キユーピー株式会社の「食品用ヒアルロン酸」に関する長年の研究と事業化が、公益社団法人日本農芸化学会の2026年度農芸化学技術賞を受賞しました。サプリメントや飲料など、今では広く浸透した“食べるヒアルロン酸”ですが、ここに至るまでには30年以上にわたる地道な研究の積み重ねがありました。研究員たちはどのようにして壁を乗り越えたのか。その軌跡と未来への展望を紐解きます。
研究員プロフィール
(後列左から)
栗山 慶子 :研究開発本部 食創造研究所 ファインケミカル開発部
小田中 亘 :ファインケミカル本部 信頼性保証部
木村 守 :研究開発本部 未来創造研究所 上席研究員
(前列左から)
松岡 亮輔 :研究開発本部 未来創造研究所 ヒューマンヘルス研究部
金光 智行 :常務執行役員 研究開発本部長
大江 眞理子:研究開発本部 未来創造研究所 ヒューマンヘルス研究部
『キユーピー ミライ研究員』とは
より良い未来の実現を目指し研究に励むキユーピー研究員たちのストーリーです。目指す未来や研究にかける思いと一緒に発信します。
はじまりは、未利用資源だった“鶏のトサカ”
―― 農芸化学技術賞の受賞おめでとうございます。「キユーピーとヒアルロン酸」が結び付かない方も多いと思います。研究のきっかけから教えてください。
金光:1980年代前半に、未利用資源だった“鶏のトサカ”からヒアルロン酸を抽出する技術に着目したのが始まりです。当時、医薬品メーカーでトサカ由来のヒアルロン酸を使った関節痛治療薬の研究が始まっていました。キユーピーでは、1982年にマヨネーズの主原料である「卵」から有効成分を抽出して活用するファインケミカル事業が発足したばかり。「キユーピーでも採卵鶏のトサカからヒアルロン酸を抽出できるのではないか」と目をつけたのがきっかけでした。
―― “鶏のトサカ”からヒアルロン酸が抽出されるとは驚きですね。
金光:独自の「鶏冠抽出法」で、まずは化粧品用のヒアルロン酸原料の製造・販売が始まりました。その後、1990年代に食品用、医薬用のヒアルロン酸を発売しています。2004年にはお酢の発酵技術を活用した「発酵法」が開発され、安定的な大量生産ができるようになりました。
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――化粧品用や医薬用が順調に成長する一方で、食品用のヒアルロン酸はなかなか認知されなかったそうですね。
小田中:当時私はヒアルロン酸の研究に携わっていたのですが、食品用よりも医薬用の研究にかける時間が多かったと記憶しています。食品用は医薬用に比べるとコストも課題で、製造方法から見直す必要がありました。
金光:また、そもそも食品用ヒアルロン酸市場というものが当時は存在しませんでした。キユーピーは、市場があるから参入したのではなく、食品用原料を発売することで、自ら食品用ヒアルロン酸の市場を創りにいったのです。ところが、食品用原料を発売したものの、鳴かず飛ばず…(笑)。そこで、自社でエビデンスを揃えて機能を説明できるようにする必要があるという考えに至ったようです。
市場ゼロからの挑戦。定説を覆し、日本初の肌を訴求した機能性表示食品が誕生
――具体的にどんなエビデンスを揃えたのですか?
松岡:一つは、肌への機能を実証しました。キユーピーが、世界で初めてヒト試験でヒアルロン酸摂取による肌の保湿機能を報告したのが2001年です※1。その後も、エビデンスの信頼性を高めるために試験を重ね、科学的根拠を蓄積していきました。
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図1 ヒアルロン酸摂取による肌(頬)の水分量に及ぼす影響
2007年には、乾燥肌を有する39名を対象に、ヒアルロン酸サプリメントまたはプラセボサプリメントを6週間摂取してもらった結果、ヒアルロン酸群では3週目および6週目でプラセボ群と比較して肌水分量が有意に増加し、肌の保湿機能が明確に示された。
――世界初の知見だったのですね!どんな苦労がありましたか?
金光:そもそも臨床試験をやること自体、当時のキユーピーでは初めての経験でした。試行錯誤もあったけれど、良い結果につながって良かったです。
松岡:社外環境で言えば、ヒアルロン酸の消化・吸収メカニズムがほとんど分かっていなかったため、専門家の間でも「高分子のヒアルロン酸を食べても吸収されず、機能を発揮しないのでは」と懐疑的な声が多くありました。
――それは大きな壁ですね…。「吸収されない」説にどう向き合ったのですか?
金光:社内でも「食べた後の説明ができないとお客さまに納得いただけないだろう」という話になり、小田中さんがヒアルロン酸の体内動態の研究をされたのですよね。
小田中:炭素14という放射性同位体でラベル化したヒアルロン酸を使って試験を行いました。その結果、経口摂取したヒアルロン酸の80%以上が何らかの形で吸収されていて、特にヒアルロン酸が多い皮膚や眼などに分布し、その後代謝されて最終的には主に呼気から排出されることが分かりました※2。当時は誰も高分子のヒアルロン酸が吸収されるなんて思っていなかったですから、インパクトが大きかったと思います。このときの研究が今でもエビデンスとして活用されているのはうれしいです。
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――体内動態まで分かって、さらに信頼性を高めることができたのですね。
栗山:2015年に始まった機能性表示食品制度にいち早く適応できたのも、こうした研究の積み重ねがあったからこそと感じています。私は、ヒアルロン酸のサプリメントで日本初の機能性表示食品誕生を目指し、届出の準備を担当していました。その中で、食品用ヒアルロン酸の研究論文を集めるとキユーピーのものばかりだったのを覚えています。また、新しい制度でしたので、ガイドラインなど正確な情報のキャッチアップに会社として早くから動いたことも大きかったです。個人的にも、長年研究を積み重ねてきたヒアルロン酸だからこそ、機能性表示食品として1番に申請したい気持ちが強くありました。そして無事、2015年4月1日の制度開始初日に申請をすることができました。残念ながら、届出番号は4番目(A4)でしたが(笑)、同年6月に日本初の肌を訴求した機能性表示食品「ヒアロモイスチャー240」※3を発売しました。
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松岡:実は、キユーピーではヒアルロン酸で特定保健用食品(トクホ)を目指した過去があります。最終的に肌への機能がトクホの求める生活習慣病の改善に合致せず断念しましたが、トクホ申請を目指す中でヒアルロン酸の研究は一段と進みました。その時の蓄積が、機能性表示食品の届出で大いに役立ちました。また、これらをまとめた論文が、査読付きの雑誌に掲載※4されたことも大きな自信となり、機能性表示食品に弾みが付きました。
発売後も続けた研究。ブラックボックス「吸収メカニズム」の解明
――「ヒアロモイスチャー240」を発売したことで変化はありましたか。
金光:ヒアルロン酸の供給メーカーでブランドの信頼性も高いキユーピーが機能性表示のサプリメントを発売したことで、あとに続く企業が増え、市場が形成されていきました。手軽に肌の潤いを保ちたいお客さまに、新たな選択肢を提供できるようになりました。
松岡:現在ヒアルロン酸を関与成分とする機能性表示食品は100品目を超えると言われています(2025年10月時点)。肌を訴求する新たなサプリメント市場を確立し、健康食品市場の活性化に貢献できたのではないかと思います。
栗山:発売と同年には、キユーピーが中心となりヒアルロン酸機能研究会を立ち上げました。ヒアルロン酸メーカーと専門家の先生方との技術交流の場を持つことで研究をさらに発展させていくきっかけになったと思います。
――発売後も、研究は続いたそうですね。
大江:吸収されることは証明できたものの、「なぜ、高分子であるヒアルロン酸が体内で吸収されるのか」というメカニズムの部分がまだ解明できていませんでした。「吸収されない」という反対説も少なからず残っていましたので、それを科学の力で誰もが納得できるように説明したかったのです。
――メカニズムの解明でどんなことが分かったのですか?
木村:ヒアルロン酸は分子量が数十万以上に及び、胃や小腸の消化酵素ではほとんど分解されません。そんな高分子のヒアルロン酸が、ヒトの腸内細菌で低分子のオリゴ糖に分解され、体内に吸収されることを確認しました※5。社外の専門家の方々にも協力いただきながら、ヒアルロン酸が体内に吸収されることを示す強いエビデンスを得ることができました。その後の研究で、吸収されたヒアルロン酸が、血液やリンパを介して皮膚を含めた全身へ移行することも分かっています※6。
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図2 ヒアルロン酸の肌の保湿機能のメカニズム
30年つないだ研究のバトン。市場創出から、その先へ。食品用ヒアルロン酸研究が描く未来
――かなりの知見が蓄積されたようですが、まだ研究することは残っているのでしょうか?
木村:我々だけでなく、これまで食品用ヒアルロン酸の研究や事業化に関わってきた全ての皆さんのおかげで肌への機能はエビデンスが揃い、今回の受賞につながったと思います。一方で、ヒアルロン酸が体内でどのような役割を果たしているか、まだ解明されていないことも多くあります。再生医療への応用など可能性は無限大で、ヒアルロン酸はまだまだおもしろい発見が眠っている研究対象だと思います。
――それは楽しみです!最後に皆さんが描いているヒアルロン酸の未来を教えてください。
大江:長年研究を続けてきたことで、基盤となるエビデンスはかなり蓄積され、市場でもアカデミアの中でも認めていただけるようになりました。この先は、肌の保湿以外の機能やそのメカニズム解明にチャレンジして、もっとお客さまに喜んでいただける研究を続けたいです。
栗山:ヒアルロン酸の機能性は肌の保湿以外にも可能性が広がっていると思います。新たに見出された多様な機能性を生かし、お客さま一人ひとりの悩みに寄り添う商品開発に挑みます。
松岡:世界に目を向けると、まだ食品用ヒアルロン酸の認知が低い国や地域も多く、開拓の余地があります。日本で培った経験やエビデンスを生かし、海外展開の拡大も目指していきたいです。
金光:食品以外では、近年、海外を中心に美容整形や医療機器などの領域でヒアルロン酸の需要が大きく伸びています。キユーピーは、国内におけるヒアルロン酸のトップメーカーであり、食品用ヒアルロン酸に関しては市場をゼロから創り上げたパイオニアでもあるという歴史と自負があります。これからも原料供給メーカーとして歩みを止めることなく、社会に役立つ新しい価値と未来の成長を創り出していきたいですね。
※1 梶本 修身, 小田中亘, 坂本 和加子, 吉田一也, 高橋丈生, 乾燥肌に対するヒアルロン酸含有食品の臨床効果. 新薬と臨牀, 2001; 50(5):90-101.
※2 Oe M, Mitsugi K, Odanaka W, Yoshida H, Matsuoka R, Seino S, Kanemitsu T, Masuda Y. Dietary hyaluronic acid migrates into the skin of rats. ScientificWorldJournal, 2014; 2014: 378024.
※3 キユーピーアヲハタニュース 2015年 No.40参照
https://www.kewpie.com/newsrelease/archive/2015/40.html
「機能性表示」本品にはヒアルロン酸Naが含まれます。ヒアルロン酸Naは肌の水分保持に役立ち、乾燥を緩和する機能があることが報告されています。食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。本品は、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。本品は、医薬品ではありません。
※4 Kawada C, Yoshida T, Yoshida H, Matsuoka R, Sakamoto W, Odanaka W, Sato T, Yamasaki T, Kanemitsu T, Masuda Y, Urushibata O. Ingested hyaluronan moisturizes dry skin. Nutr J. 2014; 13: 70.
※5 Akazawa H, Fukuda I, Kaneda H, Yoda S, Kimura M, Nomoto R, Ueda S, Shirai Y, Osawa R, Isolation and identification of hyaluronan degrading bacteria from Japanese fecal microbiota, PLOS ONE, 2023; 18: e0284517.
※6 Kimura M, Maeshima T, Kubota T, Kurihara H, Masuda Y, Nomura Y, Absorption of orally administrated hyaluronan, J. Med. Food, 2016; 19: 1172-1179.
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