識者の意見も踏まえながら、減災目標や具体目標の進み具合、課題を毎年確認するとしている。今後設置される防災庁には勧告権が付与される予定で、必要に応じて各省庁に対し、目標達成に向けた改善を求めることも視野に入れている。
この計画の意味
今回の防災対策の基本計画は「首都直下地震が来ても被害を半分以下にする」と宣言した一方で、実現するには、これからの10年に問われることになる。火災と倒壊が被害の大半を占めるとしながらも、感震ブレーカーの普及は、これまで思うようには進んでこず、現状は約2割に留まっている。
189の目標の多くは、家庭や企業の行動に頼る部分が大きく、「防災を日常に」という言葉がどこまで現実の変化につながるかは見通せない。毎年の点検や、将来の防災庁による勧告といった仕組みも含め、この計画が数字どおりの減災につながるのか、それとも「目標だけが増えた計画」にとどまるのかは、これからの10年の取り組み次第だ。災害は待ってくれない。
