2025年を様々な角度から振り返るシリーズ、今回はクマです。
専門家は相次いだ被害の背景に「個体数の増加」を指摘しています。
クマの出没と被害が相次いだ2025年。
目撃情報は3000件を超える異常事態です。
10月、栗原市では4人グループでキノコ狩りをしていた75歳の女性が、クマに襲われ死亡する事故が発生。
一緒に山に入っていた別の70代の女性は今も行方不明のままです。
一緒にキノコ採りをしていた男性
「本当にかわいそうだよ。早く見つかってほしい」
さらに12月20日には大和町の山林で、89歳の猟友会の男性がイノシシ用の罠にかかったクマのそばで遺体で発見。
死因は外傷性ショックで、警察は男性がクマに襲われたと見ています。
宮城県によりますと、2025年、県内では6件の人身被害が発生。
市街地や民家でも多くのクマが目撃されました。
記者リポート
「広瀬川沿いにあるこちらの店舗の前でクマが目撃されました。ここは仙台市中心部で住宅や高層ビルが立ち並ぶエリアです」
5月と10月には地下鉄東西線の大町西公園駅近くで目撃。
太白区鈎取では住宅地にクマが出没し、全国で初めて緊急銃猟制度に基づく捕獲・駆除が行われました。
加美町ではクマが民家に忍び込み、飼っていた七面鳥を食べる被害も発生。
宮城県内のクマの目撃件数は12月26日時点で3302件に上っていて、過去最多だった2016年度の倍以上となっています。
多賀城市ではこんな事態も…。
記者リポート
「クマのような生き物は交通量の多いこの周辺で目撃されたということです」
過去10年にわたりクマの目撃がなかった多賀城市では、10月から11月にかけて複数の目撃情報が寄せられました。
警察が調べたところ目撃されたのはクマではなく大きめのネコだったと判明しましたが、クマへの不安がいかに大きいかを示す出来事でした。
動物生態学に詳しい石巻専修大学の辻大和教授は「クマの個体数」が増えていることが大きな要因と考えています。
石巻専修大学 辻大和教授
「私たち研究者の間では、10年ほど前までは『クマは少ないから、守らなければいけない』と考えていたんですけれども、最近ちょっとトーンが変わってきまして。実際は私たちが考えているよりも繁殖力が強い動物だったっていうことが分かってきてるんですよ」
宮城県の調査によると、県内のクマの推定生息数は、20年ほど前は300頭から800頭ほどでしたが、5年前の調査では3147頭と、一貫して増加傾向にあると考えられています。
辻教授は個体数が増える中で2025年はクマのエサとなる木の実が凶作となったことが、人里への出没に拍車をかけたと指摘します。
石巻専修大学 辻大和教授
「増えてきたクマたちがじわじわ(活動域を)拡大する中で、山に食べ物がないと、やっぱりその辺でうろうろし始めますよね」
宮城県が3年前に策定した「第四期県ツキノワグマ管理計画」では、生物多様性の観点から、現在の推定個体数、3000頭弱の維持を当面の目標とするとしています。
そのうえで人身被害を未然に防ぐため、クマを人里にひきつけるカキの木の伐採や藪の狩り払い、必要に応じた捕獲・駆除を行うとしています。
しかし、効果的な対策は見いだせていないのが現状です。
県環境生活部・自然保護課 松川雅俊主幹
「(藪の)刈り払いや生息域を住み分けるための環境整備も計画のなかには盛り込んでいるが、即効性のあるものは、対症療法というふうになってしまうんですけれども、追い払いや注意喚起をして、クマに会わないように県民に気を付けてもらうのが対策のポイントになっています」
一方で宮城県はツキノワグマが「指定管理鳥獣」に追加されたことを受け、2025年度から『個体数管理』の観点などから県内であわせて10頭を試験的に捕獲しています。
2026年度はこの「10頭」という上限の大幅な引き上げも検討していると言います。
県環境生活部・自然保護課 松川雅俊主幹
「現状、こういった形で目撃がすごく増えている。当然ながら県民の皆様の生活にも影響が出ていることをすごく重く受け止めております。解消するためには、ある程度、個体数の削減をやっていく必要は当然あるという風には考えています」
クマの生態に詳しい東京農工大学の小池伸介教授です。
小池教授の研究グループは2005年から2019年にかけて、本州中部で200個体以上のメスのツキノワグマを調査。
最低2歳、最高で20歳で出産が確認され、出産1回あたりの子どもの数は1.58頭だったということです。
東北地域のクマは研究者が少なくデータが少ないとしたうえで、小池教授は、行政が予算をかけて調査し科学的な知見から対策すべきと指摘します。
東京農工大学 小池伸介教授
「それぞれの地域でこういった地道なデータを蓄積しないと本当の値はわからない。それが科学的な管理だし、やっぱり行政はしないといけないんです」
石巻専修大学の辻教授は、クマと人を巡る環境が変わる中、私たちは野生動物への認識を変えるべきと話します。
石巻専修大学 辻大和教授
「人口はどんどん減っていきます。対照的に動物たちは数を増やし分布も拡大しています。私たちは動物と日常的に出会う環境にいることを認識するのが良いんだと思います」