いまや「総理にしたい政治家」No.1の自民党小泉進次郎筆頭幹事長。
果たして小泉氏は、多くの国民が期待する通り、総理となることができるのか?
ここでは、小泉氏のこれまでの「進化」の過程を振り返り、その資質を問うていく。今回検証する「進化」のステージは、農業改革だ。

「週末練。朝8時に議員会館で」

「ひとつ明らかなことがあります。それは今までこの農林部会で農政のためにご努力されてきた誰よりも農林の世界に詳しくないということです」

東北の復興や地方創生に深く関わってきた内閣府政務官の職を2015年10月に離れ、党に戻った進次郎に与えられたポストは、まさかの農林部会長だった。

 
 
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農業分野に初めて関わる進次郎が、果たして農林族や農業団体の利害調整を行えるのか、疑問視する声も上がった。
農業改革では、JA側から「農協潰しだ」「小泉ふざけるな」と反発の声が上がる中、「骨抜き」「失速」と酷評されながらも一応の決着をみた。

 
 

実はこの改革を影で支えてきたのが、農水省の若手官僚チームだった。
農業改革を進めるにあたって小泉氏は森山裕農水大臣(当時)に、「議論できる若手を選定してほしい」と頼んだ。
選ばれた「生きのいい、小泉さんと同世代」の若手官僚は15人程度。そのメンバーに話を聞いた。


 ――なぜ小泉議員は若手を選んだのでしょう?

A:同世代で議論しやすいと思ったんでしょうね。

:部会長は、ゼロベースで議論したいという希望が大きかったですね。「週末練」といって、朝8時に議員会館で、『私服でいいよ』と言うから、みんな私服で集まったら、部会長だけがスーツ姿で、あれ?みたいな(笑)。

:部会長も、「農業・農政については素人、これから勉強する」と言うので、一緒に勉強したという印象です。

――集まってどんなことを議論したのですか?

:最初の頃は毎週でした。部会長はすごく勉強されて、農水省の幹部が説明に来たときに疑問に思うことがあると、「本当にそうなのか」と週末にみんなで議論して。

:普通、役所だと上司の了承を得た見解を出すのですが、我々は事務次官から「私見で言っていいよ」と言われていたので、皆「私見ですけど」と言いながら意見を出していました。
 

「農業の技術革新て、これから進むんだよね」

――省内の上司の反応はどうでした? 何をやっているか教えてくれ、といった探りはありましたか?

:たまに偉い人から、「最近、(チーム小泉は)なに勉強しているの?」と聞かれたりしました。

:部局の雰囲気によるのか、私の場合は、たぶん気にはなっていたのでしょうけど、「何をしゃべったんだ」などとは聞かれませんでした。

このチームでは、小泉PTの議論に合わせて、生産・流通コストなどさまざまな日本の農業の課題について議論を行った。一方で小泉氏は、農業のテクノロジー活用の可能性など、湧き上がる問題意識を若い官僚たちに容赦なく投げかけた。

:草刈用の「ルンバ」をつくろうという話も出てきました。「ああいうの欲しいよね」と。部会長は「やはり農業の技術革新て、これからすごく進むんだよね」、「まだまだ伸びる余地があるよね」という発想から入るので、「こういうのってできるんじゃないの?」と。

:シェアリングエコノミーの農業版とか。「トラクターは稼働時期が短いので、みんなでそれをシェアできないか」とか。

 
 

「チーム小泉は、チーム2050に」

――最後にあなたにとって小泉議員とは? 「チーム小泉」で得たものは何ですか?

:一緒に勉強できて光栄でした。それに尽きます。もし今後、農林大臣や総理になったらみんな全力でお支えします。そういうことを期待させる人です。

:将来の総理候補みたいな先生方とこんな距離感でお話しできるのも貴重でしたし、皆さん意欲的で、それぞれおっしゃる視点も違うんですけど、すごく面白かったです。

:経産や財務省、外交に関心を持ってくださる若手議員はいらっしゃるけど、農林は一部の地域出身の議員だけ、というのがありました。しかし、そういうイメージのない先生が、「農業は大事だよね」と言ってくださるのが、心強くてうれしいなあと。

:部会長とお付き合いして、役所全体も変わってきたなという感じがして。当初は「何をあの若造が」という雰囲気があって、幹部も「どうせまた1年くらいで変わるんだろう、好きなこと言わせておけ」と捉えている空気がありました。しかし、私たちをうまく使って、直球勝負で局長連中ともお付き合いしていくなかで、幹部もマインドが変わっていったなと。

 
 

私は最後に、「チーム小泉は解散しましたよね」と聞いた。
彼らからは「していないです。続いていて、さらに拡大している」という答えが返ってきた。「チーム小泉の意思を継ぎ、今は『チーム2050』と言っています」

「チーム小泉」は、組織上は解散したものの、その精神がかたちを変えて次世代に引き継がれ、根づいたのだ。(続く)

【過去の記事】
小泉進次郎の覚悟①「私は真正面から鉄砲を撃っている」
小泉進次郎の覚悟②「国会では友人はできない」
小泉進次郎の覚悟③「うるさい」と罵倒され足を踏まれても
小泉進次郎の覚悟④「迷ったらフルスイングだ」


筆者:フジテレビ 解説委員 鈴木款
早稲田大学卒。農林中央金庫で外為ディーラーなどを経て、フジテレビに入社。営業局、「報道2001」ディレクター、NY支局長、経済部長を経て現職。今月「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」(扶桑社新書)を上梓。

小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉 (扶桑社新書)
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。