「これは新聞記者用に作られたスピードグラフィックというカメラです。1940年代、戦前からアメリカでは使われていて。いまでもちゃんと動きますよ」とクラシカルなカメラを手にするのは、惜しまれつつ閉館した資料館の館長だった男性。“モノづくり”の楽しさを追及した思いを取材した。

各時代を彩った商業製品 約1300点展示

福岡市東区の福岡工業大学。構内に『音とモノづくりの歴史資料館』はある。館長を務めたのは、大学の元講師だった秀崎良彦さん(87=取材時)だ。

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「1940年代、日本ではテレビの名前すら知られていない頃のアメリカ製のモノです。テレビの最初の姿です」と示すブラウン管テレビやレトロな音響機器など、館内には各時代を彩った商業製品、約1300点が展示されている。

100年以上前にエジソンが発明した蓄音機のハンドルを回すといまでも心地よい音楽が流れ出る。その他にも1979年制のウォークマン1号機やレトロなラジオ。懐かしのポラロイドカメラなど、いまでは見ることができない映像機器や撮影用機材も揃っている。

機械の内部構造を見られる展示もあり、モノづくりに関心がある工業大学の学生にとっては、貴重な資料館なのだ。

20代の頃にはテレビを自作

「真空管などの部品が山ほどありますよ」と秀崎さんが案内してくれたのは、別フロアにある修理工房。実は、資料館の展示物は全て使用可能で、その修理や手入れは秀崎さん自ら行っている。部品は使われなくなった電子機器を分解しストックしていたもので、大半の家電製品は、修理可能だという。

なかには秀崎さんが1965年、20代の頃に作ったというオリジナルのテレビもある。「当時、我が家にはテレビがなくて、親父が見たいって言うから、私が作ろうかということになって…」

「自分で回路図を見て、真空管を買って、1965年の私のサインがここにあるでしょ」。

米軍基地で初めて聞いたテープレコーダー

1938年生まれの秀崎さんは、福岡市博多区出身。幼い頃から機械好きだった。3歳の頃には蓄音機を手巻きし、音楽を聞いていたというのだ。修理の技術は独学。少年時代は、電波科学、電波技術などの本を貪るように読んだ。

最初に収集を始めたのは音響機器。きっかけとなったのは米軍だった。英語も得意だったという秀崎さんは、21歳のときに米軍板付基地に通訳として勤務。周囲のアメリカ人が、それまで見たことのない機械で音楽を楽しむ姿に驚き、そして憧れを抱いた。

「彼らの宿舎に遊びに行くとテープレコーダーが鳴っている。ショックだった。テープが回って音楽が聞こえてくる。こんなモノから音楽が!それも四六時中、鳴っている。こんな生活をしてみたいと思った」。そこから少しずつ音響機器の収集を始めた秀崎さん。

資料館ができたきっかけは偶然だった。

資料館のスタートは大学祭

30代の頃、外国語講師として働き出した福岡工業大学。大学祭で自分の音響コレクションを持ち込んだところ大好評。大学祭だけでは、もったいないとの声を受け、学内に展示スペースが設けられた。

その後、2010年に資料館として正式にオープンしたのだ。

「子どもたちは、電気屋さんに行っても直らないと言われたモノが、ここに持ってくると直ったので、ものすごく喜んでくれた」。学生の電化製品の修理も請け負うことで更に喜ばれたという。

年間の来館者数は600~700人程度で推移していたものの2025年はレトロブームの追い風に乗って1千人を超えた。しかし…。

「もう88歳ですから、もう何年もないので…」。

米寿を迎える2026年。秀崎さんは高齢を理由に館長引退を決意。資料館も同時に閉館することになったのだ。

「いつまでも子どもたちにモノ作りの楽しさを」

そして最後の日となった3月31日。

「本当に寂しいです。先生にお疲れさまでしたと言いたい」。「本当に勉強になるし、何とか閉館しても後生に伝えて頂きたい」。「大感激しました。よく1人でこれだけ集められた」。この日、訪れた関係者からは惜しみない賞賛と感謝の声が聞かれた。

「教員を31年やって、資料館館長と合わせて大学に52年。子どもの頃から機械が好きだったので『これは俺の天職だ』と思っていました。自分がやってきたことが福工大の学生のためにもなったと思うから悔いは全くありません。いつまでも子どもたちにモノ作りの楽しさを教えて下さい」。

秀埼さんは、この日、講師の頃からから数えて52年間務めた福岡工業大学を後にした。

そして気になるのは、全部で約1300点の膨大なコレクションを今後どうするか。実は展示と管理を続けてくれる団体や施設を探しているという。ちなみに、館長の自宅には既に大量のコレクションがあって、もう家には入らないので「ぜひ譲りたい(笑)」とのことだ。

(テレビ西日本)

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