2022年、応援演説中の安倍元総理が銃撃され命を落とした。
逮捕されたのは当時41歳の山上徹也被告。
15回に及ぶ公判を経て、検察側は無期懲役を求刑。弁護側は懲役20年までにとどめるよう求めた。
そして21日、注目の判決が言い渡される。
いったいなぜ、この凶悪な事件は起きたのか。
旧統一教会への恨み、家族の崩壊、そして兄の死。
偶然が重なり、”運命”と信じた男の深淵を追った。
■社会に衝撃が走った事件当日 その時親族は…
2022年7月8日、奈良市・大和西大寺駅前。
応援演説中だった安倍元総理が突如、銃撃された。
その場で逮捕されたのが、山上徹也被告(当時41歳)。
手製の銃を使った凶行だった。
かつて国を率いた人物が殺害されるという衝撃的な出来事。
山上被告の親族も、この事件を信じられない思いで受け止めた。
山上被告の伯父は、事件発生直後のことを振り返る。
自宅で食事をしていると、テレビに甥である山上被告が安倍元総理を銃撃したというニュースが流れた。
あまりの驚きに、伯父はすぐに親族へ電話し、山上被告の母親にこう伝えてもらったという。
【山上被告の伯父】「タクシー拾って早くうちにおいで!」
数時間後、駆け付けた母親の手には、身の回り品が詰め込まれた荷物があった。
家の中でも落ち着かず、やつれた様子だったという。
高校時代のクラスメイトもまた、突然の出来事に驚きを隠せなかった。
【高校のクラスメイト】「非常に驚いたのが正直なところです。素朴で、はにかみ屋でシャイな、そういったイメージがある人でしたから」
■法廷で語られた旧統一教会への恨み ”偶然が生んでしまった悲劇”なのか
2025年10月、公判が始まると山上被告は法廷でこう述べた。
【山上徹也被告】「昭恵さんをはじめとして安倍元総理のご家族には何の恨みもありません。自分も肉親が亡くなる経験をしました。自分に弁解の余地はありません。非常に申し訳ないと思っています」
15回に及ぶ公判を経て、検察側は無期懲役を求刑。
弁護側は懲役20年までにとどめるよう求めた。
裁判で明らかになったのは、山上被告が抱いていた旧統一教会への恨みだった。
【山上徹也被告】「旧統一教会に一矢報いるといいますか…。打撃を与えるのが自分の人生の意味だと思った」
弁護側の証人として出廷した宗教学者・櫻井教授は、およそ10時間にわたる山上被告との面会から、事件の背景をこう推測した。
【北海道大学・櫻井義秀教授】「いろんな偶然的な要素の中で起きてしまった事件。だからそのピースを1つでも外すと、事件は成立していない」
旧統一教会を20年以上取材し、ほぼすべての裁判を傍聴したジャーナリストの鈴木エイト氏も同様に語る。
【鈴木エイト氏】「成育歴、兄の死、母親の入信、高額献金で家族が崩壊してしまった状況…色んなことが重なる中で、偶然が生んでしまった悲劇です」
■すべての始まりは母の入信…家族を蝕んだ”地獄”の日々
山上被告は1980年、5人家族の次男として生まれた。当初、生活は順調だった。
しかし4歳の時に父親が自殺。さらに兄が事故で失明した。
不幸の連続に、母親が心の救いを求めたのが「旧統一教会」だった。
裁判では、これが山上被告にとって「地獄の始まり」となったと指摘された。
母親は多額の献金を繰り返し、旧統一教会中心の生活に没頭していった。
当時の様子を知る伯父は、献金のために度々カネを無心されることがあったと振り返る。
【山上被告の伯父】「文鮮明はいろんな邪悪を払ってくれるから、献金してくれへんかと言われました」
ある日、伯父が母親たちが暮らす自宅を訪ねると、台所は荒れ果て、冷蔵庫も空の状態だったという。この間、母親は韓国へ渡るなどしていた。
そんな母親に対し、山上被告の兄は不満をあらわにし、暴力を振るうようになった。山上被告は、母親の脱会を望む一方で、暴力をやめさせようと兄と揉めることがあったという。
【北海道大学・櫻井義秀教授】「家族の中の平穏を、山上被告なりに生み出そうとしていた」
山上被告は法廷でこう証言した。
【山上徹也被告】「それまでの自分とは人生、考え方が根本的に変わってしまった。家庭環境が理不尽に思えた」
それでも、山上被告は家族を見捨てることはしなかった。
【鈴木エイト氏】「いろんなものを背負わされた人生で、でも家族を見捨てることはしなかった。やっぱり家族というものにこだわっていた。彼が何とかしようとしていた」
【高校のクラスメイト】「一緒に帰っていた時に、山上被告がぽつりと『妹の面倒は俺がみなあかんからな』って言ったのを聞きました」
その言葉通り、山上被告は兄、妹を養うため、高校卒業後に自衛隊に入隊した。
しかし、家庭の惨状は変わらなかった。
■”兄の死”が憎しみと怒りの矛先を「旧統一教会」に向けた
2015年、家族を大切に思う山上被告にとって大きな存在だった兄が命を絶った。
山上被告は法廷で、小さな声で一節ごとに詰まるように語った。
【山上徹也被告】「俺のせいだ…。助けてやれなかった自分というか、罪悪の象徴のように思いました」
【北海道大学・櫻井義秀教授】「お兄さんが死んだとき、すごく(兄の苦しみが)リアルにわかった。お兄さんが統一教会と母親に対して抱いていた怒り、そういうものが山上被告に転移した」
そして、「兄の死」が事件を引き起こす大きなきっかけとなった。
【山上徹也被告】「統一教会に一矢報いるといいますか…打撃を与えるのが自分の人生の意味だと思った」
家庭を狂わせた母親ではなく、旧統一教会が標的となったのはなぜだろうか。
鈴木エイト氏はこう推測する。
【鈴木エイト氏】「母親の責任ではなくて、『旧統一教会』という外部からもたらされたものによって家庭が崩壊しているという状況を彼は正確に捉えていた」
■なぜ安倍元総理だったのか?偶然を「運命」と信じた山上被告
2018年、山上被告は教団幹部の襲撃を計画するも、何もできずに終わった。
2019年、来日した韓鶴子総裁を襲撃しようとするも断念した。
そんな中、2021年、安倍元総理が教団関連団体に寄せたビデオメッセージを見つけた山上被告は、「絶望と危機感」を感じたという。
この間、事件に使われた手製の銃の製作が着々と進んでいった。
しかし2022年、新型コロナウイルスの影響で標的だった教団幹部の来日の見通しが立たず、ここで初めて標的が教団幹部から安倍元総理へ変わった。
山上被告は、事件前日にも安倍元総理の襲撃を企てるも断念。
しかし、その帰路で知ったのは、安倍元総理が翌日に地元奈良市の大和西大寺駅で応援演説を行うことだった。
裁判で当時の心境をこう振り返った。
【山上徹也被告】「偶然を超えたもののように感じた」
そして翌日の2022年7月8日。
【山上徹也被告】「安倍元総理の後ろの警備員が移動したので、偶然とは思えない何かと思った」
【北海道大学・櫻井義秀教授】「(山上被告は)運命論者的なところがある。だから、たまたまはない。運命的にですね、自分にそうしろという風に言っているんだと山上被告は考えてしまう。いったん目標を設定すると、それに向かって山上被告は突き進んでしまう」
高校時代のクラスメイトも山上被告の性格について、こう証言した。
【高校のクラスメイト】「静かだけれどもきちんと自分がやろうと思ったことには向き合える誠実さを持った男。高校の場合は応援団になりますけど、それをやり抜く静かな情熱みたいな、そういうものはおそらく持っていた」
■「てっちゃん、ごめんね」法廷に響いた母の言葉
山上被告の母親は、息子が凶行に及んだ直後も、いつもと変わらない行動をしていた。伯父の家で、熱心に旧統一教会の経典を読んでいたのだという。
【山上被告の伯父】「私に言わず…経典を読んでいた。統一教会の」
そんな母親が、証言台に立った。周りには遮蔽板が設けられたが、山上被告からはその姿を見ることができた。
山上被告は母親との面会を拒んでいたため、会うのは事件後初めてだった。
【山上被告の母親】「ここに、もしかしたら安倍元首相が来ているかもしれない。私が、加害者だと、思っています」
自身を「加害者」と述べた母親だったが、弁護側から信仰について問われるとこう答えた。
【山上被告の母親】「世界平和統一家庭連合です。今も信仰はしています」
【弁護側】「子供たちは統一教会をやめることを望んでいると思いますが」
【山上被告の母親】「うーん…できるか…。できれば、今の形でやらせてもらえたらと思っています」
【弁護側】「脱会は難しいということですか?」
【山上被告の母親】「脱会はいいと思うんですが…。いまここでは答えられません」
この間、山上被告はー。
【鈴木エイト氏】「『あ、やっぱりこの人はまだ変わっていないんだな』というような表情を見せた」
母親が証言している際、山上被告は決して母親の方を見ることはなかった。
証人尋問が終わり、傍聴人も席を立ち始めたそのとき、母親が叫んだ。
【山上被告の母親】「徹也には本当に申し訳なかったと思っています」
【裁判長】「尋問は終わりです。ここはあなたが発言する場ではないので」
裁判長の静止で静まり返った法廷。
【山上被告の母親】「てっちゃん、ごめんね」
その時もまた、山上被告は母親を見ることはなかったが、何かに堪えるように口元を強張らせていた。
■「別に世の中を変えたかったわけじゃない。しかし、母親は変えたかった」
後日、被告人質問で母親の証言について聞かれると、山上被告はこう振り返った。
【山上徹也被告】「相変わらずだなと思いました。非常にマイペースといいますか…はい…」
【北海道大学・櫻井義秀教授】「『お母さんは一生懸命やろうとすればするほどうまくいかなくなる人なんだ』って、山上被告は言っているんですよ」
弁護側から、「母親が証人として出廷したこと」について気持ちを問われた際には、「非常につらい立場に立たせてしまったと思います」と、母親に寄り添うかのような言葉を口にした。
【山上徹也被告】「基本的には悪い人間ではないが、旧統一教会にかかわることは理解しがたいことが多々あった」
そこには、母親を恨み、捨てることができない山上被告の姿があった。
【鈴木エイト氏】「母親だけど母親じゃない人になってしまっている。母親は自分を守ってほしい存在でもあったのに、山上被告が守らざるを得ない対象になってしまった。母親に対する思いが強いからこそ、こういう事件に至った」
【北海道大学・櫻井義秀教授】「別に世の中を変えたかったわけじゃない。しかし、母親は変えたかった。だけど変わらなかった」
■司法はどう判断するのか…判決は21日
裁判で息子を前に証言した母親は何を思うのか。
取材班が母親の元を訪ねるも、取材に応じてもらえることはなかった。
山上被告と面会を重ねた櫻井教授は、内省を深める必要があるとしたうえでこう語った。
【北海道大学・櫻井義秀教授】「山上被告の旧統一教会に対する怒りは収まっているんですけど、自分が人を1人殺してしまったということ。これについては、なかなか考えがまとまっていない」
同じような悲劇を繰り返さないためにどうすべきか。
【鈴木エイト氏】「社会問題の被害者を犯罪者にしないために、どうしていけばいいのかというところを考える上では、この事件をきっちり背景まで徹底的に検証しなければいけない」
注目の裁判は、21日に判決が言い渡される。
(関西テレビ「newsランナー」2026年1月20日放送)