注目を集める「非認知能力」教育

誰もが子どもの将来に役立つものを…と考え、悩み、どのような教育をしていけばいいのか模索しているだろう。いい大学に入って、いい企業へ。そのために、塾や習い事へと通わせている親もいるかもしれない。一方で今、注目を集めている教育がある。それは「非認知能力」。その良さを訴えるのは、2017年の『全米最優秀女子高生』コンクールに優勝した娘を持つ、日本人女性のボーク重子さん。

自身の人生も変えた「非認知能力」はどう家庭で育めるのか、その体験や実際にチャレンジできる知識を著書『「非認知能力」の育て方』(小学館)で記している。今回、ボークさんに、そもそも非認知能力とはどういった能力なのか。その能力を得たことで、我が子にどんな影響があるのかを聞いた。

 
 
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「できない」が積み重なると自己評価が低くなる

「非認知能力」という言葉に出会ったのは娘・スカイさんが幼稚園の頃。当時は「非認知能力」という言葉も知らなかったが、ただ「自分らしく娘が生きていけるように」と願い、そんな教育をしてくれるところを探していたという。

そこで見つけたのが、ワシントンDCにあった「ボーヴォワール校」。4歳から9歳までを教育するこの学校では、個性を尊重して、自分で考える力を引き出すことにフォーカスを置いた、まさに「非認知能力」を高めていく教育をしていた。

日本の教育を受けてきたボークさんにとって、その教育は衝撃的だったという。

「たとえば、私は逆立ちができません。認知教育主流の日本の教育では“できる”ことが当たり前で、逆立ちが“できない”のは落ちこぼれになってしまうんです。そして、“できない”が積み重なっていくと、自己評価が低くなっていきます。ですが、『非認知能力』にフォーカスした教育は、“できない”子に『できないけれど、できるように頑張っている』と、プロセスを評価する。また、他にできることは何だろう?と一緒に探してくれる。それは、自己肯定感や心の強さ、生きる力などいろいろな能力を高めてくれるんです」

「非認知能力」は学力ではなく、主体性、自己肯定感、想像力、自制心、やり抜く力、社会性など人間としての基本的な力のことを指す。この言葉が注目されるようになったのは、2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の幼児教育の研究からだ。一方で、IQテストや試験で測定できるような能力のことを「認知能力」という。

「1+1=2」に50分かける意味

 
 

そもそもボークさんはなぜ、子育ての中で「自分らしく生きていけるように」を重視したのか。そこにはボークさんのある思いがあった。

「子どもが生まれた時に、親はいろいろなことを望みます。私の場合は情けないことに『私のようになってほしくない』というのが浮かびました。その頃は、自分のダメなところばかり見ていて、自信がありませんでした。でも、娘には強い気持ちで、幸せと成功を見つけてほしいと思い、調べていく中で『非認知能力』という教育を見つけました」

明るく、ボジティブに話すボークさんからは想像できない昔の姿…。

だが、最初は非認知能力の教育に「すごく非効率的な気がして、イライラしました」と振り返った。学力を中心とする「認知能力」はテストの点数や成績表などから、いい点数であれば良いというように、でき具合が数値で見えるが、主体性、自己肯定感などといった精神面の能力は数字で見えにくく、すぐに成果が出るものではない。

「初めて授業を見に行ったとき、1+1=2を50分かけてやるんです。すごくイライラして…。『2』以外、何の答えが出るの?と。でも、先生は目の前にあるものを使って、1+1=2がどういうものか考えましょうと子どもたちに言うんです。」

「こんな授業で大丈夫かと不安になったんですが、先生は『好きな答えの導き方や楽しんでやることが重要。ムダ!と思っているかもしれないけど、自分なりの方法を見つけ、好奇心が芽生え、つまらなくてやりたくないという感情も生まれ、でもやらなくてはという自制心も働き、最後に発表することで、自分が考えたことを褒められて、幸福感や満足感に繋がる。50分でこれだけのことが子どもたちの中で起こっている』と私に言ったんです」

それを聞いたボークさんは「確かに、目に見えないけれど、見えないものを育てていくには、1+1=2に50分かける必要がある。その答えが1秒で導けるのと、50分かけるのでは得られるものが違うんです」と目を輝かせた。

親の役割は子どもの『パッション』をサポート

「非認知能力」の大切さは分かりつつも、親は我が子の将来のためにいろいろな習い事をさせてあげたいという親も多いだろう。

だが、子どもがやりたいことと親がやらせたいこと。ここに隔たりが起きた時に、親はどうすればいいのか。スカイさんもバレエを習っていたというが…。
「バレエはすごく大変な世界で、幸せなことよりも苦しいことの方が多かった。娘はバレエに向いた骨格ではなく、努力しても、バレエに向いた骨格で生まれた子には負けてしまうんです。一方で、娘は運動神経がよく、スキーやモーグルも得意で、そこを伸ばしていけば、バレエよりもっといい成績が残せたかもしれません。」

「ですが、我が家では、習い事は技術・知識の習得ではなく、『非認知能力』を身につけるためのものと考えていました。いい成績が残せそうだからではなく、ただ好きなことをやる、それだけです。好きはすべての入口、『パッション』があるかどうか。習い事は上達方法を自分で考え、分からなかったら人に聞く、失敗したり、立ち上がったり、やり抜く力、社会性、協同力を伸ばして学ぶ、それが習い事」

そして、ボークさんは「子どもがパッションを向けるものを『ダメ』と言うのではなく、サポートするのが親の役割」と話した。

AI時代に必要な能力も「非認知能力」

2015年に野村総合研究所は、10年から20年後に日本の労働人口の約49%が人工知能やロボットなどへ代替することが可能になると発表している。今ある仕事がAIに奪われ、知らないうちになくなっている仕事もあるだろう。今の子どもたちが大人になったときの「仕事」は、全く別のモノになる可能性だってある。

そんな時に、必要とされるのも「非認知能力」だとボークさんは話す。

 
 

「2020年の日本の教育改革はとてもインパクトがあると考えています。今までの教育は『知識・技能の習得』がメインでした。ですが、2020年からは理解したことをどう使っていくかといった資質の『思考力・判断力・表現力』と、どう世界と関わっていくかという資質の『学びに向かう力、人間性など』が加わります。2つの柱が追加されることで、教育現場も混乱、困惑しているといった声が届いています。だからこそ、家庭の中でも非認知能力の教育をやらないといけないんです」

では、家庭ではどんなことができるのか?著書の中では、世の中にはルールがあるということを学ぶために「家庭のルールづくり」、表現する力と自信を養うために「豊かな対話とコミュニケーション」、遊びの中から問題解決能力を伸ばすため「思う存分、遊ばせる」ことなど5つのポイントを挙げている。

「宿題や習い事など忙しい中でも、週末10分だけでもいいので親子全員で何かをやってください。たとえば、お子さんが好きな映画や本、気になるニュースからみんなで自由に意見交換、ディスカッションを。もちろん、これをやったからといってすぐに結果がでるわけではありません。ですが、積み重ねれば確実に力になります。そして家族という一番大切なコミュニティーの結束が強くなりますので、ぜひ、家庭でやってください」

結果が目に見えるものは、子どもだけでなく親も自信になる。しかし、目の前のことばかりにとらわれず、長い人生の中で我が子はどう未来を生きていくのか?を考えながら、じっと見守り、サポートすることも大切なのだろう。

【後編】「『今日の成功ノート』を作り自分を褒める できることから始める“大人の自分”の育て方」
https://www.fnn.jp/posts/00400240HDK

ボーク重子
ICF米国国際コーチング協会認定ライフコーチ、アートコンサルタント。福島県出身、米・ワシントンDC在住。1998年に渡米後、出産。子育てをしながら2004年にアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年にはワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)と共に、「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。現在は全米・日本各地で子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを開催中。著書に『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)などがある。
 

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プライムオンライン編集部
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