宮崎県西都市の山間部に位置する銀鏡(しろみ)地区。年間1億4000万円を超えるシカの食害に悩む宮崎県内の限界集落で、4年前に神奈川県から移住した女性が猟師となり「鹿肉バーガー」を考案した。廃棄される命を地域の活力へと変え、定住促進に繋げようとする取り組みを追った。

銀鏡の魅力と猟師の覚悟

宮崎県西都市東米良に位置する銀鏡地区。山々に囲まれた自然豊かな土地だ。

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須賀正子さん(42)は4年前、神奈川県からこの地に移住した。

趣味のサーフィンを通じて知り合ったパートナーの玉井克幸さんと共に日本一周をしていた際、アルバイトのために立ち寄ったのが銀鏡だった。

当初はユズの収穫時期に合わせた数カ月程度の滞在を予定していたが、須賀さんは銀鏡の豊かな自然と住民の温かな人柄に強く惹きつけられたという。

自給自足の生活に憧れを抱き、ユズ畑や家庭菜園を営む中で、須賀さんは2025年、自ら罠猟の免許を取得して猟師となった。

しかし、命の重さに圧倒され、猟師を辞めることを考えたこともあったという。

須賀正子さん:
一番初め、自分で捕獲した鹿を仕留められなかった時に、猟をやめようと思った。寝るときも鹿の鳴き声が頭の中に残っていて。猟師になるという選択を自分でしたから、その落とし前。やると決めたなら覚悟してやらないとな、という感覚。

現在は地元の猟友会に所属し、有害鳥獣の駆除としてシカの捕獲に従事している。

1億円超の深刻な農作物被害

宮崎県によると、2024年度の県内におけるシカによる農作物被害額は約1億4262万円に上る(前年度比104.1%)。

銀鏡の特産品であるユズの生産現場では、被害は死活問題となっている。

ユズの生産から販売までを行う「かぐらの里」の濱砂修司社長は、収穫量が1割から2割減少するのは日常茶飯事であり、最近ではシカが木の皮まで剥いで木そのものを枯らせてしまうと窮状を訴える。

柵やワイヤーなどの対策が施されていない畑では、シカが下の枝葉を食べ尽くすため、木が成長できず枝が全くない状態に陥っている。

鹿肉バーガーが繋ぐ命の循環

駆除されたシカの多くは、肉として加工されても販路が限られており、廃棄されるケースが少なくない。

2025年1月に開設されたジビエの解体処理施設でも、ジビエ肉の在庫が冷凍庫を圧迫し、パンク状態になる課題を抱えていた。

めらんジビエ 石川翔さん:
当時は力不足で在庫として結構抱えていた。正直なところ、もう少し販路を拡大してたくさんの人に手に取って食べてもらいたい。

家畜に比べて希少価値が高いジビエは安売りが難しく、買い手がつかない現状があるという。

そこで須賀さんは、シカ肉が持つ「高タンパクで鉄分豊富」という栄養価の高さに着目した。老若男女が手に取りやすいよう「鹿肉バーガー」を開発。火を通しすぎると硬くなるシカ肉の特性を考慮し、柔らかくジューシーに仕上げる工夫を凝らした。

4月に西都市内で開かれたマルシェでは、来場者から「癖がなく食べやすい」「ジューシーで美味しい」「ハンバーガーで栄養があるのはあまり聞かないので嬉しい」といった声が聞かれた。

限界集落の未来を拓く情熱

須賀さんは、駆除され捨てられていたシカの命をつないだ先に、銀鏡の未来もつなぎたいと話す。

須賀正子さん:
ここに定住するという気持ちで住んでいる。もっと銀鏡の知名度があがって、こういう取り組みをしているところがあるんだと知ってもらって、ここに10人(新たに)暮らせば限界集落というのはなくなってくる。

須賀さんの情熱に、地元住民や施設の担当者も「大事な助っ人」「未来を一緒に語れる存在」と大きな期待を寄せる。

シカの命と真摯に向き合い、その命を地域の糧へと変える須賀さんの挑戦。2人の移住者が灯した小さな火は、静かに、しかし確実に、限界集落の未来を照らす大きな希望の光へと変わりつつある。

(テレビ宮崎)

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