「あのニュースの今」最終回は「フルーツ」。2025年も異常気象によって大きな影響を受けたが、その中でも希望を持ち農業に取り組む若手農家を追った。
大寒波に見舞われた2月、雪による被害が各地で相次いだ。
農業用ハウスは倒壊し、果樹にはいたるところで枝折れが確認された。
(果樹農家・横沢賢一郎さん)
「あの辺から、大きく割れている…」
米沢市の果樹園では木の半分の高さまで雪が積もり、ラ・フランスの木の幹が大きく割れていた。
(果樹農家・横沢賢一郎さん)
「大きい枝が折れてしまうと収穫量が少なくなる。これ以上被害が増えないことを祈るしかない」
大雪による農業被害は、過去10年で3番目に多い6億700万円に上った。
(園児たち)
「いただきます」
「めっちゃおいしい」
2025年は、県内で果樹の栽培を始めて150周年の節目の年。
大々的にPRをし、県内のフルーツを盛り上げる1年になるはずだった。
しかし、待ち受けていたのは苦難の連続だった。
(サクランボ農家・会田平四郎さん)
「佐藤錦。まったく実がついていない。見る影もない」
山辺町にあるサクランボ畑では、出荷できる佐藤錦が平年の1割にも満たない「危機的な状況」となった。
(サクランボ農家・会田平四郎さん)
「今までにない不作。(Q.平年と比べ?)皆無、まったく送れない」
原因は、開花の時期の天候不順。
雨や強風などの影響で、受粉を担うハチの動きが鈍くなったという。
(サクランボ農家・会田平四郎さん)
「毎年生産者としては意欲をもって、『今年はやるぞ』という気構えでやっているが、自然相手だから。自然には勝てなかった」
不安を抱え迎えた収穫期、恐れていた予想は現実のものとなった。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「かなり少ない。平年の2~3割か、それ以下という状態」
通常、1カ所に複数の実をつけるサクランボだが、その数が極端に少ない状態に。
こうした園地は県内でも多く確認された。
山辺町にあるお天道農園でも人工授粉を行うなどしたが、強風によりうまくいかなかったという。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「受粉樹となる紅秀峰の花粉を人の手でつける作業を6回した。対策をしたけどこういう状態」
そして迎えた夏、生産者を悩ませたのは記録的な猛暑と雨不足。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「枯れていますね。暑さと、雨が降らないことで水分不足により枯れた」
(リポート)
「スイカに斜めにヒビが入ってしまっています」
この農園では、スイカとトウモロコシを合わせ被害額が500万円を超えた。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「悔しい。事前に対策を施しているつもりだが、6月中旬からずっと雨が降らず、30℃を超えるのは想定できなかった」
願っても願っても降らない雨に、生産者は神頼みをするしかなかった。
酒田市で「雨乞い神事」が執り行われたのは、じつに82年ぶり。
(神事の参加者)
「畑の物もすべてダメになっているので、この辺で降ってもらいたい」
秋の味覚「ラ・フランス」も全体的に小ぶりで、生産量は平年の80%にとどまる見通しに。
一方で、雨が少なかったことで甘く仕上がった。
(客)
「おいしかった。甘みがほかの果物にはない独特の甘み」
(県園芸大国推進課・伊藤晃平技師)
「今年のラ・フランスはやや小さいが、甘味・香り・舌ざわりが最高」
そして11月、朝日町で収穫の最盛期を迎えていたのはリンゴの主力品種「ふじ」。
選果場も2025年の天気に振り回されていた。
(リポート)
「ずらりと並ぶのは選果場に運び込まれたリンゴ。雪が降る前にと、生産者が4日間で大量のリンゴを搬入したということです」
“大雪”の予報が出されたことで、枝折れや凍結を避けようと生産者が一斉に収穫。
選果場は一気にフル回転せざるを得ない状況になった。
四季を通じて、大きな打撃を受けた県内のフルーツ。
中でも特に厳しい結果を突きつけられたのが、サクランボ。
12月、農林水産省が発表した県内のサクランボの収穫量は8310トン。
平成以降で最低だった8570トンを下回る「大凶作」となった。
サクランボをめぐる課題は、気候変動への対応だけではない。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「こちらが今回管理する畑。(Q.切られてますね?)そうですね」
山辺町でも生産者の高齢化が進み、サクランボの栽培を辞める農家が多く、2025年に手放される園地は最低でも10カ所に上るという。
こうした事態を受け、お天道農園の安孫子さんはその1つを管理することに決めた。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「2年連続の凶作をきっかけに、サクランボ農家を辞める人が増えている。このままでは耕作放棄地が増え、虫・病気がほかの畑にうつったり、クマ・イノシシのすみかになったり、農家だけでなく住民にも悪影響が出る」
しかし、新たな畑を管理しようにも資金は十分でなく、12月からクラウドファンディングを始めた。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「クラウドファンディングを立ち上げて、木がなくなった畑に苗木を植え、果樹産地を維持し故郷を守る」
寄付してくれた人への返礼品は、サクランボとトウモロコシ。
最初に掲げた目標の200万円はすでにクリアし、19日時点で277万円になった。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「山辺町の住民や県の出身者を中心に支援してもらった。『がんばれ』『負けるな』とメッセージをいっぱいもらった。本当にうれしいかぎり」
次に目指すのは400万円。
これを達成できたら管理する畑をもう1つ増やし、サクランボだけでなく栽培しやすいスモモやタラノキを植えることも視野に入れている。
「町の農業を守りたい」と話す安孫子さん。
耕作放棄地を活用することで、新規就農者を呼び込むモデルを作ると意気込んでいる。
(お天道農園・安孫子陽平さん)
「気持ちとしては、かたっぱしから放棄地をなくしたい、苗木を植えて再生したい。自分はこの町でこれからも暮らしていきたい。農業もしていきたい。自分の問題として解決していきたい」