「スポーツで街をキレイにする」をモットーに、ゴミ拾いをスポーツ感覚で行うイベント「スポGOMI」。2008年に日本で生まれたこの“スポーツ”は、これまで延べ10万人近くが参加し、いまや海外でも行われている。海洋プラスチックごみによる環境汚染が深刻化する中、今週3日神奈川県江ノ島海岸で行われたスポGOMIを筆者も体験取材した。

神奈川県江ノ島海岸に139人が集結しゴミ拾いを競った
神奈川県江ノ島海岸に139人が集結しゴミ拾いを競った
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海のごみを拾う”スポーツ”イベント

「年間800万トンのプラスチックが海に流れていくと言われています。これは飛行機5万機分だそうです」

スポGOMIの創始者である馬見塚健一さんは、イベント開始前参加者にこう語った。

いま世界では美しかった砂浜をプラスチックごみが覆い尽くし、海洋生物がプラスチックをエサだと誤飲して死んでいく。海洋プラスチック問題はいまや地球規模の問題だ。

スポGOMI創始者の馬見塚健一さん
スポGOMI創始者の馬見塚健一さん

しかし3日に江ノ島海岸で行われたスポGOMIには、決して深刻な雰囲気は無い。砂浜に集まった家族連れや若者など139人の参加者が、思い思いにごみを見つけ楽しそうに拾っている。

そのルールは簡単で、グループに分かれた参加者が制限時間60分以内に拾ったごみの量を競うだけ。とはいえ体力的に決して楽では無く、集中力を持続させないと小さなごみを発見できない。スポーツ的要素が満載のイベントなのだ。

気力体力が必要なスポーツ的要素満載のイベントだ
気力体力が必要なスポーツ的要素満載のイベントだ

のべ10万人が参加し海外6カ国でも開催

そもそも創始者の馬見塚さんは、なぜこのようなイベントを思い立ったのか?

「私はよくランニングをするのですが、当時住んでいた横浜で走っていると、観光地のせいかごみがよく落ちていました。最初は走るルートだけでもとごみを拾って走っていたんですけど、そのうちちょっと楽しくなってきたんですね(笑)。そこで『ごみ拾いをスポーツ化するとごみ拾いに興味のない人でも参加してくるんじゃないかな』と思ってルールを作ったんです」

2008年に開始以来12年間で実施されたイベントは980回を数える。一回当たりの参加者数は100人から200人程度。去年の夏からは全国の高校生が参加する大会「スポGOMI甲子園」(共催:日本財団 海と日本プロジェクト)を開き、25都道府県の高校生が参加した。確かにこの日も高校生のグループが参加して楽しそうにごみを拾っていた。

また、海外でも6カ国でこのイベントは行われており、アメリカ・ホノルルやロシア、韓国などで開催されている。「スポーツって僕らにとって魔法みたいな言葉で、いろんなものを飛び越えちゃいますね」(馬見塚さん)

スポGOMIは高校生も参加
スポGOMIは高校生も参加

汗だくで拾ったごみを片手に爽快感に包まれた

この日、筆者もスポGOMIを体験してみた。砂浜を歩くと気になるのが小さなプラスチックやガラスの破片だ。また、タバコのフィルターも砂浜に散乱し、釣り糸やペットボトルも放置されている。1人1人のごみのポイ捨てが、こんなにも砂浜を汚しているのかと思うと愕然とする。これでも今年はコロナウイルスの影響で海岸に来る人が減ったため、例年よりごみは少ないという。

当初はリクリエーション程度に思っていたごみ拾いが、意外と気力と体力を費やすのに気がついた。しかし終了時、汗だくだったが、拾ったごみを片手に何とも言えない爽快感に包まれた。

筆者も汗だくでゴミ拾い(左)
筆者も汗だくでゴミ拾い(左)

小学1年生「海の生き物が食べると困るよね」

スポGOMIの狙いは街や海岸を綺麗にすることなのか?

馬見塚氏は「実は子どもへの教育的効果が大事です」と語る。

「いま小中高校の授業などでSDGsを学ぶ機会が増えました。しかし去年このイベントに参加した高校生は『学校で海洋ごみ問題を教わりましたが、実際にスポGOMIをやってみると自分事になったというか、身近な問題なんだというのを感じました』と言ってました。このイベントに参加することで、子どもたちが環境問題に振り向くきっかけになればいいと思っています」

子どもたちが環境問題に振り向くきっかけになれば
子どもたちが環境問題に振り向くきっかけになれば

参加した小学校1年生の男の子は、「ペットボトルの端切れを拾ったけど、海の生き物が食べると困るよね」と話した。

環境意識の高さに筆者がびっくりして母親に聞いてみると、「江ノ水(新江ノ島水族館)に行くと海洋プラごみ関連の展示があるので、たぶん本人はそれが繋がったんだと思います。楽しみながら環境問題を子どもに教えられたので、参加してすごくよかったです」と笑いながら答えてくれた。

「子どもに環境問題を楽しみながら教えられた」
「子どもに環境問題を楽しみながら教えられた」

アートを通じて海洋ごみ問題を考える

また、ごみ拾いにはこんな“効果”もある。

今回初めて参加した柴田みなみさんは、福岡市を拠点とするアーティスト。彼女のアートの素材は自ら海岸で拾い集めたプラごみなどだ。

「落ちているものが素材として使えるんじゃないかなと収集し始めたのが最初です。日本は島国なので、私たちの生活は海と密接な関わりがあります。だから皆が海洋ごみの問題について意識しないといけないなと思います」

柴田みなみさんは海岸で拾ったプラごみなどで作品をつくる
柴田みなみさんは海岸で拾ったプラごみなどで作品をつくる

この日収集された約76キログラムのごみの一部は、柴田さんのアートに変貌する。これからも柴田さんはアートを通じて海洋汚染防止を訴えていくという。

「今回とても多くの人が参加されましたけど、もっとたくさんの人に知って欲しいです。アートを通じて日常生活の中で少しでも意識してもらえるきっかけになれたらと思います」

柴田さんの作品は来年3月に神奈川県で開催される「JAPAN SDGs ACTION」で展示される予定だ。

参加者が拾ったごみがアートに変貌する
参加者が拾ったごみがアートに変貌する

「最終目標はスポGOMIが無くなること」

イベント後ある男性参加者はプラごみの多さに驚きつつも、笑顔でこう語った。

「1時間ごみを拾って生活の中で意識が変わる。自宅に戻ってもごみをちゃんと捨てるという意識が参加者に残るんじゃないかな」

SDGsの達成には、我々1人1人が自分事にすることだ。馬見塚さんは「最終的な目標はごみが無くなってスポGOMIが無くなることですね」という。そのための第一歩は我々が日頃からごみをきちんと捨てることだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。