中国で起きた衝撃的な軍幹部粛清事件。
「習近平体制ができて以降、最大の事件」と評される今回のできごとは、台湾有事のカウントダウンが始まったことを意味するのでしょうか。
中国とアメリカに独自の取材網を持ち、軍事外交に精通する元朝日新聞記者のジャーナリストの峯村健司さんが中国の最新情勢と、日本への影響を解説します。
■「文化大革命以降、最大の事件」中国軍ナンバー2粛清の衝撃
中国軍ナンバー2の張又侠(ちょうゆうきょう)氏と、参謀長の劉振立(りゅうしんりつ)氏が「重大な規律違反」の疑いで調査対象となっているということです。
中国軍の機関誌『解放軍報』は、この2人が「習近平国家主席の絶対的指導の障害となる政治的・腐敗的問題を助長した」と指摘しています。
この事態について、中国とアメリカに独自の取材網を持つジャーナリストの峯村健司氏は「習近平体制ができてからというか、ひょっとしたらこの80年、文化大革命とかいろいろな混乱があった以降、最大の事件」と評しています。
張又侠氏は軍内で“レジェンド級”の存在だった。1979年の中越戦争に参戦した数少ない戦争経験者であり、習近平氏の3歳年上で家族ぐるみの幼なじみという関係にあったそうです。
劉振立氏は参謀長として、実際に戦争が起きた際の作戦立案や部隊移動を指揮するトップでした。
軍の最高幹部2人が失脚したことの重大性は計り知れないということです。
■「習近平氏に歯向かった」罪状の本質
表向きの罪状は「腐敗や汚職」ですが、峯村さんによれば本質は別にあるといいます。
「首席責任制を踏みにじった」という言葉が使われており、これは「習近平氏の言うことを聞け」という意味だといいます。つまり「習近平氏に歯向かった」ことが本当の罪なのだといいます。
「軍の経験がない習近平氏を肩代わりして、軍を締め上げてきた張氏は、習氏の唯一の歯止めになる役割だった」と峯村さんは説明します。
その人物がいなくなったことで、習近平氏の独裁体制はさらに強化されることになります。
2人が反対したとされるのは台湾統一問題。
習近平氏は早期の台湾統一を望んでいましたが、中越戦争で中国がボロ負けした痛みを知る張氏は「まだ早い」と反対し、習近平氏の怒りを買ったといいます。
これまで台湾侵攻に関して「止めてきた」という話もあるということです。
■台湾有事へのカウントダウン 新たな「断絶と斬首」作戦
粛清の目的として峯村氏は2つの理由を挙げます。
1つは台湾早期統一への障害を排除すること。
もう1つは習近平氏が“終身国家主席”を目指す中で、来年の共産党大会で後継者候補選びを自分の思い通りにするためだといいます。「寝首をかきそうなやつはみんな排除したい」という意図が見えるということです。
中央軍事委員会のメンバーが残り2名となることについては、「自衛隊とかアメリカ軍で考えると、これだけの幹部が失脚すると、大丈夫?となりますが、中国人民解放軍の場合は伝統的に真ん中の幹部の意思決定権はそんなに強いわけではなく、むしろトップが直で軍を動かすという毛沢東以来の伝統がある」とし、いわゆる「中間管理職」的な幹部が減ることで軍事オエレーション的には大きな影響はないということです。
■想像している台湾有事とは違う?キーワードは「断絶」と「斬首」
台湾有事の形は従来の想定と異なる可能性があります。
峯村さんによれば、中国は必ずしもミサイル攻撃や上陸作戦ではなく、「海峡を封鎖して兵糧攻め」にする「断絶」作戦や、アメリカがベネズエラでマドゥロ大統領を捕まえた「斬首作戦」のような方法で、「無傷で台湾を取る」戦略にシフトしている可能性があるといいます。
■日本への影響 「台湾有事は日本有事になる」
台湾周辺での有事は、日本にも甚大な影響を及ぼします。
バシー海峡と台湾海峡を合わせると、日本の原油などエネルギーの約95%が、このルートを通っており、これが1、2カ月封鎖されるだけで「日本の天然ガスがなくなったり、石油も枯渇してきたりする」と峯村さんは警鐘を鳴らします。
さらに軍事的にも、尖閣諸島や与那国島が近いことから、これらの地域も封鎖エリアになる可能性があります。
「台湾有事は日本の有事になってしまう」というのが峯村さんの見立てです。
■命運を握るのはトランプ大統領 「ディール成立の可能性」
日本の命運を握るのは、アメリカのトランプ大統領だといいます。
峯村さんは「4月に予定されているトランプ氏の中国訪問が重要な鍵を握る」と言います。
「トランプさんとディールをする形で、(アメリカから)大豆だけでなく小麦も飛行機も買ってもらい、貿易赤字を減らす。その見返りに台湾について中国が行動を起こしたときに、“目をつぶる”、黙認してもらうようなディールが成立するのではないか」と分析しました。
峯村さんは「トランプさんは『東半球のことは知らん』と言いつつ、『日米同盟は強固になった』とも言う。この矛盾の本音は『同盟国である日本、お前頑張れ』ということ」と分析。
「アメリカだけに頼るのではなく、日本が東アジアでどのような強い防衛力、抑止力を作れるかが重要になる」と強調しました。
中国軍中枢の粛清によって、習近平体制の独裁色はさらに強まり、台湾有事の危険性が高まりました。
日本は厳しい安全保障環境の変化を直視し、自らの防衛力強化と戦略的外交の両面から対応を急ぐ必要があるのかもしれません。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2026年2月3日放送)