男性の育休において、課題なのが取得率の低さだ。

厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、育休の取得率は近年、女性は安定して80%台を推移している。男性は2021年度に過去最高の13.97%となったがそれでも低いと言わざるを得ないだろう。

男性の育休取得率の推移(出典:2021年度「雇用均等基本調査」より)
男性の育休取得率の推移(出典:2021年度「雇用均等基本調査」より)
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背景には何があるのか。実は、男性は育休を取得できるとしても言い出しにくいという。ここをヒントに1年で状況を改善した企業がある。

男性の育休取得率が「13%→100%」に

それが株式会社読売広告社。育休を取れる男性社員で実際に取得したのは、2021年度は2人のみだったが、2022年度は9人全員が取得。取得率は13%から100%となった。

読売広告社の育休取得率の状況(提供:読売広告社)
読売広告社の育休取得率の状況(提供:読売広告社)

同社はさまざまな施策に取り組んだといい、そのひとつが所属部署への配慮。「所属チームへのインセンティブ支給制度」では、男女問わず育休を一定期間取得すると、所属部署に会社からお金が支給され、飲食費や交通費に使うことができる(金額は育休期間が1週間で5万円、2週間で10万円)。

インセンティブ支給制度(提供:読売広告社)
インセンティブ支給制度(提供:読売広告社)

メリットがあることで、育休を取りたい本人は言い出しやすく、周囲は受け入れやすくなっている。

育休を申請する方法も改善した。以前は申請の窓口がメールアドレスのみで、認知度も低く、取得したくても連絡先となるアドレスが分からない、どこに連絡すればいいか分からない状況になっていた。そこで、社内のポータルサイトにフォームを設けて育児に関わる申請の入口を集約。育休のほか、祝い金や時短勤務などの希望も伝えやすくした。

仕事との両立について相談できる制度も(画像はイメージ)
仕事との両立について相談できる制度も(画像はイメージ)

このほか、2021年度には、子育て経験がある先輩社員がサポート役となり、育児と仕事との両立などについて相談できる「ぱぱままメンター制度」も整備していて、ここも取得率向上につながったという。

男性は周囲への迷惑を心配している

こうした取り組みが取得率の改善につながったと思われるが、男性はなぜ育休したいと言い出しにくかったのか。読売広告社の担当者に聞いた。


――男性社員の育休取得率が低いのはなぜ?

男性社員の実際の声などをまとめると(1)「言い出しにくい」(迷惑がかかる、周囲で取得したケースがない)(2)「仕事の属人化」(自分にしかできない仕事があり、代わりがいない)といった理由が目立ちました。ここが影響したと考えられます。


――状況を改善するため、どこに力を入れた?

育休取得のハードルを下げようと思いました。所属部署にインセンティブを支給する制度でしたり、社内申請の流れをスムーズにしたのはこのためです。当社の社長も問題意識を持ち、全社員に向けて狙いと意図を発信したほか、担当部署では全社員対象の詳細の説明会も実施しました。

「育休を取りたい」と言いやすくしたい(画像はイメージ)
「育休を取りたい」と言いやすくしたい(画像はイメージ)

――所属部署にメリットがあることで、どんな効果を期待している?

周囲に育休の取得者が増えるとこで、「育休を取りたい」と言いやすくなる好循環を期待しています。抱える業務の棚卸し、属人化の解消、後輩が経験を積むことにつながればという狙いもあるので、育休は2週間以上の取得を推奨しています。


――取得の推進につながったと思う、ポイントは?

男性社員の意識の変化を感じました。以前は育休の相談はほぼなかったのですが、今は「どんな取得の仕方がありますか」「いつからいつまで取得したい」などの相談があります。

取得した男性「母の大変さを身にしみて感じた」

――実際に育休を取得した男性の声を聞かせて。

配偶者の第2子出産後すぐ、2週間、育休した男性社員に聞きました。普段は妻が在宅ワークでふたりで子育てしていましたが、1週間以上、ワンオペで子どもを見るのは初めて。目が離せないし、何かあってはいけない…と緊張感があったそうです。男性社員は「普段は担当していない家事などもあり、一人で子育てをする母の大変さを身にしみて感じた。今後も早く帰れる日は早く帰宅し、子育てに協力したい」と話していました。

チーム内でのフォローや工夫も必要(画像はイメージ)
チーム内でのフォローや工夫も必要(画像はイメージ)

――育休推進のため、職場に求められることは?

育休に限らず、誰にとっても休暇がとりやすい社内風土であることが大切だと考えます。チーム内でどう乗り切るか工夫したり、フォローし合うきっかけになればと思いますし、取り組みを共有することも推進に繋がると思います。また、トップの意思表明と発信は非常に重要だと思うので、現場の施策と両輪で進められると良いと思います。


――男性の育休の推進で期待できそうなことは?

子育て中の社員に対する理解や共感の輪が深まりますし、「周囲も取得するかもしれない」と思うので、仕事のシェア、棚卸しする習慣も身につくはずです。長時間労働や属人化の改善、休むことが価値になるという文化形成にもつながるでしょう。

男性社員による育休取得時の様子(画像提供:読売広告社)
男性社員による育休取得時の様子(画像提供:読売広告社)

読売広告社では、育休期間を長めに取ってもらうことにも取り組みたいという。育休を取得したい本人は安心して言い出せる、周囲は快く送り出せる。そんな環境が大切なのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。