刑務所にいる受刑者を指導したり監督する刑務官という職業。
受刑者の立ち直りに重点を置く「拘禁刑」が去年、導入され、刑務官のあり方は、大きな変革期を迎えています。
普段知られていないその新人研修にカメラが密着しました。
広島刑務所の武道場で行われていたのは、「矯正護身術」と呼ばれる研修。
暴力的だったり、精神的に不安定な受刑者に襲われた際、受刑者にけがをさせることなく制圧する、刑務官の基本となる技能です。
【中国矯正管区 板井剛 警備指導官】
「ここをぐっと押さえたらけがをさせるからね、力いっぱい。『この人は、もうここで曲がらないな』と体でわかっていただきたい。そのためにはどうするかと言ったら、平常心で有事の際には制圧をせんにゃあいけん」
動きは独特で複雑…。
柔道など武道の腕に覚えのある刑務官も、習得は一筋縄ではいきません。
【山口刑務所に配属 柴田渚さん(22)】
「相手と息を合わせて型を作っていかないといけないので、連携であったりとか特に難しいですね」
【中国矯正管区 國武教紀 警備指導員】
「人権を尊重しつつ、その中で冷静沈着に対応するというところは緊張感の中で育っていく。体得していくものだと思うので」
この春、中国地方の刑務所や拘置所などを監督する中国矯正管区に、刑務官として採用された18歳から29歳の37人。
およそ3か月間、共同生活をしながら研修をうけ、刑務官としての心得や技能、知識などを身につけます。
その研修が始まって、まもなく2カ月が経とうとしています。
【岩国刑務所に配属 香田樹那さん(18)】
「大変です(笑)」
【岩国刑務所に配属 庄谷内友彩さん(19)】
Q:どうですか?
「楽しいですよ。同世代ばっかなんで、逆にやりやすいですね」
【尾道刑務支所に配属 森陸人さん(19)】
「みんな最初は緊張してたのか全然しゃべらなかったんですけど、途中からみんなよく話すようになって、そっからめちゃくちゃ楽しいなと思い始めました」
(※DVDより…)背後に回して下から押し上げ…。
【美祢社会復帰促進センターに配属 河野はるかさん(18)】
「こう?」
【美祢社会復帰促進センターに配属 釘本梨子さん(23)】
「腕がらみ?腕ひしぎか」
研修以外の過ごし方は基本的に自由。
研修の復習をしたり、一緒にご飯を食べたり思い思いに過ごします。
竹村さんは年長組の28歳。
先輩刑務官からの熱いラブコールをうけて民間企業から転職してきた、新人たちの兄貴分的な存在です。
【広島刑務所に配属 竹村昂大さん(28)】
「なかなかハードな部分はあるかと思いますけど、今のうちに失敗するじゃないですけど、ミスは重ねておいて、現場に行ったときにちゃんとやっているなと思われるように頑張りたいと思います」
こちらの部屋にも、新人たちが集まっていました。
受刑者の身柄を護送するための「補助手錠」をかける練習です。
【尾道刑務支所に配属 重國麟太郎さん(22)】
「毎日学ぶことばかりで、いろいろ今吸収している段階ですけど、吸収が終わるころには胸を張って現場に立てるような刑務官になれるように精進していきます」
すごすのは2人で1部屋。
研修で学んだことを、毎日日誌に記録します。
【岩国刑務所に配属 庄谷内友彩さん(19)】
「あした(の研修は)憲法ですね。あしたは1日座学」
【美祢社会復帰促進センターに配属 蓮尾沙樹さん(29)】
「今週は終わりなんですけど、また来週月曜日にテストがあってみたいな」
【岩国刑務所に配属 庄谷内友彩さん(19)】
Q:結構テストに毎週追われる感じ?
「そうですね。週に1回は」
頭も体もフル回転。
過酷な日々を過ごす新人たちが、刑務官を志したきっかけは…。
【岩国刑務所に配属 庄谷内友彩さん(19)】
「きっかけは友達というか同期の子に誘われて、試験受けて興味を持ったという感じです」
【美祢社会復帰促進センターに配属 河野はるかさん(18)】
「高校の先輩が刑務官になっていて、オープンスクールに来てもらって話聞いていいなと思いました。仕事もいいなと思ったし、制服姿がかっこよくて」
それぞれの志を持った新人たちが、共同生活の中で互いに高めあう。
ずっと続いてきた、刑務官の変わらぬ伝統です。
一方、刑務官をとりまく環境は、いま、大きな変革期を迎えています。
去年6月、118年ぶりの刑法改正で導入された「拘禁刑」。
刑務作業が義務ではなくなる一方、受刑者の特性に応じて個別の「更生プログラム」を用意し、再犯者の減少を目指します。
「懲らしめから立ち直り」へ舵を切った、拘禁刑の導入からまもなく1年…。
【福山大学・中島学教授の授業】
「去年の6月から拘禁刑になりました。個々の受刑者の人権を尊重しながら、個々の受刑者のニーズに応じた必要な処遇を実施することが求められている」
新人研修で講師を務める元刑務官で福山大学の中島学教授は、拘禁刑によって、『刑務官のあり方』が変わったといいます。
【福山大学 中島学 教授】
「(刑務官の)意識であったり知識であったりマインドですよね。いままでは閉じ込めて規律違反をしないで、自殺・逃走といった保安事故がおきなければよしとしていたところが、今度は社会復帰後の再犯の抑止まで考えながら仕事を執行しなくちゃならないという点。大きく変わったなと思っております」
受刑者を監督・指導するところが想像できないほど、まだ、あどけなさも残っています。
しかし、彼らの言葉には、刑務官としての自覚と、「受刑者の立ち直りを支える」という、強い思いがにじみます。
【広島刑務所に配属 高原大智さん(22)】
「被収容者との接し方であったり、ひとりひとりそれぞれ接し方が違うので、そこを大切にしていきたいと思います」
【美祢社会復帰促進センターに配属 釘本梨子さん(23)】
「心を開いていてくれない受刑者も多くいると思うので、心を開くような話し方を学んでいきたいと思います」
【広島刑務所に配属 竹村昂大さん(28)】
「頼られる刑務官になりたいですね・被収容者からも『この人の話を聞いておけば、社会に戻った時にちゃんとできるかな』と思ってもらえるような人間になりたいです」
刑務官には受刑者に対し、規律を守らせることに加え、立ち直りのためのよりきめ細かな支援が求められます。
拘禁刑が導入されて1年。
悩みながら学ぶ刑務官の歩みもまた、始まったばかりです。