ロシアが「特別軍事作戦」とするウクライナへの軍事侵攻後、初めておこなわれるロシア大統領選挙まで3カ月を切った。11人の候補者が名乗りを上げたが通算5期目を目指すプーチン氏の再選は確実視され、今回は得票率80%以上の「圧勝」を狙う。
まもなく3年目に突入するウクライナ侵攻について、プーチン氏は「目標が達成されれば平和になる」と述べ、この選挙が戦争継続への“信任投票”とする意図も見える。

 「プーチンチーム」にフィギュア界の“皇帝” 目指すは得票率80%超

ウクライナ侵攻に参加した軍人に大統領選への出馬を問われ「立候補する予定」と話したプーチン大統領。(2023年12月8日)ロシア大統領府
ウクライナ侵攻に参加した軍人に大統領選への出馬を問われ「立候補する予定」と話したプーチン大統領。(2023年12月8日)ロシア大統領府
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先月上旬、ウクライナへの軍事侵攻に参加する軍人らを前に大統領選への立候補を表明したプーチン氏。首都モスクワで開かれた推薦人団体の会合でプーチン氏の支持が全会一致で決まり、今回も無所属での出馬が確定した。

「プーチンチーム」と呼ばれる推薦人団体には、フィギュアスケート界の“皇帝“プルシェンコ氏やペスコフ報道官の妻で元アイスダンス金メダリストのタチアナ・ナフカ氏など著名人も名前を連ねる。

プーチン氏は、政権与党「統一ロシア」の党大会にも出席。同党党首のメドベージェフ前大統領は、「プーチン大統領の勝利が正当であり、議論の余地がないものにしなければならない。これは党としての仕事だ」と述べ、支持を全会一致で決めた。左派系野党の「公正ロシア」も候補者を立てず、支持を決めている。

プーチン氏が政党から支持を受けながらも、無所属で出馬することには理由がある。
主に、対立する西側諸国から「独裁者」とみられないよう対立候補と争う構図をつくり、幅広く国民から支持を得て高い得票率で勝ち、「信任を得た」とアピールするためだ。
ロシアメディアによると、政権は2018年の前回選挙の得票率76.7%を上回る80%超を狙っている。反体制派の“対立候補”を押さえ込む姿勢は鮮明になった。

反対勢力は徹底的に“排除”か 「平和」掲げる女性の立候補認めず

 ロシアの中央選挙管理委員会は、ウクライナ侵攻反対を掲げて無所属で立候補を届け出た独立系のジャーナリスト、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏の提出書類に不備があるとして、登録を拒否した。

ロシア中央選管に申請書類を提出後、報道陣の取材に応じるドゥンツォワ氏(2023年12月20日)
ロシア中央選管に申請書類を提出後、報道陣の取材に応じるドゥンツォワ氏(2023年12月20日)

ドゥンツォワ氏は中央選管の対応をめぐり、最高裁判所に異議を申し立てたが、最高裁はこれを棄却。支援を呼びかけていたリベラル派の野党からも色よい返事はなく、立候補を断念せざるを得なくなった。

ドゥンツォワ氏は3人の子どもを育てるシングルマザーで、地方の市議会議員を経て、現在はジャーナリストとして活動する。ウクライナ侵攻に“NO”を突きつけ、「平和と自由、民主主義」を訴えていた。プーチン政権が、軍事侵攻に批判的な層や動員兵の家族などの間で支持が広がることを懸念したとの見方もある。

ドゥンツォワ氏は「ロシア人の大多数は、平和な民主主義の未来と単純な常識を望んでいる。党を立ち上げ、変革を推し進める以外に道はない」と述べ、新党の立ち上げを表明した。

また、反プーチンの急先鋒として知られ、ロシアの刑務所に服役中の反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏は、陣営を通じてプーチン氏以外の候補者に投票を呼びかける「プーチンのいないロシア」キャンペーンをおこなっている。陣営は、公式サイトに誘うQRコードを記載した巨大な看板をモスクワの市街地に設置したが、当局がその日のうちに撤去。翌日には、屋外広告へのQRコード記載を禁止する法律が成立した。

ロシアの独立系ディアは、大統領府が71歳のプーチン氏が「年寄りに見えないように」配慮して、対立候補の条件を50歳以上に設定したと報じていて、プーチン氏の脅威となりうる要素を排除し、再選に向けたお膳立てが整えられているようにも見られる。

今回の大統領選には、33人が立候補のため中央選管に書類を提出し、このうちプーチン氏を含めた自己推薦3人と政党推薦の8人、合わせて11人が受理された。自己推薦者は30万筆の署名を集める必要があるが、プーチン氏の選挙本部の報道官は、「すでに50万筆以上を集めた」と余裕をみせている。

野党第1党の共産党はハリトノフ下院議員、野党第3党の「新しい人々」はダワンコフ下院副議長を候補者に選出。極右野党「自由民主党」はスルツキー党首を指名したが、いずれもプーチン政権に協力的な「体制内野党」で、軍事侵攻にも賛成の立場。スルツキー氏は「プーチン大統領はこれまで以上に得票して勝つだろう」と公言した。

現在71歳のプーチン氏の再選はほぼ確実で、最長で2期12年、83歳までトップの座に留まることが可能になる。

“ポピュリスト”プーチン スターリン超えの“超”長期政権誕生へ 

2年ぶりに実施された「年末会見」。非友好国に指定された米英仏を含む国内外の報道機関600人以上が会場に集まった(2023年12月14日)ロシア大統領府
2年ぶりに実施された「年末会見」。非友好国に指定された米英仏を含む国内外の報道機関600人以上が会場に集まった(2023年12月14日)ロシア大統領府

世論調査で、常に8割前後の支持率をキープするプーチン氏。
ロシア反体制機関の「レバダ・センター」が2023年10月に発表した調査では、「2024年以降もプーチン氏を大統領として期待する」と答えたロシア国民は約7割で、このうち約3割が、プーチン氏を「正しい政策を導き、国家を強化する」と評価した。

ソ連崩壊後の経済の自由化と、それに伴う混乱を乗り切り、安定した経済運営をおこなってきたプーチン氏を評価する国民は多い。

支持率維持のポイントのひとつが、世論の反応を敏感に感じ取ることだという。2018年の年金支給年齢の引き上げや、20年のコロナ禍にともなうロックダウン、ウクライナ軍事侵攻後の22年に実施した部分動員では、国民の不満を招いて支持率を下げた。
関係者は、「プーチン政権は世論の反応が悪かった政策は繰り返さない。同じ轍を踏まないよう注意を払っている」と指摘する。

年末恒例の国民との直接対話は、“ポピュリスト”プーチンにとって重要なアピールの場だ。軍事侵攻を理由に2022年は実施しなかったが、2023年は国内外の報道機関を招いた年末会見と合わせておこない、「卵の価格高騰で生活が苦しい」などの訴えに4時間超にわたり耳を傾けた。

2000年に発足したプーチン政権は、首相時代の8年を含めて約24年続いている。再選を果たせば、さらに12年、合わせて36年にわたってトップの座に君臨することになり、ソ連の最高指導者スターリンの29年を上回る“超”長期政権が誕生する。

まもなく3年目に突入するウクライナ侵攻は、終わりの見えない戦いが続いていて、プーチン氏は「目標を達成すれば平和が訪れる」として、「ウクライナの非軍事化、非ナチ化」を果たすまで軍事侵攻を継続する強硬な姿勢を示した。

3月17日の大統領選挙では、この軍事侵攻でロシアが一方的に併合したウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州、南部のヘルソン州とザポリージャ州でロシア大統領選の実施が決まった。翌18日はクリミア半島を併合した日で、ことしは10年目の節目。選挙の勝利=信任として、さらなる占領地の拡大に乗り出す可能性もある。

戦時下でおこなわれる異例の選挙。動員兵の母親や妻らがSNSで早期帰還を求める声をあげるなど、国民の間で軍事侵攻に対する不満は依然少なくないものの、プーチン氏の再選はほぼ確実で、終わりの見えない戦いはことしも続きそうだ。

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国際取材部
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