桜が見ごろを迎えた大阪市内の公園。ポカポカとした春の陽気の中、多くの犬が気持ちよさそうに散歩を楽しんでいる。
しかしいま、その穏やかな風景の裏で、愛犬家たちの間に不安が広がっている。「公園に”毒エサ”がある」という情報がSNSを中心に拡散し、飼い主たちが草むらに近づく犬を引っ張り返す光景が、あちこちで見られるようになっているのだ。
飼い主:”毒エサ”があるから気を付けてって。怖いよもう…草むらのところ入って、顔をクンクンしたらキュッって引っ張る。
「お願いします!報道してください」と声を上げる人もいた。
この騒動の真相を緊急調査した。
■「大阪南部に毒だんご」「愛犬が亡くなる事件が多発」
SNSで「”毒エサ”」を検索すると、数多くの投稿が表示された。
「大阪南部に毒だんご」「毒エサがまかれ、愛犬が亡くなる事件が多発」そうした書き込みとともに、口輪をつけた状態で散歩する犬の姿も投稿されていた。
今回の騒動の発端とみられるのが、2026年2月に堺市が発信した公式情報だ。
堺市のホームページには、「海とのふれあい広場に関して”不審な置き餌にご注意ください”」という呼びかけが掲載されていた。
取材班がその広場へ向かうと、一面の芝生が広がり、奥にはドッグランを備えた犬連れに人気のスポットだった。利用者への聞き込みでは「実際に”毒エサ”を見た」という人はいなかったが、広場を管理する警備員が、ある出来事を証言した。
警備員:秋田犬の元気くんが、”毒エサ”を食べて…。
ベンチ付近で秋田犬が”毒エサ”とみられる物を食べて死んだと、飼い主から直接聞いたというのだ。
しかし堺市の担当者は「広場にあった”毒エサ”が原因かは分かっていません。実際に不審なエサは確認されていません」と回答した。

■愛犬・元気くんを失った父の証言
取材班は愛犬を失った飼い主、東郷一行さんに直接話を聞くことができた。
2026年2月、散歩から帰った愛犬の秋田犬・元気くんに、突然の異変が起きた。
“元気パパ” 東郷一行さん:おしっこする際にもう血しか出てない。血液検査いろんな検査したところ、何らかの毒物で内臓が侵されてる。
熊取動物病院の上田裕貴獣医師によると、元気くんは重度の貧血と肝機能障害を発症していた。
熊取動物病院 上田裕貴獣医師:まず重度の貧血ですね。(赤血球容積が)普通40〜50%欲しいところが、20%切ってるような状態。肝臓もかなり悪くなってて、肝臓の機能障害ですね。
上田獣医師は「中毒症状が出るのはほとんどが24時間以降。大体1日から2〜3日たったぐらいで出てくる」と説明する。

■「同じ思いをする飼い主を増やしたくない」
この時間軸から、東郷さんの記憶がよみがえった。
異変の前日、元気くんと散歩で訪れた堺市の広場でのことだ。
“元気パパ”東郷一行さん:パッて目線を外したときには、もう(口を)むしゃむしゃしてる。気づいたときには、もう口開けたらもう何も残ってない状態。
懸命な治療が続けられたが、元気くんの体重はおよそ10キロも減少した。食欲もなく、「ずっと気分悪いのと、吐き気もそうかもしれんけど、貧血気味でご飯を食べてくれない」と東郷さんは振り返る。
発症からおよそ3週間後、元気くんは死んだ。
“元気パパ”東郷一行さん:元気は元気でパパと別れるのが、寂しかったはず。生きたいっていう思いはあったはず。
涙ながらに語った東郷さんは、元気くんの死について確証がない中、これまでSNSでの発信を一切してこなかったという。
「同じ思いをする飼い主を増やしたくない」その一心で、今回の取材に応じてくれた。
なお堺市によると、広場に強い毒性のある植物はないとみられており、意図的に置かれた何らかの毒物を元気くんが摂取してしまった可能性が残る。ただし確証はない。

■「実際には見ていない」拡散する情報の実態
こうした事実が判明する一方、SNS上ではより混乱した情報が飛び交っていた。
「”毒エサ”の報告があった現場」として多数の公園名が投稿され、大阪市内の動物カフェには「愛犬家の皆様へ、毒エサが見つかったそうです。緑色の粉がついている毒エサらしいです」という貼り紙まで登場したのだ。
しかしその情報を発信した人物に話を聞くと、実態が明らかになった。
情報を発信した人:ママ(店主)に言ったら、拡散してくれるかなと思って。”聞いた話を”お伝えした。
エサの色についても「結局”青い”言うてましたっけ?私は話を聞いただけ。みんな色んな話が回ってて…」と語った。夫が知り合いから聞いた話であり、「実際に”毒エサ”は見ていない」とのことだ。

■「ワンちゃんが亡くなったわけではない」噂の広がり
別の公園では、「サーモンを丸めたような物」が落ちていたと話す女性が登場した。
女性はこの不審物を警察に届けたというが、「それを食べて、ワンちゃんが亡くなったわけではない。私の写真をいろんな方が利用されている」と説明した。
取材班がSNSで名前のあがっていた複数の公園を確認したところ、いずれも「”毒エサ”が確認された事実はない」という回答だった。
ただし過去には、大阪市内の公園で有害な薬品が混入された”毒エサ”を食べた犬が死亡し、動物愛護法違反の事件となった事例も実際に存在する。
根拠のない話として一蹴できるわけではない。

■「食べたと思ったらすぐ動物病院へ」獣医師が語る対処法
「まねき猫ホスピタル」の石井万寿美院長は、散歩中の注意点についてこう話す。
「まねき猫ホスピタル」石井万寿美院長:よくない物が塗られてたりすることもあるので、口の辺りをよく見ていただいた方がいい。
犬が草や地面のにおいを嗅ぐ行動(いわゆる”クン活”)は本能であり、特に若い雄犬は好奇心が強く、なかなかやめさせられない。草の多い場所を避けて散歩することが有効な対策だという。
「まねき猫ホスピタル」石井万寿美院長:動物を好きな人ばっかりじゃなくて、ワンちゃんに悪意を持っている人もいるので、考えながら散歩してもらうと事故にあいにくい。
万が一、誤食してしまった場合の対応について、熊取動物病院の上田裕貴獣医師は次のように強調する。
熊取動物病院 上田裕貴獣医師:食べてから1時間以上たつと治療効果が下がる。誤食をしたと思った時点で、すぐに動物病院に連れてきてください。
不審物を見つけた場合は素手で触らず、行政・保健所・警察に連絡することが求められる。

■「動物の命を理由なく奪うのは重罪」弁護士が解説する法的責任
”毒エサ”を意図的に置いた場合の法的責任について、弁護士の西脇亨輔さんはこう述べる。
西脇亨輔さん:非常に重い罪で、動物愛護管理法という法律が日本にはあるんですけれども、そこでは愛護動物の命を守ることによって、命の尊さを知ろうという目的になっていて、刑罰が重い。5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金。
この刑罰の重さについて、西脇さんはさらに他の犯罪と比較した。
西脇亨輔さん:暴行脅迫という人に対するものであっても拘禁刑が2年以下、名誉毀損だと3年とかに比べても非常に重い。命を扱うということなので、非常に厳しい罪になっていますし、動物の命を理由なく奪うのは重罪です。これはもう確実なことです。

■「行政が冷静な情報を出すことが大切」
SNSでの情報拡散については、西脇さんは一定の理解を示しながらも、課題を指摘する。
西脇亨輔さん:”毒エサ”という言葉が、非常に響きが強いので、それによって早く現場の情報が伝わるというのがSNSのいいところでもある反面、場合によっては加熱することもある。
そのうえで、「行政の側でどこまでが確認できていて、どこまでは確認できていないのか、冷静な情報を出して、そしてお互いに補い合うことで、正確な情報が伝わるんじゃないかなと思いますね」と語った。
今回の取材で、”毒エサ”と確定した物はまだ確認されていない。しかし元気くんの事例が示すように、犬が何らかの有害物質を誤食するリスクはゼロではない。
飼い主一人ひとりが情報を冷静に見極めながら、愛犬を守るための知識と備えを持つことが求められている。
(関西テレビ「newsランナー」2026年4月6日放送)

