大病院の待ち時間は長い。
筆者は都内の大学病院の眼科に通院しているが、毎回、検査や画像撮影、診察、会計と数時間はかかる。
3月末の受診日、検査と画像撮影はスムーズに終わったが、そこから2時間経っても診察に呼ばれない。案内モニターに番号すら表示されていない。受付に確認すると、まだ10人近く待っているという。
その日、外来担当の医師の数は通常の半分、3人しかいなかった。人事異動の関係らしい。
次の予定があったため、診察は諦めた。
大病院の待ち時間はどうにかならないのか…と調べてみると、関西屈指の規模と最高峰の最先端医療を提供する大阪大学医学部附属病院が、“滞在時間を減らす”ための画期的な取り組みを始めているという。
詳しく取材した。
■病院の“滞在時間”をできるだけ短く! 待ち時間を“自分時間”に!
【大阪大学医学部附属病院 医療情報部部長 武田理宏医師】
大阪大学医学部附属病院(以下、阪大病院)の1日の平均外来患者数は約2000人。
常に混雑しており、病院側も待ち時間が長いことに大変苦労しています。
しかし、大学病院の特性上、待ち時間を減らすことは容易ではありません。
そこで、まずは「病院の滞在時間と通院所要時間を減らす」「待ち時間を自由に過ごしてもらう」ことを目指し、患者支援アプリ『ウェルコネ』を導入。
これにより、受付や会計、処方箋受け取りなどにかかる時間を大幅に短縮し、待ち時間を院内のどこでも好きな場所で過ごしてもらえるようになりました。
■「朝、並ばない」「会計で並ばない」で滞在時間を大きく減らす
診察は予約制ですが、その前の検査などは受付順です。
ですから、少しでも早く受付をしようと、朝7時ぐらいから並ばれている方が多くいらっしゃいます。
しかし病院の診療時間は8時半から。その時点で1時間半以上の待ち時間が発生してしまっているのです。
2026年2月から、『ウェルコネ』を利用した「遠隔チェックイン」が可能になりました。
当日の外来診察について、朝7時以降、アプリを起動して院外から仮受付ができます。
仮受付といっても、並んだ人と同じ状態で順番が確保される、つまり朝7時から並ぶのと同じ順番を取ることが出来ます。
あとは診療時間にあわせて通院し、病院到着後、院内に提示している「受付用QRコード」をアプリで読み込めば、本受付完了です。
診察後の会計も、時間帯によってはかなりの待ち時間になりますが、『ウェルコネ』の「アプリ決済(後払い)」機能を利用すれば、診察室を出てそのまま直帰することができます。
利用方法は簡単で、診察室を出たら「決済ボタン」を押すだけ。それで帰ってよいのです。
事前にクレジットカード情報の登録が必要ですが、通信販売などの手順と同じような形ですから、難しくありません。
患者さんへのアンケート調査で、アプリ決済利用者の94%が「満足」と回答していることからも、便利さはお分かりいただけるかと思います。
受付のために並ぶ時間と、会計にかかる時間が無くなることで、病院の滞在時間はだいぶん減るのではないでしょうか。
そして、並ぶ人が減ることで、『ウェルコネ』を利用しない患者さんの待ち時間、滞在時間も減ることになるのです。
■“自分流”待ち時間の過ごし方
『ウェルコネ』は検査や診察の呼び出し通知が、自分のスマホに届きます。
使い慣れた自分のスマホが音と振動で知らせてくれるので、通知を逃す心配はほとんどありません。
これまでのように、例えば診察室の前で「案内モニター」とにらめっこして待つことも、「検査室」の近くで呼ばれるのをじっと待つ必要もなくなるのです。
「そろそろ呼ばれるかも」とトイレを我慢する患者さんも多いのですが、画面に「待ち人数」が表示されるので、状況に合わせて自由な場所で安心して過ごして頂けます。
阪大病院にはコンビニやレストラン、カフェ、ファーストフード、美容室、図書コーナー、そして院内郵便局まで、さまざまな施設があります。
家族やお友達とおしゃべりしたり、ゆっくり本を読んだり、郵便局で用事を済ませたりと、リラックスして、自由に待ち時間を過ごして頂ければと思います。
■本格稼働から1年、早くも37%が利用
『ウェルコネ』は昨年5月のGW明けから本格稼働をはじめました。
約1年が経ち、アプリの登録者は4月21日時点で2万7070人。
3月の一週間の実績を見ると、外来通院患者さんの約37%がアプリを利用されています。
アプリ利用者の中で、実際に診察室から離れた場所で待つようになった方が約32%。
院内の食堂や休憩スペースで過ごされるほか、「付き添い者が車や自宅で待機できるようになって便利になった」という方もいらっしゃいます。
また「コンビニやトイレなどの一時離席がしやすくなった」といった声も寄せられています。
■2種類の登録方法でより便利に
また多くの患者さんの声を受けて、アプリの登録方法を改善しました。
「アプリを利用したいけど、登録に時間がかかるのは面倒くさい」と、利用をあきらめる患者さんが多くいたことから、「簡易登録」と「本登録」という、セキュリティの異なる2つの登録方法を開発しました。
「簡易登録」で使える機能は「院内でのサービスすべて」。受付、呼び出し、会計、処方箋データを調剤薬局に送るところまでが可能です。
その場で登録が完了し、すぐに利用できます。
従来の「本登録」は、検査結果や処方薬、予約状況などのカルテ情報まで見られるもので、重要な個人情報を含んでいるため、セキュリティ対策として身分証による本人確認が必要となり、登録手続きに数時間から数日かかります。
登録に時間はかかってしまうのですが、患者さんが承認した家族も閲覧することができます。
私自身、母の情報を閲覧可能にしていますが、診察に付き添わなくても、受診や検査結果、処方された薬を知ることが出来るのでとても便利です。
また、スマホ操作に不慣れな方のために、院内に「ウェルコネ開設サポートデスク」を設置し、登録や使い方をしっかりサポートしています。
■通院に苦労した患者の思いから生まれたアプリ
一人の男性が、難病を抱え大学病院の通院と仕事の両立に苦労していました。
そして、患者の立場から「待ち時間の解消」のために開発したのが『ウェルコネ』アプリです。
そこに、阪大の「患者さんによりよい医療を受けてもらうために何かできないか」という思いが合致し、一緒に「病院の待ち方」を意識したデザイン設計をスタートさせました。
我々がデザインしたアプリは阪大病院向けではありますが、クラウドサービスなので他の病院でも同じことができます。また、アプリの機能には、我々だけでなく多くの医療機関の患者さんへの思いやアイデアが詰まっています。
診察の待ち時間を、少しでもリラックスして自由な気持ちで過ごして頂けるよう、これからも試行錯誤を続け、より良いアプリにしていきたいと思います。
そして、こういったアプリが医療機関に広く普及し、全国の患者さんの通院ストレスが軽減できることを願っています。
(大阪大学医学部附属病院 医療情報部部長 武田理宏医師)