「食べる喜び」を、すべての人へ
広島市中区十日市のカフェ。その名も「core」。ケーキやプリンが並ぶ店内で運ばれてきたランチを見ると、みそ汁の油揚げは別皿に細かく刻まれ、野菜はやわらかく調理されている。この店では、飲み込むのが難しい人向けに柔らかさを調整した「嚥下食(えんげしょく)」を提供している。メニューは高齢者施設やこども療育センターでの勤務経験がある管理栄養士・藤井葉子さんが監修している。
息子との日々が、店づくりの原点
店をプロデュースした村尾晴美さんは、重度の障がいがある息子・祐樹さんとの葛藤の日々を経て店を立ち上げた。未熟児で生まれ、胃ろうで栄養をとる祐樹さんとの生活の中で沈んだ日々を過ごした経験があり、同じ境遇の母親たちとのつながりに救われたことが出発点だ。「みんなが楽しく過ごせる場所を作りたい」という思いを込めて、店名を「core」にした。
細やかな気遣いが詰まった空間
店内には呼吸器や痰の吸引機器などに使用できるフリー電源があちこちにあり、車いすでも動きやすい広さを確保している。調理スタッフは障がいのある子どもを育てる母親たちで、柔軟な働き方ができる職場だ。スタッフの廣兼麻畝さんは「ここはみんながお互い様なので働きやすい」と語る。キッチンは料理の場であると同時に、仲間同士が本音を話せるコミュニティにもなっている。
2階の生活介護事業所とも連携
同ビル2階の生活介護事業所「あべに~る十日市」と連携し、月1回給食の調理を担当している。多くの嚥下食がすべての食材を同時にミキサーで処理して作られる中、coreでは食材ごとに別々に処理するため、素材ごとの風味や見た目を保てるといい、管理者の宮前翔太さんは「味も良くて温かいものが運ばれてくるので利用者の表情が違って見える」と話す。
全国へ届ける、冷凍嚥下食の新サービス
先月から、店頭販売のみだった嚥下食を冷凍にして全国配送するサービスを始めた。発売当日から注文が入り、「待っていました」という声も寄せられている。東京から購入した人は「毎日ペースト食を作るのは大変。特にお肉のペーストは難しく、栄養が偏りがちな食事の選択肢が広がる」と絶賛。
「また外に出る楽しみができた」
通信販売をきっかけに来店する人もいる。関節リウマチの影響で食べられるものが限られていた西本理恵さんは、通信販売でトンカツを購入。「久々にトンカツが食べられたときは本当に嬉しかった」と話す。この日は、事前予約したハンバーグ定食(嚥下食)をヘルパーとともに味わい、「ヘルパーは普通食で、私の分は柔らかくしてもらえる。一緒に気軽に来て楽しめる場所はなかなかない」といい、こうした店が増えてほしいと語った。
「ほんの少しの配慮」が、世界を広げる
村尾さんは「ほんのちょっとの配慮があれば外に出られる」と語り、食やスペースの配慮が増えることで外出や交流の機会が広がることを願っている。coreは特別支援学校の校外学習などでも利用されている。また、嚥下障がいのある人だけでなく高齢者や一時的に柔らかい食事が必要な人にも開かれた場所だ。小さな配慮の積み重ねが、誰もが笑顔で食卓を囲める社会につながっていく。
テレビ新広島
