冬眠から目覚めたクマが活動を始め、札幌市などでは市街地への出没を防ぐための「春期管理捕獲」がスタートする季節。しかし、そんな本格的なシーズンを前に、ヒグマ対策の最前線に立つ北海道猟友会のトップが漏らした、ある発言が波紋を呼んでいる。

 「クマの駆除から猟友会を外してもらいたい」

 クマの目撃や被害が相次ぐ中、なぜ彼は「撤退」を口にしたのでしょうか? ハンター歴55年の大ベテランである堀江篤会長の言葉から、日本のクマ対策が抱える深刻な問題が浮き彫りになってきました。


■過去最多のクマ出没…そのさなかに起きた「撤退宣言」

 2025年、北海道ではクマの出没が相次ぎました。目撃などの通報は5,000件を超え、捕獲数は2,000頭以上といずれも過去最多を記録。住民の不安がピークに達する中、11月に開かれた「ヒグマ対策推進会議」の場で、その発言は飛び出しました。

 会員数約5,700人を束ねる北海道猟友会の堀江会長が、「警察や自衛隊に対応してもらえればいい。われわれは外してもらいたい」と発言したのです。

 会議室に走る緊張。長年、地域の安全を守ってきた猟友会が、なぜ突然このような発言をしたのでしょうか。


■国が進める「ガバメントハンター」制度への強烈な違和感

 堀江会長の真意を探ると、国が推し進めるある制度への”強い違和感”が見えてきました。それが「ガバメントハンター」の拡充です。

 クマ被害の多発を受け国は、警察官や自衛官OBを自治体が雇用し、クマ駆除にあたらせる方針を打ち出しました。一見すると合理的な解決策に思えますが、堀江会長はこれを「雲をつかむような話」「その場しのぎ」と一刀両断します。

 「いきなりトップダウンで警察官にライフルを持たせる、自衛隊にお願いすると。猟友会そっちのけでどんどん進んでいる。それならそっちでやりなさい、という気持ちだったんです」


■「2~3メートルまで引きつけて撃てるか」現場のリアル

 堀江会長が危惧しているのは、現場の過酷さと制度のミスマッチです。銃の扱いを知っている警察官や自衛官のOBであっても、「クマを撃つ」ことは次元が違うと言います。

 「止まっているものと動いているものでは違う。クマは襲ってくる。2~3メートル手前まで来る。その時まで待って撃てるか。それだけの度胸があるかだ」

 さらに、OBとなれば年齢は60歳を超えています。険しい山道を歩ける体力があるのか、日々の厳しい訓練を積めるのか。たまにしか訓練しないのであれば「初心者と同じ」であり、初心者がクマを撃てるようになるには10年以上かかると堀江会長は指摘します。

 実際、北海道のデータ(1962~2024年度)によると、クマに襲われ死傷した177人のうち、狩猟や駆除の際に反撃されたケースが66人で最多となっています。クマの駆除は、常に死やケガと隣り合わせの極限の現場なのです。


■「普通のハンターに戻りたい」猟友会が本当に求めている未来

 堀江会長は、決して国のクマ対策に非協力的なわけではありません。むしろ「クマの有害駆除は国でやってほしい」と以前から訴え続けてきました。

 彼が求めているのは、高齢のOBを一時的に雇うような「その場しのぎ」ではなく、若い世代を雇用し、訓練を重ねて専門職として育て上げる「持続可能な制度」です。

 堀江会長は、ガバメントハンターの教育や訓練には全面的に協力する姿勢を見せていますが、一方で、こうも本音をこぼします。

 「僕は言ってるんですよ、もう普通のハンターに戻りたいって」


■命がけの現場を誰が担うのか

 猟友会トップの”撤退”発言は、決して無責任な投げ出しではなく、現場を知らないまま進む国のトップダウン政策に対する「命がけの現場からの強烈な警告」と言えます。

 クマとの共存、そして住民の安全をどう守っていくのか。

 猟友会という民間ハンターの善意と自己犠牲に頼り切る時代は、もう限界に来ています。真に実効性のある「プロのクマ対策組織」をどう構築していくのか、国と自治体の本気度がいま問われています。

北海道文化放送
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