甚大な被害があった石川県「輪島朝市」の大規模火災。被害はなぜ拡大したのか?原因を取材すると、同じような危険が潜む場所が全国の他の地域にも多数あることが分かった。

ヘリリポート 1月1日:輪島市上空です。大規模な火災が発生しています。かなりの勢いで炎があがっています。
元日に起きた能登半島地震。地震発生から2時間ほどたったころ、輪島市には赤い炎が勢いよく吹き上げていた。「輪島朝市」の大規模火災だ。 火元は住宅街の1カ所だったが…

カメラマンリポート 1月1日午後8時半ごろ:延焼は続いていて、10数軒にのぼるとみられます。

消火活動は行われていたものの、火の勢いは止まらなかった。一夜明けて上空からとらえた映像では、あたり一帯が焼け野原となっていた。
ヘリリポート 1月2日:上空から見ますと、どこに建物があったのか分からなくなってしまっているほど、建物が焼け崩れてしまっています。

近くに住む人:いつまでたっても収まらないし、だんだん空も赤くなってくるし。消防も来たけど手がつけられなくて。
■木造家屋密集、消火の遅れ、プロパンガス これらの原因で火災拡大

国土交通省の研究機関によると、焼失面積は5万800平方メートルにわたり、約300棟が焼失した。気象庁によると当日はほぼ無風だったという。なぜ、火災は広がってしまったのか。
輪島市の火災現場を調査した神戸大学の室崎名誉教授は、現地の印象を語るとともに、原因を指摘する。
神戸大学 室崎益輝名誉教授:トタンだらけなんです。古い木造家屋はトタン張りなんですよ。木造家屋の密集地なので、燃え出せばどんどん広がっていく。
原因1:木造家屋の密集
大規模火災の原因としてまず指摘したのが木造家屋の密集地域だったこと。細い路地をまたぐように住宅が倒壊したことで、消火活動の妨げや、延焼の原因につながったという。
原因2:消火の遅れ
特に大きな原因として指摘するのが初期消火の遅れだ。当時は津波警報が出ていた。
神戸大学 室崎益輝名誉教授:消防団員も津波が来ると言われている中で、落ち着いて消火活動ができる状況ではなかった。1軒の火事でも消せなかったら広がるし、ある程度大きくなったらどうにもならない。

原因3:プロパンガス
火災に勢いをつけたと推測されるのがプロパンガスによる延焼だ。室崎名誉教授が現地で撮影した写真では、焼け焦げたガスボンベがたくさん見つかっている。室崎名誉教授によると、プロパンガスを使用する住宅の多さが延焼を拡大させてしまったという。
これらの要因が重なり、まれにみる大規模火災となってしまったのだ。
■「焼け止まり」を計画的に行うことが大事

ただ、輪島市の火災から見えてきたこともあったた。
記者リポート:朝市の火事は広範囲にわたって燃えましたが、広い道路を挟んだ先は燃えていません。
30日、火災現場を上空から撮影した映像では、大きな道路を挟んだ住宅は延焼を免れている。これを「焼け止まり」といい、大きな道路や、燃えにくい建物があると、そこで延焼が防げる。
神戸大学 室崎益輝名誉教授:日本は密集市街地がすごく多いので、燃え広がることも覚悟して、まさに『焼け止まり線』を計画的に作っておくことをしないといけない。
■木造住宅密集地は関西にも多い

木造住宅の密集地は関西にも多い。国が発表している12都府県の危険な密集地、約2200ヘクタール。近畿では大阪府、京都府、兵庫県で特にリスクが高く、大阪府は全国ワーストだ。
コリアンタウンがある大阪市生野区の密集地。地域防災の旗振り役となる鶴橋地区の防災リーダー・村井隊長に案内してもらった。
地域防災リーダー(鶴橋連合) 村井英夫隊長:けっこう消防車が入れない狭いとこが多いんです、この地区は。
中には一人通るのがやっとの道も。「この先、自転車は通れません」と書かれた看板もあった。火災の時に、消防車が通れない場所が多い。
大阪市は「焼け止まり」となる大きな道を作る事業や、住宅の建て替えなどの補助を行っているが、権利関係が複雑で思うように進んでいない。
地域防災リーダー(鶴橋連合) 村井英夫隊長:新しい都市計画として、理想はいいと思うんですが、既存の住宅街でどうするかっていうのは、個人によって資金力も違うし、難しい。例えば道を広くすると、立ち退きがあったり、いろんな問題が出てくる。

この地域では消火器の設置に加え、防火バケツを地域住民全員に配り、初期消火にあたれるようにしている。そして住民らが消火班、避難誘導班、給食班など役割分担をして備えている。取材した日には、炊き出しの練習として地域の女性たちが大量の料理を作っていた。
婦人部のメンバー:今日は125食分で、やっぱり炊き出しの時なんか量が多いでしょ。どんなぐらいで、どれぐらいできるかっていう訓練にもなる。
室崎名誉教授は、地震・火災に強い街づくりを行政と住民が連携して進めていくことが急務だと話す。
神戸大学 室崎益輝名誉教授:密集市街地の地震時の最大の問題は、火事が起きる事だという意識をしっかり持ってほしい。命や街を守るために火を出してはいけないし、消さないといけないので、その取り組みをしっかりしないといけない。
■火災被害をおさえるための対策「権利関係が複雑でなかなか進まず」

火災による被害をできるだけ防ぐために大阪市が行っている対策がある。

例えば狭い路面に面した古い木造住宅の解体や、解体した後の空き地を防災空地として整備することなどをしており、それに対して行政が費用を補助しているそうだ。 市の担当者によると、「権利関係が複雑でなかなか進んでいない」状況があるという。
関西テレビ 加藤報道デスク:立ち退きや建て替えが必要だとなっても、土地所有者と建物所有者が違うケースがあります。さらにマンションやアパートの場合、賃貸で住んでいる人もいます。そういう人たち全員にコンタクトを取ることは大変ですし、なかなかリーチできない問題があるそうです。また高齢者の方になると、建て替えにどうしても及び腰になってしまって、説得もうまくいかない事もあるみたいです。
■個人でまずできる対策「感震ブレーカー」

自分たちでできる火災への備えとして、「感震ブレーカー」の設置がある。感震ブレーカーは、震度5以上の強い揺れを感知し、電気を自動的に遮断する機器。いろいろな種類の感震ブレーカーがあり、例えばコンセント型のものであれば、5000円から2万円ほどで取り付けることができる。密集住宅市街地の一部エリアでは、自治会などに助成があるということだ。

感震ブレーカーがなぜ必要なのか?神戸大学・室崎名誉教授によると、停電から電気が復旧することによって起きる「通電火災」が、地震の際には多いということで、それを防ぐために必要となる。
家具などが倒れて電源コードが下敷きになり、ショートして火花が出ることがある。また電気ストーブがついたままだと、落ちてきた本など燃えやすいものに引火して火災につながる。こうしたことを未然に防ぐために、自動的に電気を遮断する対策が必要だという。阪神・淡路大震災や東日本大震災でも多くの「通電火災」があったといわれており、感震ブレーカーなどの対策をぜひ検討してもらいたい。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月31日放送)