名古屋の街に根付いて70年。懐かしさで親しまれてきた老舗洋菓子店が、3代目の手で新たな一歩を踏み出しました。変わるもの、変えないもの。その選択の裏にある思いと、リニューアル初日の舞台裏を追います。
■地元で愛されてきた老舗洋菓子店
名古屋市瑞穂区にある老舗洋菓子「お菓子工房オランダ」。1953年の創業以来、この地で営業を続けてきました。

常連客:
「もう30年以上」
別の常連客:
「親の代からなので、もう50年くらい」
「オランダ」といえば、全国的にもファンが多い、かわいらしい見た目の「たぬきケーキ」が有名です。
そんな老舗が、2025年12月に店名を「クランツ」に改め、リニューアルオープン。長い歴史の中で、新たな一歩を踏み出しました。

3代目・伊輿田哲也さん:
「ドイツでウィーン菓子を修行してきた。学んできたお菓子と、しっかりマッチングさせた店を作りたかった」
「オランダ」時代のケーキも残しつつ、哲也さんが挑戦する新しいケーキも並ぶ店へと生まれ変わりました。
■リニューアルオープン当日の舞台裏
2025月12月、リニューアルオープン当日。早朝からスタッフ総出で、オープンに向けた仕上げ作業が進められます。厨房も改装されたため、慣れない環境の中、刻一刻とオープンの時間が迫ります。

哲也さんの母:
「わくわくなんですけど、品物が並ぶかどうか心配」
オープン30分前。スタッフは急ピッチでケーキの仕上げと陳列に追われます。オープン5分前、新しいレジがうまく起動しないことが判明。
哲也さん:
「あるあるだと思うけど、ハプニング続出」

何とか間に合わせ、午前10時にグランドオープン。
哲也さん:
「とにかく品物が切れないように、作り続けなければいけない」
作り置きはせず、常にできたてを提供するのが、「オランダ」時代から続く伝統です。

哲也さん:
「いちごの『ミルフィーユ』は、表面は木苺のジャム、ザクザクの食感の中にもミルキーな味です。『紅まどんなのタルト』は、すごくジューシーでおいしいですよ」

さらに、「オランダ」時代に人気だったシュークリーム(320円)も、思い切ってリニューアル。クッキーシューを乗せて焼くことで、極上のバリバリ食感に仕上げました。濃厚なクリームとの相性も抜群です。
客:
「昔のお店も風情があったけど、これはこれでいい」
別の客:
「違うお店みたい。でもケーキを見て『やっぱりオランダさんだな』って温かさを感じます」

変わらぬラインアップと温かい接客に、客たちも安心した様子です。
■3代目が満を持して送り出す新たなケーキも登場
リニューアルを機に、新たなケーキも登場しました。
3代目が満を持して送り出すのが、「ザッハトルテ」(780円)。グラズールと呼ばれるチョコレートで生地をコーティングし、独特のパリフワ食感が楽しめる、オーストリア・ウィーン発祥の伝統菓子です。

神奈川県にあるウィーン菓子工房「リリエンベルグ」で修行をした哲也さんにとって、このケーキには特別な思いがあります。
哲也さん:
「リリエンベルグのシェフが自分の親方。ウィーンで修行してきて、日本に『ザッハトルテ』を持ち込んだ第一人者と言ってもいい方。とにかくこれを叩き込まれた」

実は「ザッハトルテ」は、「オランダ」時代も曜日限定で提供しており、復活を待ち望んでいたファンもいました。
客:
「一度、誕生日ケーキで頼んだことがあって。チョコレートが濃厚で、クリームをつけるとすごくおいしい」
■受け継がれる伝統と“たぬきケーキ”の復活
多くの人が訪れたリニューアルオープン初日。しかし、ファンの間からは、あるケーキを心配する声も聞かれました。
客:
「タヌキあったら買おうと思ったけど…今日はないみたい」
別の客:
「『たぬきケーキ買ってきて』って言われて。でも無いので、どうしようかな」

「オランダ」時代に絶大な人気を誇った、チョコレートで作られたタヌキの顔が特徴の「たぬきケーキ」。懐かしのバタークリームを使ったケーキですが、ショーケースには並んでいませんでした。
哲也さん:
「たぬきケーキは、今お休みしていて。作業的に、なかなか厳しい部分があって」
リニューアルの忙しさから、手間がかかるたぬきケーキは一時的に製造をストップしていました。
26年1月中旬、再び店を訪ねると。
哲也さん:
「復活です。大変だから止めようと思った時もあったけど、母親が『欲しいお客さんがいるから、頼むからやってくれ』って」
長年愛されてきた店の看板メニューを無くしたくない。その思いから、たぬきケーキは復活しました。

哲也さん:
「たぬきケーキは、ずっと続けていきます」
変える勇気と、変えない覚悟。その両方を胸に、3代目の挑戦はこれからも続いていきます。
