現状はバイデン候補優勢だが…

前回2016年の大統領選挙と今回2020年の大きな違いは「現在、民主党に勝利への過剰な自信はなく、依然、トランプ候補勝利の可能性があることを彼らも十分警戒している」(旨)ことだそうだ。
ワシントン・ポスト紙が31日報じた共和党関係者のコメントである。

この原稿は日本時間1日(日)の午後に書いているのだが、トランプ贔屓で知られるフォックス・ニュースの最新世論調査を見ても、全国支持率はバイデン候補52%、トランプ候補44%とバイデン候補が大きくリードを保ったまま。

トランプ嫌いのCNNの最新調査は、前回16年の選挙でトランプ候補が勝利したアリゾナ州(+4ポイント)・ノースカロライナ州(+6ポイント)・ミシガン州(+12ポイント)・ウィスコンシン州(+8ポイント)で軒並みバイデン候補がリードしていると伝えている。
また、ウェブサイトFiveThirtyEightはバイデン候補勝利のオッズを90、トランプ候補10と判定している。

他方、トランプ候補逆転勝利を予想しているのは、2016年同様、トラファルガー・グループが目立つくらいである。
だが、その逆転勝利の可能性をゼロないしはほぼゼロとまで断定している調査会社やメディアも無い。

現状はバイデン候補優勢のようだ。
だが、勝負は蓋を開けてみなければ分からない。

民主党 バイデン候補
民主党 バイデン候補
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選挙の専門家で筆者の友人でもあるワシントンのジョン・ガードナー氏に最新情勢をどう見ているか訊いてみたところ
「トランプ勝利の可能性はFiveThirtyEightの判定より高いと思うが、それでもバイデン勝利の可能性の方がずっと高い。」
「私自身はペンシルベニア州の行方を、郵便投票を巡る混乱とともに、危惧している。」
「またトランプ支持の傾向が比較的強いヒスパニック系男性の動向次第で、フロリダ州やネヴァダ州がトランプ勝利に終わるかもしれないと懸念している。」
「反対にノースカロライナ州やジョージア州のどちらかはバイデン陣営が勝つと期待している。」
「私はかつて米国郵政公社の理事を務めていたのでアメリカの郵便事情を良く知っているのだが、郵便投票を巡ってペンシルベニア州やミシガン州で重大な問題が生じる恐れが強く、こちらも真剣に心配している。」
という。

因みに、このガードナー氏は長年の共和党員で、ブッシュ(子)候補の選挙運動に携わり、その後、ブッシュ政権下のホワイトハウスやUSAIDで要職を務めた経験も持つ保守派である。
しかし、今回ばかりはバイデン候補支持を公言する共和党関係者の一人に名を連ねている。

最大焦点はペンシルベニア州

本題に戻るが、こうした中、最終盤で最大の焦点に浮上しているのが、ガードナー氏も気にするペンシルベニア州である。

ペンシルベニアで集会を開いた 共和党 トランプ大統領
ペンシルベニアで集会を開いた 共和党 トランプ大統領

トランプ候補は31日の土曜日に何度もペンシルベニア州で集会を開き、相変わらずのトランプ節を炸裂させ続けたし、バイデン候補もこれから同州で複数の遊説を計画していると伝えられている。
実際、両陣営とも大変な力の入れようである。
何故なら、フロリダ州など南部の激戦州をトランプ氏がぎりぎり制し、ウィスコンシン州やミシガン州をバイデン候補が奪取すると最終的な勝敗を決するのがペンシルベニア州になる可能性があるからである。

その情勢は、RCP・リアルクリアポリティクスのまとめではバイデン候補が4.1ポイントリード、ABCニュース/ワシントン・ポスト紙の最新調査ではバイデン候補+7ポイント、トラファルガー・グループ調査では数日前のものだが48%対48%で拮抗している。

しかし、ガードナー氏の懸念はここから先にある。

全国で既に9,000万人を優に超える有権者が期日前投票ないし郵便投票を済ませたと言われる中、U.S. Elections Projectのまとめによると、ペンシルベニア州の郵便投票数は、現時点で約237万票もある。
そして、既に裁判ですったもんだしたのだが、郵便投票期日のルール変更で、ペンシルベニア州では消印が有効であれば11月3日の投票日の3日後までに選管指定場所に到着すれば開票されることになったので、郵便票は更にかなり増えるものと思われる。

しかし、その一方で、同州で郵便投票の開票作業が始まるのは投票日の3日朝7時から。
もともと本人確認作業などに余計な手間のかかる郵便票の開票は大幅に遅れること必至と早くも予想されている。
(注;アメリカでは州によって郵便投票期日や開票ルールは異なり、郵便票の本人確認作業など一部が既に始まっている州もある。)

また、ペンシルベニア州の規定では得票総数の差が0.5%以内であれば自動的に再集計が行われ、それより大きな差がついたとしても、有効性に疑義があるという異議申し立てがあった場合も、部分的になるか全体になるかはケースバイケースで、再審査・再集計が行われる。

この為、トラファルガー・グループ調査が示唆するような大接戦になった場合、ペンシルベニア州は自動的に再審査・再集計となり、その間に特に郵便票を巡る訴訟が連発される恐れがあるというのだ。
また、郵便投票期日の変更を巡る訴訟が再度提起される恐れもあるという。
実際、両陣営とも弁護団を編成し、既に準備に余念がないとも伝えられている。

勝負は蓋を開けただけでは分からない?

考えただけでも頭が痛くなるが、この話を聞いて、2000年の大統領選挙で起きたフロリダ州の再集計を巡る大混乱を思い出すのは筆者だけであろうか。

あの時は、自動再集計になったフロリダ州の結果が最終的な勝敗を決することになった為、両陣営が組織した弁護団や開票監視団が開票所レベルから州最高裁、更には連邦最高裁レベルまで争った。
そして、決着は12月13日(注;11月ではない)までずれ込んだ。

この拙文の前の方で「勝負は蓋を開けてみなければ分からない」と書いたが、あの悪夢が繰り返されるようだと「勝負は蓋を開けただけでは分からない」ようになるのである。

もっとも、これはあくまでも仮定の話である。

別のシナリオを考えると、たとえば、もしも、バイデン候補が予想に反しテキサス州も制したなら、その時点で、ペンシルバニア州の勝敗に関係なく、トランプ候補は一巻の終わりだし、開票結果が比較的早いとみられる大激戦のフロリダ州をバイデン氏が制すれば、トランプ候補が最終的な勝利を収めるのは非常に難しくなる。
ペンシルベニア州でも一部世論調査が示唆するような大差になれば再集計は実施されない。

だが、勝負はやはり下駄を履くまで分からないのである。

執筆:フジテレビ解説委員・二関吉郎

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。