トランプ大統領が新天皇面会第一号

皇太子さまが天皇に即位後に初めて面会される外国の首脳が、アメリカのトランプ大統領になる方向だという。日米両政府は、トランプ大統領が2019年5月1日から6月下旬のG20サミットの間に国賓待遇で来日する調整を始めている。加えてG20首脳会議のために大阪を訪れることになるため、アメリカ大統領が短期間で連続して来日する異例の日程になるのだそうだ。

2017年11月 天皇皇后両陛下と懇談するトランプ大統領夫妻
2017年11月 天皇皇后両陛下と懇談するトランプ大統領夫妻
この記事の画像(6枚)

このニュースを聞いて即座に思ったこと。それは、6月28~29日とされるG20首脳会議までに日米物品貿易協定(TAG)の交渉で大筋合意の見通しがなければ、トランプ大統領はG20への参加は見送ることになるだろうという展開だ。

 
 

大統領の頭の中を推測するなら、『即位したばかりの天皇陛下に一番で面会できたし、改めてG20に出かけるというのなら何か大きな誘因がなければなあ‥ そうだ、それまでにTAG交渉が妥結しなければ大阪には来てもらえないと日本側に思わせれば、格好な圧力になるじゃないか』という思惑だ。

トランプの交渉テクニック

『相手を不自由な立場に追い込んで譲歩を迫る』のは大統領の交渉テクニックの基本だ。
米韓FTA改定交渉では在韓米軍の削減も辞さないと脅しをかけたし、日本やEUに対しては乗用車への25%の輸入関税を梃に貿易交渉入りを受け入れさせた。

合意の期限で相手を追い込む場合も同じだ。NAFTA改定交渉では、カナダが期限内に譲歩しないならアメリカとメキシコだけで見切り発車すると圧力をかけた。アメリカ議会に対しても、近くNAFTAからの離脱を通知する。ブエノスアイレスでトランプ大統領も署名したUSMCA=改定NAFTAを6ヶ月以内に承認(事実上の批准)しないと、「合意なき離脱」の事態を招くぞ!と野党民主党をコーナーに追い込もうという作戦だ。

トランプ大統領が大阪のG20を欠席!という事態は、安倍総理は何が何でも避けなければならない。20ヶ国・地域の首脳が集う会議の議長役は、国際的な晴れ舞台だ。そこに同盟国首脳でシンゾー・ドナルドの片方が不在なんてことはあり得ない。日本の国内政治的にも大打撃だ。

トランプはマルチの枠組みが大嫌い

 
 

『トランプ大統領の欠席』に現実味があることがさらに厄介だ。大統領はマルチの枠組みが大嫌い。自分が孤立することが分かっているからだ。ブエノスアイレスG20では温暖化対策で「1対19」だった。自由貿易をめぐってもそうだ。それは大阪G20でも同じだろう。

多くの日数がかかる外遊も嫌いだ。東アジアへの歴訪は就任の年は途中で切り上げ、今年は最初から見送ってペンス副大統領を派遣した。中国は首脳会議の出席は国家主席と首相で分担している。なぜアメリカは大統領がすべてに出なければならないのか? 余程の誘因がなければ副大統領の派遣で十分だ!

大統領自身がTAG「妥結」を喧伝

で、その「誘因」はTAGをおいて他にない。「アメリカに有利な貿易交渉」はトランプ大統領の看板政策だ。支持層に対するアピールとしても大きい。だからこそトランプ大統領は、米韓改定FTAにもUSMCAにも自ら署名した。

TAGについても署名の90日前までにアメリカ議会に合意内容を通知しなければならないので、日程的に大阪で「署名」は現実的ではない。しかし「妥結」発表なら大統領本人が「日本の不公正な貿易を正した」と喧伝できる。首脳共同声明の発表というセレモニーだってあり得る。そして来年11月にペルーで開かれるAPEC首脳会議の機会にシンゾー・ドナルドで「署名」すれば、2020年大統領選挙で成果として誇ることができ、トランプ大統領にとってはタイミングもバッチリだ。

 
 

そんなに陛下との面会とTAGと大阪G20のタイミングがびみょーなのであれば、G20直前に陛下に面会する日程にすればTAG妥結のするしないとは切り離せるのでは?と思われるかも知れない。だが、それでは「最初の外国首脳はトランプ大統領」とその他の外国首脳との無理のない面会日程の両立が難しくなる。中国の習近平国家主席との面会タイミングも関わってくる。即位したばかりの天皇陛下の日程を貿易交渉の成り行きによって、決めるべきものも決められない状態にする訳にもいかない。前広にお願いしておく必要があるのだ。

日本政府の思惑は

 
 

そう考えると日本政府の思惑は;
・「ドナルドが最初」そして国賓待遇のダブル厚遇でトランプ大統領を歓待
・TAG妥結をセットにすることで大阪G20への大統領出席と首脳会議の成功を確保
・大統領が短期間で連続訪日という異例の日程によって、強固なシンゾー・ドナルド関係をアピール
・という日米関係を基礎に、G20にあわせた習近平主席、プーチン大統領との首脳会談に全力投球
ということと思われる。

ここら辺はアメリカ政府としても先刻承知だろう。その上で、日本はTAG交渉でどれだけ頑張れるのか、それとも想定以上の譲歩を迫られるのか。夏には参院選が見えていることもあり、交渉担当者にとっては胃薬を手放せない2019年前半となるに違いない。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)

風間晋
風間晋

通訳をし握手の感触も覚えていたチャウシェスクが銃殺された時、東西冷戦が終焉した時、現実は『過去』を軽々と超えるものだと肝に銘じました。
「共通の価値観」が薄れ、米も中露印も「自国第一」に走る今だからこそ、情報を鵜呑みにせず、通説に迎合せず、内外の動きを読み解こうと思います。
フジテレビ報道局解説委員。現在、FNN Live news α、めざまし8にレギュラー出演中。FNNニュースJAPAN編集長、ワシントン支局長、ニューヨーク支局記者など歴任。