「業務時間中なのに、嘘八百含めて文書作って流すって行為は、公務員としては失格ですんで」。兵庫県・斎藤元彦知事が、自身の疑惑をまとめた告発文書を作成した元西播磨県民局長を猛批判した会見から、ちょうど2年が経った。
この間、斎藤知事は議会の不信任決議を受けて失職。政治団体「NHKから国民を守る党」立花孝志被告の「二馬力選挙」も追い風となり、相手候補に大差をつけて再選した。
前回より得票を伸ばした斎藤知事は強気だ。自ら設置した第三者委員会に「公益通報者保護法違反」と認定されても、「真摯に受け止める」と述べ、その後の対応は特にない。記者会見などでこれに関する質問を受けても「県の対応は適切・適正・適法」と繰り返すだけだ。
斎藤知事の定例会見が行われる日、県庁北側の歩道橋では、知事の辞職を求める抗議活動が続く。そこへ最近、「抗議活動に抗議する人々」が現れだした。拡声器をつけたキャンピングカーや右翼団体の街宣車で乗りつけ、「斎藤、頑張れ!斎藤、頑張れ!」などと連呼する。しばしば小競り合いが発生するため、警備にあたる警察官も増えた。
■「おっしゃってること分からない」を7回繰り返す
「斎藤応援団」の声は、記者会見の場にも大音量で響き渡る。このことについて3月18日の会見で記者団から質問が出たが、どうやら触れてほしくない話題のようである。
【記者】「『斎藤頑張れ』というコールが今起こっています。これについて知事、何か受け止めありますでしょうか」
【斎藤知事】「私自身は、ちょっとおっしゃってることがよく分からないので、答えることが難しいですけども、記者会見については、この場で聞かれたことに対して、自分が答えることをお答えさせていただいてるという状況ですね」
【記者】「応援してくれる方が現れた、それについての受け止めを聞いてるんですけども。記者会見についてじゃなくて」
【斎藤知事】「ちょっと、おっしゃってることがよく分からないんで、コメントをしかねますけども」
コントではない。この日は、立花被告への接近について片山安孝元副知事に再聴取するのかなど、答えにくい質問のたびに、この「よく分からない」という定型文を連発した。その数7回。さすがに翌週(3月24日)の会見で、記者クラブ幹事社が苦言を呈した。
【幹事社の記者】「会見を聞いているのは県民の皆さんです。『よく分からない』との発言で質疑応答を終わらせようとするのではなく、質問の趣旨を的確に汲み取り、回答していただくようにお願いします」
斎藤知事は、なぜ“苦手な質問”にまともに答えないのだろうか。その相手は、記者だけではない。
■斎藤知事の発言に「挑発」と憤る議会
議会との関係も良好ではないのだ。告発文書作成者である元局長の私的情報が漏洩した問題では、第三者委が「知事による指示」の疑いを指摘し、幹部らもそう証言するが、斎藤知事は否定する。
斎藤知事は漏洩の「管理責任」のみを取る形で、給与減額条例案を提出した。去年の12月議会では、服部洋平副知事らが落としどころを探って条例案を修正したが、可決寸前で斎藤知事が「技術的修正で内容は変わらない」と繰り返し発言。複数の会派の幹部に聞くと、「その言い方は挑発だ」「これはみんな怒る」と憤っていた。
■県議会議長がため息「価値観が違う」
2月から3月まで開かれた議会でも、採決見送りの方向性は変わらなかった。肩透かしのような答弁が散見される状況もそのままに見えた。3月25日の議会閉会後、山口晋平議長らが記者団の取材に応じた。
【記者】「斎藤知事の答弁の中身について、“聞かれたことに答える答弁”になっていましたか」
【山口議長】「一部なってなかったと思います。斎藤知事的には精一杯の答弁…なんでしょうけど、質問者が思った答えは返って来なかっただろうなと察するところはありました」
【記者】「知事と議会のコミュニケーションが改善されたところはありますか」
【山口議長】「外形的には変わってないと思います。個人的な話をすると、私自身が考え方を変えようかなと思っていて。斎藤知事は『開かれた場でコミュニケーションを取りたい』と。本会議とか委員会とかで、もうちょっと突っ込んだ質問にこれからなってくるのかな、と見ています。別にこっちが正しい、向こうが間違ってるという話ではなくて、ちょっと価値観が違うというか、そこをどうやって埋めていくかという話じゃないかな、と感じました」
■国会議員や中央省庁の折衝は事務方に
情報漏洩をめぐっては、神戸地検が3月27日、指示が疑われた斎藤知事と片山元副知事を嫌疑不十分で不起訴とし、実行役とされた元総務部長は起訴猶予となった。刑事処分上、「知事の指示」が問われなくなったことから、知事給与減額条例案の審議は、今後前進する可能性がある。連帯責任で給与減額の対象とされた服部副知事が退任するため、対象を知事に限定した新たな修正案が、6月議会で提出される見通しである。
斎藤知事は、県内選出の国会議員や、中央省庁への要望・折衝についても副知事など事務方に任せる方針を示している。斎藤知事自身は、全国知事会などのオープンな場で発言すればそれで十分との考えなのだろう。4月1日には新たに2人の副知事が就任するが、他の都道府県の副知事よりも、重たい任務を背負うことになる。
■新副知事「最後の最後まで最大限、職員の思いを伝える役目は果たす」
その副知事に就任するのが、守本真一農林水産部長と、守本豊企画部長である。第三者委の報告書では「伏せ字」で記載されているが、10件が認定された斎藤知事のパワーハラスメントに関する記述の中に、守本豊・新副知事が頻繁に登場することが取材で分かっている。副知事就任に先立って行われた3月26日の会見で、このあたりを聞いてみた。
【筆者】「歴代の副知事は、知事に厳しく意見をしたり、いさめたりする場面もあったそうです。そういう場面がきっとあると思いますが、できますか」
【守本豊・新副知事】「おそらく、そこが求められているんだろうな、と思っております。もちろん、必要な場面があればしっかり耳の痛いことでも申し上げないといけないですし、別にそれはおそらく知事も拒まない。最終的にどう判断されるかは知事の判断にはなりますが、最後の最後まで最大限、職員の思いを伝える役目は果たすよう努力していきたい」
【筆者】「知事の“怖い部分”をかなりご存知だと思いますが、それを踏まえてどうですか」
【守本豊・新副知事】「知事は本当に努力されている、というのはすごく感じます。以前は感情を露わにされることも時にはありましたけれども、今はまずそういった姿を見たことがないです。口で言っているのではなく、おそらく本当に心掛けておられるというのは、端で見ていてすごく感じます」
守本豊副知事は、「知事と職員の“結節点”になる」と意気込む。もう1人の守本真一新副知事も意見具申について、「『できます』の一択しかない。職員の思い・考え、把握している現場の課題はしっかりと伝えていきたい」と決意を固める。
■県庁機能の一部が六甲アイランドなどに分散
2026年度には、県庁舎の建て替えに伴って県庁機能が六甲アイランド(神戸・東灘区)など数カ所に分散する。それは職員と知事の心理的距離だけでなく、物理的距離までも広がることを意味する。ここでも、副知事の責務はより重たいものとなる。
「風通しのよい職場をつくる」と訴える斎藤知事。3月26日の組織改正発表会見で、この難題にどう対処するかを聞いた。
【筆者】「職員にとっては知事がより遠くなる。副知事が常に知事と同じ場所にいると、職員の職場からすごく離れて、“結節点”としての働き方がしにくくなる。新しいコミュニケーションの取り方の工夫、仕組みは何か考えていますか」
【斎藤知事】「特別職というのは、様々な危機管理も含めて知事との綿密な協議をしていかなきゃいけない面と、現場のマネジメントを実務面でしっかりやっていかなきゃいけないという、このバランスをどう図っていくかが大事だと思いますので、オンラインでの協議をベースとしつつ、場合によっては分庁舎のオフィスに週に何回か滞在して状況を生で聞くとか、色んな形があると思いますので、それはしっかり、これから検討していくことになると思います」
一連の問題を巡る斎藤知事に対する刑事手続きは全て不起訴で幕引きとなる。だが、この2年間で失われた命があることを忘れてはならない。全ての混乱を収束させ、「風通しのよい兵庫県」をつくることができるのか?斎藤知事の手腕が試されることになる。
(関西テレビ神戸支局長・鈴木祐輔)