WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(27歳=大橋)のタイトルマッチが、10月31日(日本時間11月1日)に開催される。
WBO同級1位のジェイソン・マロニー(29歳=オーストラリア)迎えての防衛戦。
場所は、ボクシングの聖地ラスベガス。
しかもメインイベントだ。

ボクシングに携わるものであれば、夢の、そのまた先に描くような景色がもうすぐそこに迫っている。

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私は入社して以来、ボクシング中継アナウンサーとして実況や取材を続けている。
中でも井上選手の試合は幸運なことに、勝利の瞬間のリングインタビューを何度も担当した。

今回の試合は、新型コロナウイルスの影響で半年延期されての開催。
しかも無観客。
初めての経験が重なるリングに王者はどのように立ち向かうのか?

井上選手が決戦の地に向けて日本を飛び立つ前に、対談形式で話を聞くことができた。

日頃練習を重ねている大橋ボクシングジムには、新型コロナウイルス感染対策で井上選手以外の選手はおらず、最小限のスタッフでのインタビューとなった。

「尚弥コール」がない、真の「1対1」のリング

Q今回井上選手にとって初めての無観客試合を迎えますが、どのようなお気持ちですか

井上尚弥選手:
それが、一番気にしなくてはいけないところ。
コロナであってもリングの中で1対1で戦うことは一緒なんですよ。
何が違うかって言ったら、お客さんがいないこと。

Qお客さんが原動力ですか

井上尚弥選手:
もちろんそうですね。
リングの中に入れば1対1で戦うスポーツなので、自分との戦いですけど。
それプラス、パフォーマンスを押し上げてくれるのは応援してくれるファンがいて、声援があって、やっぱり「尚弥コール」がある。
そこにあそこまでのパワーが生まれると思っています。

Q確かに「尚弥コール」懐かしいですね。

井上尚弥選手:
もう1年間聞いていないですね。

Qあれが1番気持ちいいですか

井上尚弥選手:
自分を動かす原動力の大半を占めている。
コロナの状況で不安がありませんか?と聞かれたら、答えるのは、「尚弥コール」がないということですね。

確かに、井上選手の戦いを会場で見ていると、ある種ピンチのような場面も「尚弥コール」を受けて、より一層私たちの期待以上の試合を展開してくれたことが多くあった。

井上選手は試合後のリングインタビューでも、観客の声援を聞き、噛み締めながら受け答えをする。
試合中でも、試合後でも、会場を巻き込んで、それを力に変える「尚弥コール」は井上選手にとって支えになるのはきっと間違いない。

ただ、今回は井上選手をより強くする「尚弥コール」が無い中の試合。
無敗のチャンピオンは、対策として私の想像できないトレーニングをしていた。

勝利の鍵は「想像力」

Q「尚弥コール」がない中でどう戦いますか

井上尚弥選手:
今、1番イメトレしているのは会場にお客さんがいない状況。
ただ、テレビの前で応援してくれるファンがいるって考えながら練習しています。
そこからパワーをもらうイメージトレーニングをしています。

Qかなり高度なイメトレですね

井上尚弥選手:
高度ですよー!
世界戦を観客ゼロでやるなんて誰も思っていないですから。

Q「尚弥コール」が原動力という意味では家族の存在は

井上尚弥選手:
家族も日本でテレビでの観戦になるので、どうやって試合を見ているのかも想像したいですね。
その光景を見てみたい。
息子が全然興味なさそうにしているのか?ラスベガスで戦う自分に何か感じるのか?

Qテレビにかじり付いて観ていたこともありましたね

井上尚弥選手:
あれは息子が1歳の時。
(ダウンシーンに手を叩いて)もうボクシングをわかってますよね。
リングに上げたことがあるじゃないですか?
あの刺激が半端じゃなかったと思うんですよ。
自分がいた場所だって何か思っているんでしょうね。

Q息子さんのパワーは大きい

井上尚弥選手:
子供が生まれてボクシングをやる理由、勝たなきゃいけない理由が増えたので、子供からもらう力を今すごく感じていますね。

明波くん インスタグラムより
明波くん インスタグラムより

ボクシングの聖地ラスベガスで戦う意味

Qラスベガスで戦う意味とは

井上尚弥選手:
今後、自分のキャリアを積んでいく上で一番大切な試合になります。

Q勝つ、以上のものを求められる場所ですものね。

井上尚弥選手:
勝つだけじゃダメですね。
ボクシング選手であれば、どこの国関係なく人気の出る場所です。
ラスベガスの常連になるための大事な試合と感じているので、「目の肥えた」ファンが熱くなる試合をしたい。

Q世界の第一線を見ると20代の同世代では、バスケの八村選手、テニスの大坂選手がいて野球でも大谷選手が活躍しているが感じるものは?

井上尚弥選手:
自分も刺激を受けますし、彼らと今この状況で日本や世界を盛り上げていきたい。

Q皆さんに向けてメッセージをお願いします。

井上尚弥選手:
音楽やスポーツなど普段、当たり前のものが見られなくなった、元気が落ちてきたりする原因のひとつでもあると。
そこで、自分の試合をテレビで見てもらって、元気や活力などを感じてもらいたいと思いますね。

「自分」に真っ正面に向き合い、「自分のできることに」集中する。
井上選手自身が、未来の可能性を誰よりも信じ、ワクワクしている表情がとても印象的だった。
井上選手の話を聞くと、「自分も、自分ができることを全力で頑張ろう」と勇気づけられる。

井上選手は、今回の試合を「井上尚弥・第2章のスタート」と位置付ける。

既に日本ボクシング界の歴史を次々と塗り替えている井上選手だが、ラスベガスできっと「夢の、その先」を見せてくれると思うと試合が待ちきれない。

「井上尚弥ラスベガス防衛戦 11月1日(日)よる放送 ※一部地域を除く」

(フジテレビアナウンサー・木村拓也)

木村 拓也
木村 拓也

フジテレビアナウンサー。
1990年8月1日生まれ。静岡生まれ、秋田・茨城育ち。
2013年フジテレビ入社。情報・報道番組を中心に担当。
みんなのニュース「木村拓也の上を向いて歩こう」では、全国で1000回以上の生中継を経験。現在はイット!アクティブキャスターとして、現場から毎日生中継。
趣味はヨガ、お茶、ミニマルライフ
関心のある分野はサステナブル、コミュニケーション教育、ボクシング