染みついてしまった“負け癖”

日本記者クラブで会見した小泉進次郎議員ら
日本記者クラブで会見した小泉進次郎議員ら
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「どんなに小さくてもいいから、何かをかたちにしたという『成功体験』が必要なんです」
平成最後の臨時国会が終わった今月14日。自民党の小泉進次郎議員は都内で開かれた会見で、自身が主導してきた国会改革について、「小さい」と批判の声があることにこう反論した。

 国会改革に向け小泉氏は今年6月、自民党若手議員らとともに「政治不信を乗り越えるための国会改革」の提言をまとめた。さらに小泉氏は、平成の時代が終わるまでに国会改革を実現するため、超党派で「党首討論の定例化・夜間開催」「国会のIT・ペーパレス化」「女性議員の妊娠・出産時の代理投票」の改革案をとりまとめた。

しかし臨時国会では、入管難民法改正を巡る与野党の対立で、議論は深まらず、「小さな」改革案が実現されることはなかった。

 「じゃあなぜ小さいことが、いままでできないんですかね」小泉氏は反論を続けた。

「国会改革は『合意すれども実現されず』の歴史です。いまから4年前に7党の国対委員長によってサインが交わされて、総理大臣や外務大臣はあまり委員会に縛らず、副大臣をもっと活用すべきだとか、党首討論の定例化はすでに入っているんです。しかし与野党のその時の状況によって、総理大臣の出席が国会の中の取引カードに使われたり、なし崩しになって今までの合意は全部通らない」

国会改革はこれまで何度も議論され、2014年には与野党合意が行われた。合意されたのは「党首討論の月1回開催」「総理出席の削減」「副大臣答弁の活用」「質問通告ルールの遵守」だったが、いまだ十分に実行されていない。

小泉氏は「だからもともと国会改革は動かないという、できっこないという『負け癖』が染みついているんです」という。
「『負け癖』がついていることを変えて、国会改革はできるという自信を持つためには、どんなに小さくてもいいから与野党一緒になって何かをかたちにしたという『成功体験』が必要なんです」

国会改革に挑む小泉氏の言葉は凡庸で退屈

 
 

 著者はこのプライムオンラインで、自民党総裁選の投票に小泉氏が込めた想いを記事にした

小泉氏は石破氏支持であることを投票直前に明らかにしたが、当時メディアからは「どっちつかず」「両方にいい顔をした」と散々叩かれた。しかし著者は、この判断をした小泉氏を、「老獪で冷徹、したたかに政界を生き抜く政治家の姿だ」として、「2018年は小泉氏にとって、政治家として進化を続けるうえでターニングポイントになるのかもしれない」と書いた。

会見で小泉氏の言葉を聞きながら、著者は小泉氏の政策実現の手法も、2018年はさらなる進化へのターニングポイントになるのではないかと感じた。
「農林中金はいらない」。かつて農業改革でJAグループに挑む際、小泉氏はこんな刺激的な言葉で宣戦布告した。さらに人生100年時代に向けた社会保障改革の提言では、「レールをぶっ壊す」と父・純一郎元総理を彷彿させる言葉を使って、改革の狼煙を上げた。

小泉氏が語る言葉は、国民の注目を集め、期待を膨らせ、熱狂させた。
しかし、国会改革に挑む小泉氏が発する言葉は、凡庸で退屈だ。

「とにかくひとつかたちにする。かたちにするにはやっぱり期限を切らないといけない。だから平成のうちにと期限を切って、ようやく次の通常国会にラストチャンスが来る」

そこにあるのは、政策実現に向けたリアリストの姿だ。野党が「これならば飲める」という落としどころを探りながら、まず実績を作る。政策を実現するためには、ときに困難な「ナローパス(狭い道)」を歩まなければいけない。小泉流の政策実現術は、よりリアリズム、実利主義に変わったのだ。

厚労部会長としての采配

実は、小泉氏の政策実現の手法の変化は、厚労部会長として采配した社会保障制度のさまざまな見直しにも見られた。その一つが、「ねんきん定期便」の改革だ。「ねんきん定期便」とは、加入者に毎年1回届くハガキや封筒で、これまで納めた金額や将来受けとる見込みの金額などが記載されている。「ねんきん定期便」は、「文字が多く見づらくて、わかりにくい」と言われたが、今回その文字量を半分にする見直しをおこなった。さらに、「受給開始年齢を選択でき、受給を遅らせると年金額が増加する」ことも記載した。

 今の年金制度では、受給を開始する年齢は60歳から70歳まで自分で選ぶことができる。また受給開始を70歳にすると、65歳で年金の受けとりを開始するのと比べ、年金額が最大42%増える。しかし、「ねんきん定期便」にはこうしたことが記載されておらず、70歳開始へと繰り下げている人は1%程度しかいない。「ねんきん定期便」の見直しは、小泉氏が目指す「選択できる社会保障」を実現するための地道な一歩なのだ。

 この見直しには、イギリスで活用されている「ナッジ(nudge)」という手法が導入された。ナッジとは、行動経済学の分野で提唱されている手法で、人間の心理を動かして、よりよい行動・選択を自発的にするよう促すものだ。「年金の受給時期を変えることで、年金の受取金額がどう変化するか」記載することで、人々に選択肢を提示し、よりよい選択をしてもらうのが、ナッジを導入した「ねんきん定期便」改革の狙いだ。

また小泉氏は厚労部会長として、「妊婦加算」を凍結に追い込んだ。妊婦が医療機関の外来を受診した際に負担が増えるという「妊婦加算」は、今年4月から導入され、事実上の妊婦増税とまで言われていた。早くから子ども・子育て世代に手厚い社会保障を訴えていた小泉氏がこれを許せるわけがない。小泉氏が問題視すると、注目が一気に高まり、厚労省は「妊婦加算」をすぐさま凍結せざるをえなくなった。

先の会見で小泉氏は、「(妊婦加算の凍結は)国民の声が政治に響いた結果だと思っている」と語った。
「そして政治の中でもその声が届いていて、予想を超える速さと予想を超える結果を出す、この一つ一つの積み重ねが私は必ず生きると思う」
「ねんきん定期便」改革や「妊婦加算」凍結にみる新しいメソッドやテクノロジーの導入、そしてスピード感は、まさに小泉氏の真骨頂だ。「ポスト安倍」人気NO1の小泉氏には、常に過大な期待が寄せられる。

「まだ発展途上」な小泉進次郎

 
 

先の会見には、チーム小泉の主要メンバーであり、小泉氏の「女房役」福田達夫議員も同席した。福田氏は小泉氏を指してこう言う。
「皆さん、小泉進次郎を過大評価しすぎですよ。未完成なところもあるかもしれませんし、まだまだ発展途上であります。もう少し長い目で『刈り取り』をしないで見ていただく必要があると思っています」

メディアの喧騒から距離を置き、よりリアルに政策実現術を進化させる小泉氏の次なる展開から目が離せない。

(執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

 
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。