手話が語る福祉のコーナーです。聞こえない聞こえにくい子供たちを対象にした接客体験イベントを主催した大学生が香川県にいます。活動に込めた思いを取材しました。
教員の声がリアルタイムでスライドに表示されています。その字幕を見ながら授業を受けているのは、香川大学教育学部に通う入谷那々花さん(22)。生まれつき難聴で補聴器を付けています。
(香川大学4年 入谷那々花さん)
「資料だけでなく先生が途中で話している冗談や余談も分かるので字幕があれば助かる」
授業を終えて向かった先は生花店。入谷さんは大学3年生の春からここでアルバイトをしています。
(入谷那々花さん)
「アルバイトを探す時に、例えば飲食店だと接客があるからできないと思い、接客の経験はなかった。まさかここで接客をするとは思っていなかった」
最初は不安があり怖かったそうです。
(入谷那々花さん)
「マスクをつけているお客さんは顔の情報がシャットアウトされた感じでマスク外してとお願いしたいが、お客さんのペースを崩したらどうしようと葛藤していた。言わないと相手は聞こえないことが分からないので、無視されたとマイナスで終わってしまう」
接客に挑戦したことで考え方も変化したと言います。
「はじめ接客に対して、できないかも 無理かも怖いかもと」
「お客さんを喜ばせるという目標がなかったから「接客」をひとまとまりにして避けていた」「周りの理解や工夫によってできるようになることもある。それを子供たちに伝えられたら」
入谷さんは、香川県に難聴者が交流できる場が少ないと知ったことがきっかけでろう・難聴者の子供たちを対象としたイベントを企画しています。
(入谷那々花さん)
「大阪では聞こえない子供たちを対象にした放課後デイサービスがあったが、香川県にはなかったのでそういう場所を作りたいと思った」
【イベント1日目】
今回のイベントの舞台はコーヒーショップ。聞こえにくい子供たちが店員になり、接客を体験します。2026年は若者の挑戦を応援する「たかまつ讃岐財団」の助成金を獲得しました。
(入谷那々花さん)
「聞こえない・聞こえにくい子供たちにできる力を身につけてもらうことと、遠慮せず積極的に関わっていくことが大切」
イベントに参加する小学2年生から高校3年生の6人が集まりました。
(高校3年 三野菜々美さん)
「接客は1回やったことがある。そこで耳が聞こえなくて少し諦めたことがあるが、支援を考えてくれる環境であればできないことはないと思うので、できるかなと参加した」
(高校3年 田木実結さん)
「人と関わることが好きなので接客やってみたい」
1日目は、周りの音がどう聞こえているのか、どんなことに困っているのか共有し、自分のことを相手に伝える練習をします。
(三野菜々美さん)
「みんなの聞こえている音とは違って機械音で聞こえているので、全員同時に話すと全員の音が雑音になって入ってくる。すべての聞こえる音が同時に入ってくる」
(田木実結さん)
「口元が見えてゆっくり話してもらえると口の形を見てわかるのでそういう方法を使っている」
普段抱えている思いを打ち明けたことで一気に打ち解けた雰囲気に。接客に置き換えた時にどんなことに困るか意見を出し、解決策を話し合います。
「番号が聞こえないので、私は商品や、前のお客さんの前後を見て判断している」
「店員になるからこそ、書いて出すカードがあったらいい」
ランチタイムも休む暇がありません。午後は、コーヒーショップのスタッフから接客の基礎を学びます。その様子を見ていた入谷さん。
(入谷那々花さん)
「聞きながら書くことが難しいので、切りのいい所で頭の整理を」
注文をする時に視覚でも確認できる「指差しボード」と、呼び出している声が目でわかるように「番号札」を作ることになり、1日目が終了しました。
(田木実結さん)
「話せるイコール聞こえているという感覚を持たれているというのは聞こえない人みんな共通だと知って少しほっとした」
(入谷那々花さん)
「聞こえないことは弱みではない。社会にアプローチできるような存在が社会をよりよくする人材になる、と時間をかけても伝えたい。聞こえる人には相手と自分が違うんだと 思ってもらえるだけでもうれしい。みんな違ってみんないいではなく、みんな違って当たり前と実感してほしい」
【2週間後 イベント2日目】
開店ギリギリまで練習を重ねる子供たち。
(入谷那々花さん)
「理想があって(手話の)ありがとうを広めること」
【9時オープン】
(客は…)
「はっきりわかりやすく、コミュニケーションがうまくいったので、何の違和感もなく楽しめた」
「(手話を使ったことある?)ない。店員さんのありがとうを見て初めて知った」
「私の若い時はこのような機会はなかったので、難聴になって随分悩んでいた。触れ合う頻度が多ければ多いほど互いの理解が広がると思う」
【イベント終了】
(三野菜々美さん)
「お客さんが意思疎通できた時にうなずいたり、合ってるよと言ってくれて、感謝の形ではないがそういうのが見えてうれしかった」
(田木実結さん)
「途中から楽しさで緊張を忘れていた。今回の経験が自信につながったので、それが一番自信を持って(今後も)接客していきたい」
(入谷那々花さん)
「積極的に持っていったり声をかけたりしていて、さすがだと思った。決めつけるのではなくてやってみるのが大事だと思った」
入谷さんは大学卒業後、拠点を大阪に移し、聞こえない子供たちの放課後デイサービスのスタッフとして働くことが決まっています。
(入谷那々花さん)
「子供たちのチャレンジしたいことを一緒にチャレンジしたり、スタッフがやりたいことを子供たちと一緒にやったり、こんな感じのことを仕事にする。香川でも学んだことを生かしてやりたい」
入谷さんは、みんな違って当たり前だからこそ互いが歩み寄り会話をするそんな社会になればいいなと話していました。