シリーズでお伝えしている『2025くまもとニュースの深層』。
6回目は熊本地震からの復旧を目指す熊本城です。
今年も被災した櫓の復旧や,石垣の積み直しなどが城内の各所で行われました。
昭和2年以来、約100年ぶりの全解体が行われた宇土櫓。
まるでバーベキューのような工程で再建が進む南東櫓群の2カ所を訪ねました。
まず訪れたのは、熊本城『第三の天守』とも言われる宇土櫓(うとやぐら)です。
【郡司琢哉アナウンサー】
「やっぱり何もない」
【熊本城調査研究センター 岩佐 康弘 所長】
「何もないけど、ここに歴史がギューギューに詰まっている所ですね」
創建当時からの姿をとどめる城内唯一の五階櫓で、国の重要文化財に指定されている宇土櫓。
2016年の熊本地震で柱が折れたり、床が傾くなどの被害が出たため、再建のための解体工事が2年前に始まり、去年の今ごろは柱や梁だけの姿でした。
それが、今はすっかりなくなってしまいました。
【郡司アナ&岩佐所長】
「熊本に400年ぐらい建っていたものが、ない状態で年末を迎えている貴重なシーンでもありますよね」
「定かではありませんが、初めてかもしれませんよね。こういう状態で年越しというのは」
今は、他の城郭であれば天守閣に匹敵する五階櫓がどのような構造の上に建っていたのかを見ることができる貴重な機会。
建て直す前にやるべきこともあるようで…。
【岩佐所長】
「ブルーシートがかかっているんですけど、江戸末期の面がどこにあるのか、そういった所を確認するために、我々は『確認調査』と言っていますけど、分かりやすく言うと『発掘調査』をやる予定です。年明けから今年度いっぱいにかけて」
取り外された柱や梁などの木の部材約5000点のうち、3割程度が江戸期に加工された可能性があるとのこと。
再建の際には、使えるものは使われる予定です。
続いて訪れたのは、天守閣から見て南東側にある『南東櫓群』。
田子櫓など5つの櫓でこちらも創建当時からの姿をとどめる重要文化財です。
【郡司アナ&熊本城総合事務所 復旧整備課 坂口 瑞枝さん】
「坂口さん、いま南東櫓群は建設の段階でいうと、どんな工程に入っているんですか?」
「はい。解体が必要な2棟の解体を終えて、次の組み立ての復旧の段階に入っています。あと壁の方も準備が始まっているところです」
「前回の報道公開の時(10月)と比べると、田子櫓だいぶ進んでいるようですね」
「木の組み上げも順調に進んでいます」
南東櫓群は江戸時代初期に創建されたとみられていますが、熊本地震では外壁に亀裂が生じたり柱が傾くなどの被害が出て復旧のための解体工事が去年8月から行われてきました。
そして『解体』から『再建』へと工程が移り、今年10月、建物の骨組みが完成しました。
骨組みが完成すれば次は壁の作業。
城造りには欠かせない、漆喰(しっくい)の製造過程を見せてもらいました。
【郡司アナ&株式会社カワゴエ 丸山 憲一さん】
「『銀杏草』というものです」
「『銀杏草』って何ですか?」
「海に生えた海藻なんですけど。ノリのエキスというか自然のエキスが出て、普通の水よりも粘土の高いノリができます。それを練ることによって漆喰に粘りが出ます」
「熊本城の中で火を使った作業をされているというのは知りませんでした」
「全然能率が違うものですから『直火で炊かせていただきたい』と(関係者に)相談をしました」
水を入れた窯に銀杏草を投入し、薪(まき)を燃やして煮立たせます。
あらかじめ、訪れた観光客の懸念を払拭する配慮もされているようで。
【郡司アナ&坂口さん】
「特別見学通路からご覧になったお客さまが、煙が上がっているのを見て驚かれないように、作業小屋の屋根に『火気使用中』漆喰作成のためということで周知の看板も置いています」
「(書いていないと)狼煙(のろし)が上がっていると思うかもしれませんね」
着火から50分後、熱めのお風呂くらいに温まると窯の中にも変化が現れます。
【郡司アナ】
「手にまとわりつくようなノリの感じですよね」
作業小屋にも、ほのかな香りが漂います。
【郡司&株式会社カワゴエ 左官職人 高木 郁弥さん(26)】
「ワカメスープのような匂いがしますよね」
「腹減っているときは、おいしそう」
【先輩職人】
「おいしくはないよ。しょうゆとか入ってないから」
こうして火をつけてから約1時間50分、銀杏草をこし…。
抽出した液体に『バニラスサ』と呼ばれる繊維状のものを入れてかき混ぜ…。
貝殻を粉砕して焼いた『貝杯』を投入し、さらにかき混ぜます。
そして完成。
【郡司アナ&丸山さん】
「このぐらいの粘りが、ちょうどいい状態なんですね」
「長時間混ぜるのも均一にするためにある程度回さないと、スサが回っていかない」
触ってみると。
【郡司アナ】
「なんだろう、つきたてのお餅よりもネバネバして、ノリの状態ですね。よく見るとスサが入っているんですね」
作業開始から2時間半でようやく最初の漆喰が完成しました。
煮出した液体から漆喰を作る作業は、このあと何度も繰り返されます。
こうして作られた漆喰は、四間櫓(よんけんやぐら)など櫓の軒裏部分に塗られていきます。
このように直接塗る場所には木の部材に竹に縄を巻きつけた『縄巻竹(なわまきだけ)』を取り付け、漆喰が剥がれにくくします。
南東櫓群では、こうした作業が来年春まで行われる予定です。
【熊本城調査研究センター 岩佐 康弘 所長】
「熊本城域、広い中でいろんな所で設計、調査、石垣の回収作業を進めています。まだまだ続くので、しっかりやりながら一歩一歩、歩みは遅くとも完成2052年度を
目指して進めているところで、これを着実に進めていくところが我々の一番大切なところだと思っています」
地震で大きく傷ついた建物を、歴史的価値を損なわず後世へと引き継ぐ重要文化財の復旧。
来年4月で、熊本地震から10年です。
熊本城には江戸時代から存在し続けた重要文化財建造物13棟と、昭和や平成に復元された再建復元建造物20棟の2つがあって熊本地震では全てが被災しました。
復旧が終わっているのが長塀、監物櫓、天守閣の3つ。
お伝えした南東櫓群は2028年度、宇土櫓は2032年度に完成予定です。
全ての復旧完了は地震から36年後の2052年度の予定で、いま地震から9年が
経過しましたので、ちょうど4分の1という段階です。