島の野球部が韓国のプロ野球チームと対戦する
瀬戸内の離島、愛媛県上島町・岩城島にある社会人野球チームが韓国のプロ野球球団と対戦した。外国のプロ球団との交流試合に、島には賑やかな応援の声が響き渡った。
岩城島に本社を置く造船関連会社「イワキテック」は、若手人材を確保し、島に賑わいをもたらそうと、2024年に硬式野球部を創部した。
全国から集まった部員は全員、イワキテックの社員として働きながら野球の練習を行う。去年はなんと創部1年目で全国大会にも出場するという快挙を成し遂げた。
新入部員の島での暮らしが始まる
年が明け、26年春に入社予定の新入部員も練習に合流し始めた。
新入部員に支給される真新しいチームのキャップが、早くもしっくり決まっているようだ。
「本日から練習に参加させていただく亜細亜大学から参りました眞鍋透徹です。よろしくお願いします」
グラウンドに響く新入部員たちのあいさつも初々しい。
今年入部する新人は12人。愛媛県内や広島、九州などの大学や高校からイワキテックに採用され、島での暮らしが始まる。

元気いっぱいな新人たちに先輩部員も期待
「意識をもっと高めてやらないと、社会人野球のレベルにはついていけないかなと思ってます」
控えめに話す新人部員もいれば、「都市対抗野球出場に向け『自分の売りの走攻守全てで勝負』し、少しでも勝利に貢献したい」「強いスイングが持ち味なので、そこを生かしてチームを勝たせることができるよう頑張りたい」と力強く話す新人部員も。
先輩部員も「活気があって元気いっぱい。みんな若いんで負けないように頑張ります」とパワーをもらったようだ。

新人が増え、練習にも俄然活気がみなぎる
一気に30人に増えた部員。練習にも俄然活気がみなぎってきた。
「練習の雰囲気が変わりましたね。特に上の選手がすごい自覚持って、ひとりひとりが責任ある言葉をかけてくれるおかげ。1年目の選手は実績ある選手も、これからの選手もいろんな選手いますけど、フラットな状態でレギュラー争いしてくれたらチームの底上げにつながる」と、小野耀平監督の期待も高まる。

「みんなが協力をして練習に取り組む、協力をしてゲームする」
この日、グラウンドに練習を見に来たのは、弓削島で950年の歴史をもつ神社の宮司、亀山和麿さんだ。
「もっと能率的に練習できんかね?」と結構辛口なコメントの亀山さん。
実は元高校教師で、かつては今治西高校の野球部監督を務め、夏の大会で全国ベスト4の成績を残すなど、チームを3度甲子園に導いてきた自他ともに認める鬼監督だった。
「高校野球には“哲学”あり“化学”あり“宗教”がある。人を信じる、人を支える、そういうところが日本人はすごく強いものを持っている。みんなが協力をして練習に取り組む、協力をしてゲームする」と、監督時代を振り返り、野球の魅力を語る。

野球人である前に人であれ
“野球人である前に人であれ”
亀山さんにとって、野球は人生観の基盤を築いてくれた宝物だ。
そんな亀山さんも、イワキテックの1年目の快進撃について「まさかあそこまでやるとは思わなかった」と話す。
一方で、「チームワークでしょうね。きちんと挨拶できるしね、マナーいいし。なにか手伝いましょうかすぐ言えるし」と、その理由を分析する。

“地元では島の人たちにいいところを見せたい”
2月、上島町生名島のグラウンドに掲げられた韓国語の横断幕が掲げられた。
書かれているのは「ロッテジャイアンツさま いきなスポレクにようこそ」の文字。
韓国のプロ野球球団『韓国ロッテジャイアンツ』がここ上島町で、イワキテックと交流試合をすることになったのだ。
対戦は2試合だ。今治市内の球場で行われた初戦に敗れたイワキテック。
“地元では島の人たちにいいところを見せたい”
試合を2日後に控え、この日も遅くまで球場にはあかりが灯り、練習が続く。

埼玉から移住の夫婦も「自慢の焼き芋」で参戦
「こちらが『壺焼き芋』の壺です」
大きなツボのふたを開け、語るのは島で焼き芋の移動販売を行う眞田千雅子さんだ。
夫とともに2年前に埼玉から移住してきた眞田さんは、弓削島を拠点に大好きだった焼き芋の移動販売を始めた。ツボで2時間かけてじっくり焼き上げたこの自慢の焼き芋で、ロッテジャイアンツ戦に参戦だ。
「選手とお客さんが一体化して打って、みたいな野球観戦て、普段とは違ったそういうのが観られるのが日常と違う」と期待も高まる。

「岩城島がみんな野球が好きなの」島の人たちからも大きな声援
対戦する韓国ロッテジャイアンツの選手は、1軍メンバーではないがプロだけあってみんなさすがの体格だ。
島の人たちも珍しい対戦に続々と応援に駆け付けた。
「本当に実際ようやってくれたよね、イワキテックさん。応援するために一生懸命きょうは試合するいうから朝早くからきたんよ」
「テックの試合をよくここに見に来ます。球が速いんでみよる側もこわい。でも強いのは実感できる」
「やっぱり活気がでるわいね。今までシーンとしとったけど。岩城島がみんな野球が好きなの」
と、みんなイワキテック野球部の大ファンだ。
応援席には、かつての鬼監督の亀山さんの姿もあった。

“高いプロ球団の壁”チャンスはあったものの、得点に結びつかずゲームセット
いよいよ試合開始。
先発はエースの加藤投手だが、痛いエラーでロッテジャイアンツに出塁を許してしまう。その後3連続ヒットでイワキテックは2点を先制されるが、やられっぱなしでは終わらない。
イワキテックも、フォアボールと送球ミスで2アウトながら1、2塁のチャンスに。打席に立った4番の片山選手が、見事レフト前へタイムリーヒットを打ち、1点を返す。
さらに満塁のチャンスにもなるが、ここはライトフライでチャンスを生かせないなど、いい場面はあるものの得点に結びつけることができず、ゲームセット。韓国プロ野球球団から初勝利をもぎとることはできなかった。
それでも新入部員など、レギュラー以外の選手も登用し、公式戦の開幕を前に収穫もあった。

かつての鬼監督も目を細める
小野監督は、試合をこう振り返る。
「やっぱりバッターも1つも2つもレベル高いし、ピッチャーもやっぱりええ球投げられるし。向こうも韓国プロ野球、プロの世界で頑張ってる選手なんで、そこから学ぶことがすごい多い。外で見てるよりもプレーして、実際戦って得ることが多かった」
部員たちの懸命なプレーに、かつて高校野球の鬼監督だった亀山さんも目を細める。
「ようがんばったです。一生懸命走ってるし、みんな声出してるし、これからいいチームになると思います。期待してます」
“島に新しい風を吹き込みたい”
その願いから生まれた社会人チームの海外プロ野球球団との交流試合。瀬戸内の小さな島にはこの日、明るい声援が響いていた。

