10日間で5回、計8発のミサイル発射とは何とも慌ただしい。言語道断・迷惑至極だが、何やら焦りのようなものも感じられる。

北朝鮮ミサイル発射で誤情報も出たJアラート(4日)
北朝鮮ミサイル発射で誤情報も出たJアラート(4日)
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目的はミサイル技術の向上、米韓軍事演習への対抗、脅威の誇示ということになるのだろう。しかし、何とか振り向いてもらいたいバイデン政権には大して響いていない。

「正直言ってワシントンではほとんど誰も気に留めていない。私自身も含めて、今は中国問題、ウクライナでの戦争、そして、その他の問題に傾注している」

バイデン政権のアジア政策に詳しいワシントン在住の専門家氏はこう述べてにべも無かった。

「彼らはミサイルがグアムに届くことを実証したのだが、脅威ではないのか?」という問いには次の返答が届いた。

4日発射の北朝鮮ミサイルは過去最長の飛距離だった(※コースはイメージ)
4日発射の北朝鮮ミサイルは過去最長の飛距離だった(※コースはイメージ)

「北朝鮮のミサイルに日本やグアムに届く能力があるからといって彼らが戦争に勝てる訳ではない。戦争になれば、それがどんなものであれ、北朝鮮は消滅する。KJU・金正恩総書記はこれでアメリカや同盟国が自分達に手を出してこないことを願っているのだろう」

やはりにべも無かった。

北朝鮮が近い将来に大陸間弾道ミサイルや核実験にまで踏み込む可能性をどうみるか?という問いに直接回答は無かったが、「彼らは戦争に勝つことや韓国を攻撃することなど考えていない。彼らは自分達の政権を維持し他国からの強制や攻撃を回避する防衛力を保持することに腐心している。そう、つまり彼らは怖がっているのだ」と専門家氏は極めて冷静だった。

マニアックになるかも知れないが、専門家氏は「他国からの強制や攻撃」と訳した部分の「他国」に当たる英語に複数形を使った。そこには当然、中国も含まれていると筆者は理解している。

また「他国からの攻撃を回避する防衛力」という点で言えば北朝鮮の通常戦力は余り役に立たない。ウクライナ戦争でロシアの通常兵器は西側の最新兵器に質の面で全く対抗できない事が明白になったが、北朝鮮の通常兵器はその旧ソヴィエト・現ロシアの古い兵器がベースになっているからだ。そして、「通常戦力を更新して維持し続けるより、核とミサイルの抑止力に期待する方がコスト的にはまだ安上がりだからこそ彼らは開発を続けている」

北朝鮮の金正恩総書記
北朝鮮の金正恩総書記

加えて北朝鮮は「台湾有事が万が一発生した場合、それが朝鮮半島に波及することを心配している可能性もある」という。

そんな事態は我々も勿論願い下げだが、あれやこれやで、結局、北朝鮮は開発を止めないだろう。そうしなければ抑止力を保てないと彼らは考えているからだ。不安で仕方ないからだ。

言い換えれば、恐怖心の裏返しなのだ。

これを解きほぐすのは容易ではない。

圧力を維持しつつ、日米韓の連携を強化し深化させて警戒を怠らず、対話も模索しながら然るべき時を待つ。

甘い顔が出来ぬ以上、これ以外に方法が無いのは、悲しい哉、変わらぬ現実なのである。

【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎】

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。