春夏通じて初の甲子園出場となる「21世紀枠」高知農業高校。きょう3月21日、新潟の強豪・日本文理高校との初戦(第2試合)を迎える。歴史的な1日を前に、大舞台へ挑むナインのこれまでの軌跡と熱い思いを紹介する。

 わずか“部員3人”から修学旅行バスの“歓喜”へ

今でこそ18人の部員を擁する高知農業だが、2021年12月には、部員はわずか3人しかいなかった。寒いグラウンドで声を出すのすら恥ずかしくなるような状況の中、下坂充洋監督も一緒に入って元気よく練習をこなす日々だった。人数不足で他校との「連合チーム」も経験した。

4年の月日を経てつかんだ念願のセンバツ出場。吉報は、思いがけない場所でもたらされた。部員たちが修学旅行で東京を訪れ、劇団四季を観劇した後のバスの中だった。スマートフォンで発表を見守っていた部員たちは、選出を知った瞬間に大騒ぎとなり、喜びを爆発させたという。

エースに集った仲間たちと、得点力不足解消への冬

チームは苦しい時代を経て生まれ変わった。「将来は農家になりたい」と語る杉本仁主将や、1年生で4番の山本滉壬朗(こうざぶろう)選手らは、「エースの山下蒼生(あおい)投手と一緒に野球がしたい」と同じ高知農業への進学を決めた仲間たちだ。

農業実習などで18人全員がグラウンドにそろわない日も少なくないが、昨秋の高知大会準々決勝では、明徳義塾から山下投手が10奪三振を奪い、延長10回タイブレークにもつれる熱戦を演じた。

下坂監督は、昨秋のチームについて「山下におんぶにだっこの状態だった」と振り返る。この冬は課題の得点力不足を解消するため、ウエートトレーニングなど「体づくり」に注力し、打撃と柔軟性の向上に取り組んできた。甲子園では「山下以外でも点を取れるんだぞというのを見せたい」と指揮官は意気込む。

監督が主将の杉本とともに「攻撃のキーパーソン」に挙げるのが、1番・ショートの有光楓馬だ。冬の間に打球のスピードと飛距離を向上させた切り込み隊長は、「足を生かして2塁を狙い、塁に出る役割を果たしたい。家族には『会場を沸かせるような派手なファインプレーをする』と約束してきた」とニヤリと笑う。

また、ライトを守る栗山典天(のあ)も「日本文理の左投手を想定し、スライダーに対応するスイングを磨いてきた」と対策は万全だ。頼れるエースの背中を、成長した野手陣のバットが力強く後押しする。

清原世代と戦った父から末っ子へ。愛ある「しばくぞ」のゲキ

最速130キロ台前半ながら、伸びのある直球とキレのあるスライダーが持ち味の山下投手。実は、父・真二さんは高知商業の選手として甲子園に出場し、1983年夏にPL学園の清原・桑田世代と死闘を演じた元高校球児だ。

兄2人も強豪校(長男は高知商業、次男は高知中央)で野球に打ち込んだ野球一家だが、三兄弟の中で甲子園の土を踏むのは末っ子の山下が初めて。大舞台のすごみを誰よりも知る父は、「甲子園には魔物がいると言うが、僕は本物の化け物を見た」と当時を振り返り、息子の出場に「兄2人に期待していたが、『まさかのお前かよ』」と笑う。

息子へは「大したピッチャーでもないから、楽しくのびのびとやったらいい」とあたたかい言葉を送る一方で、「情けないピッチングしてたらしばくぞ」「ホームラン打たれるなよ」と愛のあるゲキも飛ばした。「甲子園は全然力のない子が力を発揮する所。何かをつかんできてほしい」と、夢の舞台で息子が“化ける”ことを期待している。

よさこいにアンパンマン!全校体制の手作り応援団

アルプススタンドから選手たちに力を送る応援も、農業高校ならではの「手作り」だ。吹奏楽部はわずか5人しかいないため、校内の楽器経験者など有志を募り27人のバンドを急造。応援団とチアリーダーも甲子園のために集まった約40人の希望者で結成された。

本番に向けて、グラウンドではアナウンスや相手校の応援曲をスピーカーで流す実践的なシミュレーション練習を重ねてきた。当日は室戸高校の吹奏楽部も加わり、高知ならではの「よさこい」や「アンパンマン」の曲を響かせ、選手たちを強力に後押しする。

「泥臭く、全国優勝したい」

下坂監督は、21世紀枠校としての使命を胸に「部員不足など同じ境遇の大変な中でも、頑張ればこういう風になるんだというのを見せたい」と語る。そして、「思いっきり振って、思いっきりいいアウトになったらいい。笑顔で元気いっぱいに躍動してほしい」とナインの背中を押す。

初戦で相対する日本文理は新潟の王者だが、ひるむつもりはない。杉本主将は「一つの打球に泥臭くやっている姿や、野球に対する熱さを見てもらいたい。何回も出られるわけでもないので全国優勝したい」と、その目はまっすぐに勝利を見据えている。

1890年開校の高知農業高校。その新たな歴史を刻むサイレンが、まもなく鳴り響く。

高知さんさんテレビ
高知さんさんテレビ

高知の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。