「マイナンバー」は生涯変わらない
菅政権がデジタル改革を掲げるなか、行政手続きの見直しが進められているが、柱のひとつとなるのがマイナンバー制度の充実だ。
10万円の定額給付金では、マイナンバーカードを利用した申請をめぐり、自治体窓口での混乱が相次いだが、実は、「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は別のものなのだ。
「マイナンバー」は、国内のすべての住民一人ひとりにひとつずつ割り振られた12桁の番号だ。市区町村が、自治体の共同組織を通じて強制的に割り当てていて、原則として、一生変わらない。以前は、自治体から薄緑色の「通知カード」が発送され、マイナンバーが通知されていた。
この記事の画像(7枚)ことし5月25日以降は、出生後、住民票が登録されると「個人番号通知書」が数週間後に届く。マイナンバーをもとに、複数の行政機関などにばらばらに存在する特定の個人の情報が同一人のものであることが確認できるが、特定の機関が個人データを集約して一元管理することはない。
「マイナンバーカード」の3つの機能
「マイナンバー」が強制的に割り当てられるのに対して、「マイナンバーカード」は希望した人がもらえるカードだ。表面には、住所・氏名・性別・生年月日と顔写真が載っている。裏面には、マイナンバーが記されているほか、ICチップが搭載されていて、このチップには、オンライン上で署名したり利用者本人だということを証明したりする機能が盛り込まれている。
このように、マイナンバーカードは、「自身のマイナンバーを示す」だけでなく、「顔写真付きの身分証明書」「ICチップでの本人認証」という3つの機能を1枚のカードに持たせたものだが、「ICチップ」を使った公的個人認証サービスではマイナンバー自体は使われないのだ。
生涯不変で個人を特定できるマイナンバーが使える範囲は、法律で定められている。利用できるのは「社会保障」「税」「災害対策」の3つの関連分野とされ、それ以外の用途では使用できない。一方で、マイナンバーカード上のICチップを通じ、さまざまな場面での本人確認が、マイナンバーを使わずにできるようになっている。
10万円給付で使えなかった「マイナンバー」
10万円給付も、「社会保障」「税」「災害対策」の範囲ではないから、マイナンバーは使えず、オンライン申請は、カード上のICチップを利用して行われた。
総務省は、自治体に対し、マイナンバーとは異なるICチップ上の個別番号での本人確認を求めたが、照合に手間取る事例も多かったうえに、給付システムの構築に時間がかかるケースもあった。一方、申請者の側も、5回の誕生日ごとにやってくるICチップの電子証明書の有効期限の更新を失念していたり、パスワードを忘れてしまっていたりで、混乱したのだ。
こうした状況を踏まえ、与党などは、「マイナンバー」を利用できる分野を「給付金」事務にも拡大する法案を提出している。また、政府は、マイナンバー制度の個人向けサイトに、銀行口座をひとつ登録するしくみを検討中だ。
この個人向けサイトは「マイナポータル」と呼ばれ、マイナンバーを持っている人が、行政機関が持つ自分の情報などを確認できるものだが、ここにあらかじめ銀行口座を登録しておけば、給付がスムーズに行えるというわけだ。
「マイナンバーカード」普及のカギはICチップ
一方で、ICチップの活用範囲を広げることで、「マイナンバーカード」をもっと使い勝手のよいものにしようという動きも加速している。
来年3月からは、マイナンバーカードが健康保険証代わりに使えるようになる。
初回登録をしたうえで、医療機関の窓口でカードリーダーにかざし、顔認証か暗証番号の入力で本人確認を行う。就職や転職、引っ越しなどをしても保険証としてそのまま使えるほか、「マイナポータル」で特定健診の情報や投薬履歴などもみることができるようになる。
菅政権は、早ければ2026年中に運転免許証との一体化も実現する方針で、住所変更などの手続きをワンストップで行えるようしくみを整えていくことにしている。これらの取り組みは、ICチップの利用を拡充していくもので、マイナンバーは使わない。
マイナンバーのキャラクターとしては、うさぎの妖精の「マイナちゃん」が知られているが、マイナンバーカードの「ICチップの認証サービス」(公的個人認証サービス)には、犬の「マイキーくん」という別のキャラクターが存在する。「マイキーくん」は、電子証明のカギを守る忠犬という意味合いで、大きなカギをもっている。マイナンバーカードの保険証化などは、マイナンバーを使わない「マイキーくん」のサービスによるものなのだ。
マイナンバー制度はデジタル化の要になるか
先月には、マイナンバーカードを持っている人が、キャッシュレス決済での買い物などでポイント還元を受けられる「マイナポイント」がスタートした。
個人向けサイト「マイナポータル」では、子育て関連などの申請をオンラインでできる自治体が増えているほか、今年から、税金の「年末調整」の一部の手続きを簡単に済ませることも可能になる。しかし、マイナンバーカードの交付枚数は10月21日時点で約2717万枚と、住民基本台帳上の約1億2700万人に対し、2割にとどまっている。
マイナンバーカードの応用分野を広げて利便性を向上させるとともに、「マイナンバーが使われる」ケースと、マイナンバーカードは活用するが「マイナンバーは使われない」ケースを丁寧に説明し、個人情報の管理のされ方への理解を深めてもらうー
マイナンバー制度を、日本のデジタル化を支える重要なしくみに育てていくためには、より一層の工夫が求められることになりそうだ。
【執筆:フジテレビ解説委員 智田裕一】
【表紙デザイン+図解:さいとうひさし】