新里眞美子さん(77)は幼いころに家の仏壇の戸棚から一冊のアルバムを見つけた。写真には父と母ではない見知らぬ女性と3人の子どもたちが並んでいた。

そのときは「誰だろう」と思った。その後、父には別の家族がいたこと、その家族は1944年(昭和19年)に沈没した学童疎開船「対馬丸」に乗船していたことが分かった。

「子どもたちを死に追いやった」 父の後悔

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対馬丸は太平洋戦争末期の1944年8月22日、沖縄から九州へ向かう途中に米潜水艦の魚雷攻撃を受けて沈没した。子ども784人を含む1484人が犠牲となった。

新里眞美子さんの父・清篤(せいとく)さんは、沖縄本島北部の国民学校で教員を務めていた。米軍の沖縄進攻が迫るなか、政府は子どもや高齢者を九州などに疎開させる方針を決定していた。

表向きは子どもたちの命を守るためだったが、実際は地上戦を想定し軍の食料を確保すると同時に戦場で足手まといとなる者を排除するためだった。

当時、日本軍はすでに沖縄近海の制海権を失っていたにも関わらず、疎開船に住民を乗せて本土に送り出した。無事に目的地にたどり着いた船もあるが、途中で撃沈された船も複数あった。そうした事実は軍機とされ公にならなかった。清篤さんら当時の教員は「国のため」「子どもを守るため」という言葉を信じて、保護者を説得し疎開を促した。

子どもたちに疎開を促す教員の一人として清篤さんは身重の妻と3人の子どもたちを対馬丸に乗せた。後に清篤さんは「一抹の不安はあった」と手記に記している。いくら軍部が疎開船の沈没を隠そうとも、少なくない人たちが沖縄を出て音信不通になったことから、一部の住民の間では「沈められたのではないか」との噂が絶えなかった。

清篤さんに直接的な情報はもたらされなかったが、周囲の異変から対馬丸が沈没した事を知った。当時の心境を手記に綴っている。「小学校3年生の清好、幼稚園生の清秀、三つになる清子、みんな幼い。『苦しんだのではないだろうか』。泣きながら名護の町を歩いた」

家族を失った父がどのような思いで戦後を生きたのか。眞美子さんには想像することしかできない。

「子どもたちを追いやったという気持ちや、家族を亡くしたという悲しみとか、国に対する怒りもあったと思うんですよね。だけど、家では触れなかったですね」

対馬丸に向き合い続ける理由

清篤さんは戦後、対馬丸の遺族会会長を務め、後に立法院議員にもなった。遺族への見舞金制度の実現を求めて政府への陳情を重ねた。清篤さんの訴えに応えようと多くの政治家が動いた。後に首相を務めた橋本龍太郎(故人)もその一人だ。

清篤さんは生存者の証言を収集して書籍にまとめた。執筆を依頼された大城立裕(沖縄初の芥川賞受賞作家・故人)は対馬丸事件を後世に語り継ぐべきだと語っている。事件は後にアニメ映画化された。

対馬丸の生存者は「軍機を語るな」と軍に厳命され沖縄に戻った。身内の消息をしりたいと縋る知人から厳しい言葉を投げつけられた。人々は心に深い傷を抱え沈黙した。

家では一言も語らなかった父が、家の外では誰よりも対馬丸と向き合い続けていた。そのことを知るにつれ、眞美子さんにはある感情が芽生えた。

「遺された遺族のために一生懸命がんばった人だなと。父のやっていたことが分かるにつれて、『私も』って」

眞美子さんは毎年の慰霊祭に参列し、2004年に設立された対馬丸記念館の運営にも関わるようになった。しかし、同時に複雑な感情も抱抱える。

「対馬丸が沈没したから父は再婚し自分は生まれた。対馬丸が沈まなければ、自分はこの世にいない」

そうした思いとは拭えないが、眞美子さんが対馬丸から離れられない。

「最終的には…父が好きだったんですよ。父が一生懸命やっていたから、対馬丸に対する想いが人よりちょっと深いんじゃないかなと思いますね」

今も海中に沈む船の姿 こみ上げた思い

2025年、28年ぶりとなる対馬丸の水中調査が実施された。

無人探査機が深海に横たわる対馬丸を映し出した。調査では木片や金属片が収集され、対馬丸記念館へと届けられた。

「(父の)家族は対馬丸とともに沈んでいるから。この木片や金属片、80年いっしょに、身近にいたっていう、その一部だと思うと、こみ上げてくるものがありましたね。父もあの世へ旅立った今、向こうではみんな仲良くやっているんだと思います」

眞美子さんはその思いを短歌に詠んだ。

横たわる船腹に見ゆるは對馬丸 嗚呼あの船底に兄は眠るや

語られなかった父の痛みとは何だったのか

父が生前ついに語らなかった「痛みの深さ」は、問い続けることでしか近づけない。血のつながっていない、会ったことすらない「家族」が、82年間深海に眠り続けている。

後悔を沈黙の中に抱えたまま、人のために生き続けた父への思いを問い続けることが眞美子さんの背中を押している。

沖縄テレビ

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