コーヒー栽培に挑んでいる長野県上田市の自動車部品メーカーを以前も特集でお伝えしました。3年目となり収穫量も増加。いよいよ「商品化」に向けて本格的に動き出しました。
■なぜ?部品メーカーがコーヒー栽培
コーヒーの香りが広がります。上田市のコーヒー店で行われた「試飲会」です。
山ノ内町でコーヒー店経営・西野智史さん:
「国産の豆自体、初めて飲んだんですが、ポテンシャルはすごく高い豆だと思った」
実はこのコーヒー、信州産。栽培したのは上田市の自動車部品メーカー「アート金属工業」です。
アート金属工業・中曽根英明さん:
「去年(の豆)より少しでも良くなっているということがお聞きできたので、われわれがやってることは間違ってないということが確認できたのが非常に良かった」
エンジン用ピストンで国内シェアNo.1を誇る「アート金属」。コーヒー栽培を始めたのは2023年6月です。本社工場の敷地に農業用ハウスを建て「アラビカ種ティピカ」の苗木40本を植えました。
なぜ、自動車部品メーカーがコーヒー栽培を?
アート金属工業・三城伸五社長:
「電気自動車が増える中で、主力製品のピストンの生産提供が減っていくという危機感があるので、それを新しい事業で補っていきたいということでいろんな事業にチャレンジすることに」
電気自動車の普及でピストンの先細りが懸念される中、「多角化」を模索。社員から出た意見で最も多かったのが「農業への進出」でした。
会社は上田城跡公園に近く「観光農園がいいのでは」と話がまとまり、コーヒーを栽培してカフェも設置しようというチャレンジが始まりました。
■収穫量3倍以上!栽培3年目の成果
最初のシーズンは約500gの実を収穫。果肉などを取り除き豆にできたのは70gほど、たったコーヒー7杯分でした。
2024年4月初めての試飲会。味は―。
アート金属工業・三城伸五社長:
「飲んだ時に香りも味も想像を超えてました」
12月10日、栽培を始めて3年目―。
アート金属・中曽根英明さん:
「こんな感じで今、実がたくさんなっている状態です」
高さ2.5mほどの木には真っ赤な実が鈴なりに。2024年から栽培を担当している中曽根英明さん。もともとは開発者です。
今年の出来は?
アート金属工業・中曽根英明さん:
「非常にたくさんの実がなっております。収穫量は今の段階で約20kg採れています」
今年10月から始まった収穫。栽培を始めて3年目、ノウハウも蓄積され収穫量はすでに昨シーズンの3倍以上となる20kgを超えています。(昨シーズンは年間6kg)
■エチオピアの気候を信州で
軌道に乗ってきたコーヒー栽培。今は次の段階、「栽培方法による味の変化」を試しています。
ハウスは温度や湿度をセンサーで徹底的に管理。これまで最低気温は15℃を下回らないようにしていましたが、今年はあえて11℃に設定しました。
アート金属・中曽根英明さん:
「今はエチオピアの気候をまねしているんですけど、あえて寒暖差、それから水分量をなるべく近づけることによって酸味のある味や、エチオピアのモカコーヒーに近いような味を目指してコントロール」
今年9月には東京で開催された世界中のコーヒー関係者が集まるイベントにも参加。これまでの取り組みを紹介しました。
中曽根さん:
「国産コーヒー飲んでみたい、買いたいというお客さまたくさんいらっしゃいました。国産コーヒーってやっぱり相当注目されてるんだなって」
注目を浴びた「信州産コーヒー」。手ごたえをつかみアート金属はいよいよ「商品化」に向け本格的に動き出しました。
■信州産コーヒー プロの評価は?
12月10日、市内のコーヒー店で開かれたのは「試飲会」。”味”のチェックです。
亀山珈琲焙煎所・亀山陽介さん:
「良いところだけでなく、特に悪いところとか含めて感想、味の評価をしてほしい」
集まったのは県内各地でコーヒー店を経営するいわば「プロ」たちです。煎り方を変えた2種類の豆で味を確かめます。
■「インパクトが…」厳しい意見
まずは、「カッピング」という方法でテイスティング。挽いた豆に一定量のお湯を注ぎ上澄みを味わうため、豆本来の味が評価できます。
東御市でコーヒー店を経営・原沢雅直さん:
「個性が強くないじゃないですか。でもナッツ感とか出やすいと思うので、そんなに合わなくはない気がします。酸味もあるし」
亀山珈琲焙煎所・亀山陽介さん:
「果実感も甘味もあるんですけど、他と比べたらちょっと弱いかなと。確かに存在はしている。でもまだまだ表に出てきていないっていうところは正直」
厳しい意見が相次ぎました。
テイスティングした人:
「インパクトがないね」
「ないですね」
「残念だ。まあ来年は変えるね、何を変えるかね」
中曽根さん:
「ちょっと考えましょう」
■一歩ずつ着実に 異業種への挑戦
続いては、ドリップ。
山ノ内町でコーヒー店経営・西野智史さん:
「最初、いいなあ」
テイスティングした人:
「これで余韻が出てくれたらめちゃめちゃうまい」
西野さん:
「ですね、可能性はある」
プロの意見は―。
山ノ内町でコーヒー店経営・西野智史さん:
「風味的にもブラッドオレンジ系と、後味、余韻がほうじ茶っぽいので、もうちょっと特徴が出てくればすごく面白いコーヒーになるんじゃないかと」
亀山珈琲焙煎所・亀山陽介さん:
「正直な話、他と比べたらっていったところではまだまだ物足りなさっていうのはあるけど。(商品化できる?)商品化できると思いますけど、焦らず質と量をそれぞれ上げていくのが重要」
試飲会を終えて―。
アート金属工業・中曽根英明さん:
「(手ごたえは?)上出来ですよ、本当に。(味は)まだまだですけれども、少しずつでも特徴のある味、プロから認めていただける味を目指していく」
「商品化」に向けてはまだまだ課題がありますが、一歩ずつ着実に歩みを進める「信州産コーヒー」。自動車部品メーカーの「異業種への挑戦」は続きます。