運転免許を返納した高齢者にとって「移動」は大きな壁。広島・江田島市で、住民同士が支え合う“マイカーを利用した交通”の実証実験が始まった。一方、支える側もまた高齢者という実態が浮き彫りになっている。
「おでかけ」に笑顔がこぼれる
「テレビの撮影があるから、口紅ぬりに帰るって言うけぇ」
「ハハハ、着物を着てくれば良かったね」
玄関先に響く明るい声。江田島市沖美町・沖地区の住宅で、80代の住民2人が笑顔を見せていた。
かつては車を運転していたが、80歳を機に免許を返納。体力の衰えもあり、外に出る機会は減ったという。
「体も弱って外になかなか…家の中だけで…」
久しぶりの外出に「楽しみです!」と声を弾ませた。
住民がマイカーで送迎する実証実験
迎えに来たのは、近所に住む70代の住民。軽自動車の側面に「沖たすけあい交通 ボランティアドライバー」のステッカーが貼られている。
江田島市全体の高齢化率は45.4%。中でも沖地区は52.5%と5割を超える。急な坂の上に建つ家が多く、道幅も狭い。公共交通だけでは、日常の移動を支えきれない現実がある。

そこで江田島市は国の補助金を活用し、住民同士による「助け合い交通」の実証実験を始めた。
電話やLINEで予約すると、登録した住民ドライバーが自家用車で地区内のバス停や病院、郵便局などへ送迎する仕組みだ。
この日、2人は住民の車と乗り合いバスを利用して、商業施設まで往復する体験に臨んだ。
「タダだと気を使う」利用者の本音
移動中、80代の住民は率直な思いを口にした。
「お金出してでも、こういうのを利用させてもらいたい」
「タダというのは、お互いが気を使うから。300円でも500円でも1000円でも…」

これに、70代のボランティアドライバーが首を振る。
「1000円は高い、高い!」
自身も免許返納を考える年代だという。
「そうなったときに、“助け合い交通”があればうれしいなと」
地域の未来をどう想像するか問われると、返答に困った様子でこう続けた。
「沖美町の未来は暗いですね」
それでも、少しでも明るくしたいという思いでハンドルを握っている。
“頼みやすい”仕組みづくりが課題
実証実験は2026年1月末まで続くが、課題も見えてきた。事業を支援する「フウド」の為政伸彦さんは、利用者の“気兼ね”が想像以上だったと話す。

「今回はドライバーに何もお出しできない。本当にボランティア。100円とか実費相当でもいいので仕組み化した方が、頼む側も頼みやすくなるのでは」
市の担当者も、地域に合った形を探っていく考えだ。
「江田島市内に一番適した形が“助け合い交通”なのではないか。実証実験の結果を見ながらエリアを広げることも考えたい」

同じく高齢化が進む呉市の下蒲刈島では、運賃を伴う公共ライドシェアの実証実験も始まっている。
運賃設定を含め、無理なく続く仕組みづくりが鍵となりそうだ。
(テレビ新広島)
