ここからは「能登人を訪ねて」。のと里山海道の別所岳サービスエリアで、能登のお土産などを販売していた「奥能登山海市場」は、地震から2年たってもいまだ再開できていません。今回は、この店の店長にお話を伺いました。ついに見えてきた希望の光と、心に浮かぶ葛藤とは――。
(稲垣真一アナウンサー)「のと里山海道、別所岳サービスエリアに来ています。私の向こうに食事処、そして土産物店を併設した『奥能登山海市場』という施設があります。おととし元日の地震で大きな被害を受けましたが、2年経ってようやく再開への動きが見え始めました。今回は店長にこれまでの道のりと今の思いを伺います。」
去年12月19日、私は能登半島地震で被災したこのサービスエリアを上空からリポートしました。
(稲垣ヘリリポート)「こちらが観光物産店『奥能登山海市場』です。店の橋爪店長をはじめスタッフの皆さんが、店の棚などを燃やして暖を取り、命をつないだ場所です。しかしこの場所は丸2年間営業ができていません。その中で奥能登山海市場の皆さんは、その日を心待ちにしてきました。」
年が明け、1月から修復工事が始まったと橋爪店長から連絡を受け、再びお会いしました。
(稲垣)「前にここで取材させて頂いたのは2024年の12月でした。ようやく止まっていた時間が動き始めた…」
(橋爪和夫さん)「そうですね。いよいよ始まるなという実感は、去年とは違いますね。」
店内に入ると、被災からの片付けと工事の準備が進んでいました。
(橋爪)「工事にあたり『必要なものと不要なものを分けてください』と指示があり、ゴミを捨て、使えるものは持ち出してもらいました。そういう作業が終わって、同時に工事が始まったという状況です。」
(稲垣)「ここに食堂がありましたね。」
(橋爪)「食堂があり、奥の部屋が地震で動いてしまったので、今は横にずらして基礎から直しているところです。暖を取る手段がなかった当時は、棚にあった物を燃やして暖を取っていました。」
(稲垣)「その棚はどこにあったんですか?」
(橋爪)「ここに…。残ったものもありますが、生木は意外と燃えにくいです。ただ室内で乾燥していたため、火がつきやすくなっていました。」
(稲垣)「レジのところで橋爪さんが立っていたのを覚えています。僕が買い物して『ありがとうございました』と言ったあの場所です。」
(橋爪)「何度もありました。去年までは再開のイメージができませんでしたが、今年工事が始まった段階で『あの景色が戻ってくる』という実感が出てきました。逆に今は緊張も出てきました。『果たして前と同じパフォーマンスができるだろうか』と。」
夢にまで見た復旧工事ですが、営業再開後は再び軌道に乗せる努力が求められます。再開はおよそ5か月後。新しい挑戦が始まります。
(稲垣)「この2年間はどのように過ごされていましたか?」
(橋爪)「適切な言葉が見つからないのですが、1年目は焦りがありました。ここに車が止まっていて、平日になると車がみんな出ていく。つまり皆が仕事をしているのに、自分の車だけが停まっている。『自分は何をしているのだろう』という虚しさを感じました。」
(稲垣)「自治会長の仕事もあって忙しくされていたのでは?」
(橋爪)「逆にそれが良かったんです。」
橋爪さんは心の平常を保つため、仮設住宅マリンタウン第一団地の自治会に参加し、会長職を引き受けました。イベント開催や公民館の館報配布などで家々を回り、人とのコミュニケーションを続けました。
(稲垣)「寒い時期の配布は大変では?」
(橋爪)「でも、役に立っているという喜びがあるので、寒さよりも『役に立ちたい』という気持ちの方が強く、それほど苦痛ではありませんでした。」
(稲垣)「当時は『みんなで復活の日を迎えたい』という気持ちで給料を支払い続けていました。現在、メンバーの皆さんはどうしているのですか?」
(橋爪)「各自それぞれに活動しながら、給料は会社が雇用助成金を使って支払っていました。ただ、それが去年の12月で切れました。うちの代表が動いてくれて、工事が始まり、4月か5月にオープンできそうだと見えたので、その間は会社が以前と同じ水準で給料を出すと言ってくれました。私たちはそれを聞いて感激しました。」
(稲垣)「雇用調整助成金は8割程度の補助だったのですか?」
(橋爪)「はい、8割でした。」
(稲垣)「残りの2割はどうしていたのですか?」
(橋爪)「会社の借り入れで補っていました。」
(稲垣)「オープン後はフルで人件費を支払う必要がありますが、その資金は…?」
(橋爪)「銀行借り入れです。会社としての借り入れです。だから相当な覚悟が必要です。『簡単にオープンします』というだけではダメで、その裏付けとなる営業をしていかなければならない。私たち自身が覚悟を決めてやっていかないといけない部分があります。去年とは違って、今はその点で緊張感があります。」
橋爪さんは自身を奮い立たせるため、時折職場の仲間の元を訪ねています。大切に保管してある店のユニフォームを持ってきてもらうこともあるそうです。
(奥能登山海市場・山本さん)「ちょっと気になった時に見て、頑張ろうって思うくらいです。」
(稲垣)「やはりユニフォームは特別な存在なのですね。」
(山本さん)「はい。」
(橋爪)「ユニフォームは自分のものです。『自分はここにいる』という実感が出る。今は仕事をしていなくても、ここに所属しているという意識が持てる。自分の存在証明のようなものですね。」
(稲垣)「オープンまではまだ時間がありますが、まずはワンチームでオープンまで見守りたいと思います。これからも頑張ってください。」
(二人)「よろしくお願いします。」
いよいよ再開に向けて工事が始まった別所岳サービスエリア。橋爪さんが店長を務める「奥能登山海市場」は、およそ5か月後のオープンを目指しています。入札の不成立などで着工まで時間がかかり、いざ始まってみると怖さも芽生えたと橋爪さんは打ち明けます。しかし、それでも「やるしかない」と語る姿が印象的でした。橋爪さんは以前、私に「ネバーギブアップ!それが信条だ」と笑顔で話してくれました。その気持ちで、5か月後のオープンを目指していることでしょう。
能登人を訪ねて。次回もぜひ、ご覧ください。