「仮想通貨」での一定以上の利益は確定申告が必要

2017年分の所得税の確定申告が全国の税務署などで始まっています。

国税庁トップの佐川長官が、学校法人「森友学園」への国有地売却についての財務省理財局長時代の国会答弁で批判を浴び、影響が懸念されていますが、この問題とは別に、今回の確定申告は、最近急増している「仮想通貨」取引での課税の網のかけ方や、「医療費」の自己負担で新規に適用される減税制度をめぐって、例年以上に注目度が高いものとなっています。

仮想通貨の相場は、投機マネーが流入するなか、このところ大きく動いていて、予想外の収益を得た人も大勢いるとみられます。

国税庁は、2017年夏に、仮想通貨の所得区分についての見解を示したうえで、年末には所得の計算方法を公表し、課税での取り扱い方を明確にしました。
 

「仮想通貨」と「FX」で得た利益は、税率が異なる

まず、仮想通貨の売却や使用により得た利益は、原則として「雑所得」にあたります。

所得税法では、発生形態に応じて、所得を、「利子」「配当」「不動産」「事業」「給与」「退職」「山林」「譲渡」「一時」と「雑」所得の、あわせて10種類に区分していて、「雑所得」は、「利子所得」から「一時所得」までの9つにあてはまらない所得のことをいいます。

会社員など給与所得者は、雑所得を含め、給与以外の所得が、20万円を超えると、確定申告が必要になります。

仮想通貨の取引での所得が、雑所得だとされたことで、給与などほかの所得と合算して課税する「総合課税」の対象となり、所得の高い人ほど多く納税する累進課税方式が適用されて、所得税と住民税をあわせた税率が、15%から55%の7段階で課税されることが明確になりました。

最近、仮想通貨では、手元の自己資金を「証拠金」として、 レバレッジをかけ、手持ち資金の数倍から数十倍の金額で取引を行うケースも増えていますが、同様に、証拠金をもとに、外国通貨を売買するFX=外国為替証拠金取引での所得は、同じ雑所得でも、「先物取引に係る特例」が適用され、所得税・住民税あわせての税率は一律20%となっていて、その扱いには大きな差があるといえます。
 

「仮想通貨」取引での損失は給与所得と相殺できない

さらに、課税対象となる所得は、仮想通貨の「売却」「決済」「交換」などにより利益が生じた場合に計算されます。

つまり、仮想通貨を売却して日本円に換金したり、商品を購入する際の決済に使ったり、あるいは、ほかの仮想通貨と交換したりしたときに、所得を計算するというわけです。

たとえば、50万円で1ビットコインを購入したあと、60万円に値上がりしたと仮定し、その時点で別の仮想通貨イーサリアムに交換したとすると、差額の10万円から取引手数料などを差し引いた額が、所得金額となります。

「コインチェック」での流出問題や、海外での規制強化を受け、価格が下落している仮想通貨も増えているのが現状ですが、ある仮想通貨から別の仮想通貨に交換した時点で、計算上利益が出ていれば、その後の相場変動により、交換時の取得価額を下回る「含み損」を抱えたとしても、納税義務は免れません。

また、取引時に損失が生じた場合、その損失は、ほかの仮想通貨取引で得た利益からマイナスすることはできますが、給与所得など雑所得以外の所得と差し引き(損益通算)することはできませんし、上場株式などの場合のように、損失を3年間繰り越し、将来出た利益と相殺することも認められません。

このように、雑所得に区分けされ、交換や決済を行った時点で所得金額が計算されるなどの詳細がはっきりしたことで、仮想通貨の利用者が予想していた以上に、税負担は重くなる可能性があります。
 

特定の市販薬1万2000円超購入で減税となる

 
 
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一方、今回の確定申告では、医療費をめぐり、新たに適用されている減税の仕組みがあります。
「セルフメディケーション(自主服薬)税制」と呼ばれるこの制度は、年間医療費が一定額を超えた場合に、税負担を減らせる「医療費控除」制度の特例です。

これまでの「医療費控除」では、治療費、薬代、通院時の交通費などが1年で10万円を超える(所得の合計額が200万円までの場合はその5%を超える)ことが適用条件でしたが、「セルフメディケーション税制」では、特定の市販薬を購入した金額が年間1万2000円を上廻れば、その超過額が、総所得金額から8万8000円を上限として差し引かれ、税が軽減されます。

この特定の市販薬は、もともと医師の処方がなければ買えなかった医療用医薬品を薬局で買えるよう「転用(スイッチ)」されたもので、薬局の「カウンター越しに(Over The Counter)」購入できるという意味で、「スイッチOTC医薬品」と呼ばれ、2018年1月22日時点で1676品目が対象となっています。

病状が軽い場合、病院に行かずに、市販薬を利用して自身で対処することを促し、医療費の削減につなげるのが狙いで、申告する人が、職場の健康診断や自治体のがん検診、インフルエンザの予防接種を受けるなど、健康増進や疾病予防に努めていることが要件です。

たとえば、社会保険料などを差し引いたあとの課税される所得が600万円の人が、家族の分も含め、対象となる市販薬を2017年の1年間で合計5万円分購入した場合、これまでの制度では支払った医療費全体が10万円を超えていなければ、税負担は軽減されませんでしたが、この制度では、所得税・住民税あわせて1万1400円分が減税されます。

「自分の健康は自分で管理しよう」という取り組みにつながることが期待されている新制度ですが、従来の医療費控除制度との併用はできず、 双方が適用可能な場合、いずれが有利なのかを判断するには、実際に計算し比べてみる必要があります。

利幅が急変動する新たな投資対象をめぐる課税と、一定の市販薬購入で減税となる新制度の適用。
所得や税額の根拠となる取引・購入記録の整理や、正確な計算の必要性が一段と増すなか、今回の確定申告は、より一層の精査・確認が求められる場面が多くなりそうです。

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員