2026年4月で熊本地震から10年を迎える。当時、様々な理由で避難所ではなく車に避難するいわゆる『車中泊』を経験した人も多いが、災害時『車中泊』の避難者を支援する仕組みを整えようと、熊本市で実証実験が行われた。
熊本市で『車中泊』の実証実験
2016年4月に発生した熊本地震直後の映像で、震度7の激震に2度見舞われた益城町にあるグランメッセ熊本の駐車場には、2000台を超える車が詰めかけていた。多くの人たちが『避難所が満員で入れない』、『余震が怖い』、『小さな子どもがいるため避難所での生活を遠慮する』など、様々な理由で車に避難する『車中泊』をしていた。

11月22日から1泊2日の日程で、熊本市南区のアクアドームで行われた実証実験。『車中泊』の避難者へも支援の手が届くよう、仕組みを整えようと連携協定を結んでいる熊本市と崇城大学、防災関連の企画会社・BosaiTechが呼びかけ、約50人が参加した。

BosaiTechの大塚和典社長は「熊本地震の反省として、マニュアルを作っていなかった。せっかく災害で救われた命を災害関連死で亡くしたくない」と話す。

『車中泊』をめぐって、国は2024年6月に防災基本計画を修正。『支援の手引き』を策定し、自治体は車に避難する人への支援策を検討するよう定めた。

大西一史熊本市長は会見で『車中泊』の考え方に「熊本地震のとき、車中泊はエコノミークラス症候群になりやすく、亡くなる事例があったので、『車中泊はできるだけやめて』と言っていた。しかし、現実的に避難所のキャパは限られている。『増やせ』と言われても物理的に難しい。(指定避難所が基本だが)現実的対応が必要」と述べている。
運営をデジタルとアナログで実証実験
『車中泊』の避難者への支援システムを開発しているのは、崇城大学情報学部の亜原理有教授。スマートフォンでのオンラインシステムを使い、避難者の情報を集め、支援に生かす仕組みだ。

亜原理教授は「今回の実証実験では、従来の紙ベースのマニュアルのシステムと、今回我々が発案しているデジタルシステムの二つを、2グループに分けて(中略)時間差や人の動きの差が出るか検証しようと思う」と話す。

『デジタルグループ』は、車中泊エリアの入り口でQRコードを読み取ると、調査票が表示され、避難者自身で氏名や車両番号、健康状態を入力。健康上の注意点も記入できる。主催者側のモニターには避難者情報が一覧で表示される。これにより自治体は、物資の手配や医療チームの派遣依頼などスピーディーな対応につなげられるという。

熊本市防災対策課の松窪昭宏課長は「通常の避難所の場合は避難所運営委員会が組織されていて、施設管理者、市職員、地域が率先して動いていただけるが、車中泊避難は組織ができてないので、避難してきた方がそれぞれがコミュニティーを構築して皆さんで運営できる避難所になれば」と話す。

車中泊の避難所は『自主運営』が基本。デジタルグループには食事や体操の時間になるとスマホに通知が届くため自主運営の助けになるようだ。
デジタルが運営スムーズの一方で課題も
一方、紙のマニュアルを配るアナロググループも設け、差が出るか検証する。デジタルグループが夕食の準備をしているころ、アナロググループは避難者同士のコミュニケーションがうまくとれず、まだ一つ前のミッションである保健師の巡回中だった。

亜原理教授は「元々の予定からだいぶ遅れている。食事の時間も遅れる。時間に関してもA(アナログ)とB(デジタル)が差が出ている」と話し、3者はこの実証実験を踏まえ、今年度中にマニュアルを策定する予定だ。

この実証実験ではデジタルの活用により避難所運営がスムーズに進んだ一方で、高齢者などスマホの利用が難しい人への対応も課題という声もあったという。3者は、結果を踏まえデジタルとアナログ、両方の良い部分を取り入れてマニュアル策定を目指すという。

システムを完成させ、熊本市は『くまもとアプリ』に紐づけることを検討しているという。熊本県内では11月25日にも最大震度5強の地震が発生した。熊本地震からの教訓を生かした大規模災害への備えが今、進められている。
(テレビ熊本)
