韓国とは無関係の写真

3月20日付の産経新聞朝刊が、興味深い記事を一面で掲載した。

韓国の小学6年生が使う国定教科書には「強制労働に動員されたわが民族」との説明が付いた写真が掲載されている。やせ細った男性10人が上半身裸で立っている様子を写していて、一見して悲惨な状況に置かれていた事が分かる写真だ。だが産経新聞によると、この写真は韓国とは全く無関係で、1926年に旭川新聞が道路建設現場での虐待致死事件を報じた際に掲載されたのものだという。

いわゆる「徴用工」をめぐる訴訟で日本企業敗訴の判決が確定し、日韓関係の根幹が揺らいでいる中、韓国側が誤った写真を使って「日本による強制労働の悲惨さ」を子供たちに教え込んでいるのなら、由々しき問題だ。

「日本の悪行」を書き連ねた教科書

早速、その韓国の教科書「社会6-1」を購入して、内容を確認してみた。

この教科書は日本統治時代以降の韓国近現代史を教えるためのもので、230ページ以上あり、フルカラーの豪華なつくりだ。問題の写真は、「国を取り戻そうとする様々な努力を調べてみましょう」という章に掲載されていた。

「韓国語の代わりに日本語を使うように強要された」
「我が国の歴史を歪曲した」
「神社に強制的に参拝させられた」
「名前も日本式に変えなければならなかった」
などと、韓国から見た「日本の悪行」が書き連ねられている。

そして、「日帝(※戦前の日本を指す言葉)は1937年に中国と戦争を起こした。 以後我が国の人々は武器工場で働く労働者や戦争軍人として強制動員された」との記述に合わせて、「強制労役に動員されたわが民族」という説明文とともに、確かに問題の写真が掲載されていた。
 

 
 
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韓国政府は間違いを認めた

この教科書は国定教科書であり、韓国教育省の教科書政策課が担当している。そこで、教科書政策課にこの写真について聞いてみると、以下の回答だった。

「報道(※産経ではなく韓国の保守系メディア)を通じて問題が指摘されて、私たちが歴史専門機関に問い合わせた結果、写真は1926年の記事で掲載されたもので、強制動員は1938年の動員令によるものなので、写真は徴用と無関係であることを確認した。」「間違いだと認知できずに教科書に掲載されたが、間違いと確認されたので、訂正する予定だ。」

産経新聞による報道の前に韓国メディアから同様の指摘があり、誤った写真だったと確認したため、来月中旬までに教育機関に対して訂正を通知するという。

実はこの写真は以前から韓国の教科書に掲載されていて、産経新聞はおととし4月に間違いを報道している。韓国教育省はもっと前から間違いを把握していたはずで、なぜ訂正までこんなに時間がかかったのか甚だ疑問ではあるが、間違いが正されるのは歓迎すべきことだ。しかし、残念ながらこれで問題は解決したとは言えない。

誤った「徴用工」写真はすでに世界に拡散した

実はこの写真は去年11月29日に、ロイター通信によって世界中に配信されている。いわゆる徴用工関連の訴訟を報じるニュース映像の中に含まれていて、「South Koreans who were forced to come to Hokkaido(北海道に強制連行された韓国人)」とのみ、説明がなされている。

ロイター通信によると、「日本軍“慰安婦”サイバー歴史館」から提供を受けたという。この歴史館は、韓国の女性家族省が運営している。つまり韓国政府直営で、日本統治時代の様々なデジタルデータを保管しているというのだ。

歴史館の担当者に聞いてみたところ、「確認が必要だ」との事で、ロイター通信に間違いだったと伝えるのかを含めて、対応策について回答しなかった。教育省も女性家族省も同じ韓国政府の機関だが、情報共有はなされていないようだ。

だが、こうしている間にも、1926年に撮影され、朝鮮半島とは全く無関係の「悲惨な男性たちの写真」は、「日本による強制労働の被害者である韓国人」として、世界中にバラまかれたままとなっている。

韓国の歴史教育とPR戦略への対抗を

今回改めて韓国の教科書を見て感じたのは、近現代史を教える分量が日本に比べて圧倒的に多いという事だ。韓国の小学校では、これらの教科書を使って、韓国から見た日本統治時代の日本の行いが徹底的に教育されている。その結果、インターネット上などで日本を歴史問題で攻撃するVANK(Voluntary Agency Network of Korea)などの民間団体に参加する若者が育つことになる。

VANKのメンバーは10万人を超えているとされ、英語などの外国語を駆使して、国際世論を韓国有利に導こうと活動している。しかし、そういったPR活動には、今回のように誤った写真や資料が使われる事がある。

日本の研究者によると、韓国側は文献批判を徹底せずに、一見してそれらしい資料や、見た目のインパクトが強い写真に飛びつき、使ってしまう傾向があるという。その結果、誤ったイメージが流布される事になる。日本政府には、そうした間違いを積極的に指摘し、正していく姿勢を求めたい。歴史問題を公正に解決するには、誤った資料を可能な限り排除し、正確な資料だけを俎上にのせる必要があるのではないだろうか。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】
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渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。