栃木県にあるワイナリー
栃木県足利市。
住宅街から山道に入りしばらく車を走らせると、目の前に突然切り開かれた山の急斜面が現れる。

ココ・ファーム・ワイナリー。
開墾から60年以上の歴史を誇る由緒あるワイナリーだ。
こちらのワインは過去には九州沖縄サミットや洞爺湖サミットでも振る舞われた。

取材に訪れたこの日、敷地に併設されたレストランには平日にも関わらず多くの人が訪れていた。
お客さんに話を聞いてみると、
「すごい気持ちが良いですね。特に最近ずっとこもりがちだったので自然を見ながら食べられるのが良いですね」
「気持ちが良い。こういうスケールが大きな葡萄畑の前で食事ができるのは素晴らしいですね。こういうのが近くにあるとは思わなかったです」

2019年の台風でブドウ畑が一部崩れる
のどかな時が流れるワイナリー。
2019年10月12日。
九州から東北にかけ多くの被害を及ぼした台風19号で斜面にあるブドウ畑が崩れるなどの被害を受けた。
越智眞知子農場長:
あの辺が一番被害が大きい。谷になっているところなので

--かなり崩れていますね?
越智眞知子農場長:
上からの土砂でその辺に植えていたブドウが全部なぎ倒されていますね。急な斜面だから修復作業がすごく大変で。やるしかないのでやりますけど
被害者がいなかった。人は大丈夫だったというのが救いですね

少しずつ修復と復興へ
あれから1年。
土砂崩れがおきたブドウ畑。
越智眞知子農場長:
ちょうど1年前の台風の時に上のブドウ畑から土砂が崩れて来て全滅した畑、7年ぐらい元に戻るにはかかる。上はまだ手付かず
自然の力には勝てないと感じていますし、本当に異常な気候ですよね


今まさに生産のピークを迎えているワイン造り。
新型コロナの影響で、例年、ブドウ畑で行われていた収穫祭が今年はオンライン収穫祭として開催されることに。

越智眞知子農場長:
畑はすくすくと育っているのですけど、すぐその後にコロナが来て今年はこれでもかといろんなことが起きるので、自分たちがやっていることが正しかったら復興はできるだろうと信じてみんなで頑張っていきたい

撮影後記
山の急斜面を切り開いたブドウ畑。ブドウ畑全体を見渡す俯瞰を撮影しようと、山頂まで撮影機材を担いで登った。
10月というのに汗だくになってしまった。このような急斜面を、人の手だけで開墾したとは信じられない。驚きだった。
丁寧に手を入れても昨年の台風19号のような大雨に襲われれば、再び被害に遭う可能性がある。心配になってしまい、越智農場長に聞いてみると、「正直対策がない」という。
近年、急激に変わりつつある日本の気候を前に手の施しようがないようだ。
併設するレストランには平日にも関わらず多くの人が訪れ、一見復興したように見えるが、崩れたブドウ畑で以前と同じようなワインに使えるブドウを収穫できるようになるには7年以上の月日がかかるという。
話を聞けば聞くほど復興にはほど遠い。
東日本大震災をはじめ、多くの災害地で復興に向けて働く人を取材してきたが、そこで働く人たちは、以前の日常を取り戻そうと驚くほど前を向いて日々を生きている。私は撮影することで、彼らの復興の足跡を記録できればと思う。
<取材・撮影・編集・執筆>石黒雄太
<撮影>高橋晋、矢野冬樹