田園地帯にそびえる一本の桜が、今年も満開の花を咲かせている。推定樹齢100年を超えるエドヒガン。残雪を頂く山を背景に、その白く淡い花が空へと広がる光景は、長い歴史を生き抜いてきた木の力強さをそのまま映し出している。

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戦後の伐採を逃れ、1本だけが生き残った

かつてこの地には、数本のエドヒガンが自生していた。しかし戦後の燃料不足のなか、人々はその木々を薪にするために次々と伐採していった。なぜこの1本だけが今も残っているのか。

一帯の圃場を管理し、長年この桜を見守り続けてきた山瀬悦郎さんは、こう語る。

「たまたま偶然、川に落ちそうな桜だったので、薪にするにはちょっとダメだなということで、1本だけ残されたという話を聞いているので、それだったら元気なうちはみんなに眺めてほしいと思った」

伐採を免れた理由が、川沿いの不安定な立地だったとは何とも皮肉な巡り合わせだ。しかしその偶然が、100年を超える命を今日まで繋ぎとめた。

折れた枝の先にも、花は咲く

満開を迎えた桜をよく見ると、折れて皮一枚で本体と繋がっている枝がある。それでもその枝先には、花が咲き誇っている。

「ここのちょっとしか繋がってないんだけど、そこから水をもらって何とか咲いているのが、何とも健気で愛おしいですね」と山瀬さんは目を細める。

エドヒガンはほかのソメイヨシノなどとは異なる独特の咲き方をする。「満開や」山瀬さんが声を上げる姿に、毎年この季節を共に迎えてきた者だけが持つ親しみが滲む。

戦争が続く世界の中で、変わらない風景がある

山瀬さんがこの桜に込める思いは、単なる景観への愛着にとどまらない。

「今こんな、世界ですごい戦争をやってて、そんな中ででもこの風景はずっと変わらんのかなって」

戦時下を生き延びたこの木は、現代においても、不安定な世界情勢のなかで人々の心に静かな安心感を与えている。そして山瀬さんはこう続ける。

「何も特別なことじゃない当たり前の暮らしをずっと続けたい。そのなかの象徴みたいなシンボルみたいな形でこの桜が、私らの生活、暮らしを見てくれればいいなというのがありますね」

満開の期間は「今週いっぱいかな」と山瀬さんは言う。戦後の薪不足という時代の波にも流されず、川縁の不安定な場所で根を張り続けてきたエドヒガンの一本桜。その花は今年も、この地の春を静かに、しかし力強く告げている。

(富山テレビ放送)

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