石川県輪島市に、久しぶりに暖かな香りが漂った。2026年5月1日の朝、輪島市河井町にある「やぶ新橋店」の厨房では、営業開始の午前11時を前にして、仕込みの作業が続いていた。包丁の音、湯気、そして店主・木村隆明さんの真剣な眼差し。その光景は、ここに至るまでの長い苦難を感じさせないほど、静かで凛としていた。
「二重被災」――地震の次に、濁流が押し寄せた
やぶ新橋店が最初に被災したのは、2024年1月1日の能登半島地震だった。大きな被害を受けながらも、木村さんは設備を新調し、同年4月に営業を再開した。しかし、その再起はわずか半年も続かなかった。

同年9月、奥能登豪雨が能登地方を直撃。店のすぐそばを流れる河原田川が氾濫し、店内に濁流が押し寄せた。木村さんは再び、シャッターを閉めざるを得なかった。

「いろんな不安もありました」――それでも、のれんを掛け直した理由
再開を前に、木村さんはこう語った。
「水害から1年7カ月ぐらい経ちますし、いろんな不安もありました。たくさん支援していただいた皆さんに、本当に助けられ、今日の日を迎えられたということで、感慨深いものがあります。」

設備を整え、従業員と準備を重ねてきた日々。そして、支援してくれた人々への感謝。木村さんがのれんを掛け直したのは、ただ店を開けるためだけではなかった。
開店1時間前から、常連客が列を作った

午前11時の開店を前に、店頭にはすでに常連客の姿があった。
1時間前から列を作った人々は、久しぶりに訪れたその場所に立ちながら、開店を待った。

そして午前11時。店にのれんが掛かった瞬間、客たちの間から自然と拍手が起きた。
「うまい、最高」――一口目に込められた、587日分の想い

席に着いた常連客のひとりは、運ばれてきた蕎麦を見て思わず声を上げた。
「うまそうやな、久しぶり」
一口すすると、今度はこう言った。
「うまい。最高、最高」
そして厨房の方に目を向けながら、こう続けた。
「こっから見て、厨房で仕事見とると、やっぱ生き生きしてますね。1軒でも輪島に飲食店ができるというと、やっぱちょっとなんか明るい話題というか、うれしくなってくる。」

「気軽に蕎麦1杯でも食べに来てくれたら」
2度の災害を乗り越え、再び歩み始めたやぶ新橋店。
木村さんは、これからの思いをこう語る。
「輪島のコミュニティじゃないですけど、本当に気軽に蕎麦1杯でも食べに来てくれたらいいなと思います。私たちは食で皆さんを元気にできればと思って、一生懸命料理したいと思います。」
大げさな宣言ではない。ただ、蕎麦を作り続ける、という静かな決意だ。
厨房に立つ木村さんの背中は、確かに生き生きとして見えた。

やぶ新橋
住所:石川県輪島市河井町24-11-48
電話:0768-22-0006
定休日:毎週月曜日、第1、第3火曜日(日曜日は昼営業のみ)
営業時間:(昼)午前11時〜午後2時30分(ラストオーダー午後2時)(夜)午後5時30分〜午後9時(ラストオーダー午後8時30分)
※詳しくはInstagram(@yabu_shinbashi)を確認してください。

(石川テレビ)