「ライフシフト」という考え方の先進国・アメリカで生活していると、人生100年時代について、日米での捉え方は全然違うなあ、と感じるのです。

「危機」か「希望」か

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根本的な違いは人生100年生きることに危機を感じているか、それとも希望を感じているか。例えば日本のメディアで頻繁に目にする人生100年時代についての記事は「老後に2000万円必要!」「定年後のお金の貯め方」「老後はお金を使わず時間を消費する」という具合に「どうやって生き延びるか!」的な視点がほとんど。そして老後を見据える区切りの年齢が50歳だと。「50歳から老後のために準備しておくべきこと」なんて言われると、50年間も老後になっちゃうのか、と自然に気持ちが老いていきます。日本では、50歳は「終活」の始まりなんですね。

でもアメリカでは、危機感の代わりに「今の50代はかつての30代」という考え方が主流で皆さん「人生50代からが本番よ!」と伸びた健康寿命と溢れるチャンスを存分に楽しんでいます。そう、これからまだまだ楽しい人生が続くのです。だから私も「人生の後半戦を思う存分生きよう!」と50歳でアートの世界からライフコーチに転業し、初心者に戻ることを決めました。ライフコーチは私の夢だったから。毎日自分の夢と一緒に生きる広がりある第二の人生。それには50歳は良い出発の時だと思ったのです。アメリカでは、50歳は「第二の人生」の始まりなのです。

「終活」の始まりか、「第二の人生」の始まりか

50歳が「終活」の始まりという考え方とは真逆の「人生は50歳からもう一度始まる!」というアプローチの生き方をする人たちが私の周りにはたくさんいます。

それはどうしてか。子育てと家事に追われつつ、専業主婦時代を経てパートタイマーとなり、50歳で起業した友人のシェリーが上手いことを言っていました。「それは50歳は競争が終わりを告げる時期だからよ。子育て中はママ友との競争や、子供のお受験の結果、習い事の成果や夫の地位に稼ぎ、社会的な地位、家の大きさや乗っている車にはめている時計、自分自身のキャリアなどどこを見ても競争ばっかり。夫は夫で出世に必死。でも50歳になったら子供は巣立ち大学名という最後の競争も終わり、それと共に家族としての競争も終わりを告げ、介護も終わりが見えてきて、残るのはたくさんの時間と他人と比べるのではなく自分に正直になれる余裕。だから自分の生きたいように思いっきり生きられる。男も女も人生はここからが最高なのよ。」

50歳ってなんとも希望に満ちた第二の人生のスタートに思えませんか?

都落ちではなく「幸せにダウンサイズ」するアメリカ人

夫婦で第二の人生を満喫している筆者
夫婦で第二の人生を満喫している筆者

とはいえお金はアメリカ人にとっても大問題です。100年生きるということは寿命が70歳だった頃よりも単純にもっとお金がかかりますから。だけどここでもアメリカ人のアプローチは違っていて「現状維持で生き延びる」という考え方はあんまりないように感じます。

それよりも大切なのは「楽しく、自分らしく、心豊かに生きる」ことのようです。自分はどんな風に働いてどんな風にお金を使ってどんなライフスタイルで生きて行きたいのか、それを可能にするためにはどうすればいいのか。日々の予算や貯金の目標を決める前に、まずはそこを考えるようです。その節目が子供や介護の手が離れる50代であるのは日本と一緒。でも「終活」に向かうというよりは「第二の人生のスタート」的な明るさがあります。

だからでしょうか、人生後半戦のお金対策に対しても明るさがあります。一生に自分が稼げる金額は大体わかっているのは日米同じでしょうから、伸びた寿命の分をどこかで節約する必要が出てきます。だけど都落ち的惨めさではなく、現実的でドライなのです。基本は50歳になったら自分にとって無駄なことはどんどん省いていく。それも実にハッピーに。

例えば私の友人には子供が大学へ行ったのを機に寝室が5つもあるようなお金ばかりかかる家をさっさと売って寝室が2つのアパートに引っ越す人がたくさんいます。生活費の高い大都会から生活コストが三分の一の大自然に恵まれた土地で働きながら趣味のアウトドアに精を出す人も。「家を守る」という執着がなく、「長い人生、楽しく自分らしく心豊かに生きるためにはどうすればいいか」がもっと大切だからです。明るいなあ。

人生100年時代というとお金の準備ばかりが注目されますが、人生後半戦を楽しく生き抜く上で本当に考えないといけないのは「自分はどう生きたいか」なのではないでしょうか。そして「100歳まで生きられるなんて最高!」という希望を持つことが大切なのだと思います。

【執筆:ボーク・重子】

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ボーク重子著
ボーク重子著
ボーク重子
ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。