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文科省の諮問機関「中央教育審議会」は29日、ブラック職場化している教師の「働き方改革」を行うよう緊急提言をまとめた。

提言では、学校でタイムカードの導入をすすめることや、生活指導や部活に専門スタッフを配置することが盛り込まれている。

教師の長時間労働や過労死が、社会問題となって久しい。

聖職とされる日本の教師には、保護者から「子どものために何でもやってくれる」という期待が強く、教師は本来の業務である学習指導以外にも、生活指導や部活動、保護者の対応までこなさなければならない。

さらに調査や統計など山積みの事務作業もあり、教師の残業時間は増える一方となっている。

欧米では、生徒への指導やカウンセリングは、ソーシャルワーカーやカウンセラーといったサポートスタッフが行う。

また、長時間労働の温床となっている部活動でも、欧米ではコーチ、外部講師といった専門スタッフが担当するケースが多い。

一方、日本では、部活は「やりたい先生がやっているのだから、任せればいいのではないか」といった意識が教育現場にいまだ根強い。

 
 
 
 

29日の審議会では、委員から「先生は部活のために雇われたのではない」と意識変革を求める声や、「過剰な部活動」を抑制するよう求める意見があった。

緊急提言には、スクールカウンセラーや部活動指導員、学習プリントの印刷や授業の準備をサポートするスタッフの増員など、専門スタッフの配置を促進することが盛り込まれた。

これは莫大な予算措置がともなうことになるが、教師の長時間労働是正には必須といえるだろう。

また、学校が長時間労働の温床なのは、「勤務時間」に対する意識の低さが背景にある。

教師の給与について定めた「給特法(教育職員給与特別措置法)」では、管理職が教師に残業を命じることを禁じている。そして、残業代の代わりに本給に4%上乗せした給与を支給することになっている。

つまり、実態からかけ離れた法律が、いまだに運用されているのだ。

このため教育の現場では、「勤務時間」「残業」といった一般企業なら当たり前の意識が欠如し、長時間労働をするのが当たり前になってしまっているのだ。

提言では、勤務時間の自己申告方式をやめて、ICTやタイムカードなどで勤務時間を客観的に把握するよう求めた。

タイムカードは、小中学校の一部ですでに導入されているが、まだ全国の学校の1割程度にとどまっている。

また、教師の休み時間を確保することや、保護者からの問い合わせに勤務時間外でも対応できるよう留守番電話の設置を行うことも盛り込まれた。

 
 

この提言を受けて、教師の夫を過労死で亡くした遺族らの「全国過労死を考える会」が会見を開いた。

 
 

10年前に中学校の教師だった夫を亡くした工藤祥子さんは、「やっとこうした提言が出た」と評価しながらも、「教師の過労死や精神疾患となる事案は多いはずだが、泣き寝入りしている人は多いです」と、過労や精神疾患に苦しむ教師が置かれている現状を訴えた。

教師の過労死や精神疾患の数は年間約500件あると言われているが、文科省はこれまで統計として把握してこなかった。

さらに公務災害の申請件数は年間わずか数件だ。

この理由について、30年前中学教員の夫を亡くした中野淑子さんは、「公務災害の申請には様々な壁があります。申請にはまず所属長を通さなくてはいけませんが、この場合、所属長は加害者です。さらに、手続きが煩雑で長期にわたるし、同僚との関係も気にせざるを得ません」と、申請の難しさを訴えた。

また遺族らは、専門スタッフの配置についても、「正規の職員を採用してほしい。定員を増やす予算措置をぜひ政府にお願いしたい」と政府に求めた。

 
 

遺族らの会見には、「教職員の働き方改革推進プロジェクト」も同席した。

呼びかけ人の名古屋大学の内田良氏は、このプロジェクトの狙いを「給特法は残業をしない前提となっている。労働時間に上限規制を取り入れ、労務管理の意識を導入する」ことだとして、タイムカード導入はその第一歩だと強調した。

また、学習院大学の長沼豊氏は、「部活動の終了時間が勤務時間外に設定されているのが、そもそもおかしい」として、給特法の廃止を求める考えを示した。

教師の長時間労働の是正は、2020年の教育改革の成否を左右する。

このためには、政府、学校はもちろんだが、保護者の理解が重要なカギを握る。

保護者の意識改革は、「世論を変えることが必要」(プロジェクトの内田氏)であり、「学校の改革が進めば、いい意味での同調圧力が働き、風土が変わっていく」(長沼氏)と言える。

この緊急提言は、平成30年度予算の概算要求の直前にまとめられた。

しかし審議会では、一部委員から文科省に対して、「来年度予算では遅い。補正予算でも、いまからでも取り組んでほしい」との意見が出た。

提言を受け取った文科省の宮川政務官は、「教師の働き方改革は、ひいては子どもたちのためである」と述べた。

かつて、自らも教壇に立ちながら長時間労働で体調を崩し、休職を余儀なくされた宮川氏の言葉は重い。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。