全国でクマによる人的被害が相次いでいる。なぜ九州にはクマがいないのか?野生動物の遺伝などを研究する宮崎大学教授は、環境省が2012年に九州のクマの絶滅を宣言した背景や、隣接する山口県から関門海峡を渡ってくる可能性について分析する。
九州にクマはいない?
全国各地で出没が相次ぎ、脅威となっているクマ。2025年4月から10月末までに確認されたクマによる人的被害は全国で197人にのぼり、12人が死亡した。
環境省が取りまとめるクマの出没情報では、九州・沖縄の8県は「クマが生息していないため」調査対象外となっている。

九州になぜクマはいないのか。野生動物の遺伝などを研究する宮崎大学の西田伸教授に話を聞いた。

宮崎大学 西田伸教授:
2012年に環境省が絶滅宣言をして、一応、九州には熊はいないということになっている。

全国各地で目撃されているツキノワグマはドングリを餌とするため、ブナなど落葉樹が生える環境を好む。しかし、九州は照葉樹が多く、クマが好む環境が少ないため絶滅したのではないかと西田教授は分析する。
宮崎大学 西田伸教授:
江戸の末期ぐらいから明治期ぐらいにかけて、熊がどれくらい捕まったかみたいなのを記録してあるが、そこに50頭ぐらいしか記録として残っていない。江戸の末期ぐらいから明治にかけて、もうすでに熊は少ない状態だったんじゃないかなと思う。
九州独自のクマの痕跡

大分県との県境に近い高千穂町土呂久地区に住む佐藤幸利さん(82)の家には「クマの手」が残る。明治中期から大正初期に、佐藤さんの先祖が祖母・傾山系で捕獲したものだと伝えられている。

クマの手を所有する佐藤幸利さんは、「大きさは長さ20センチ、幅10センチ。このクマの手で妊婦の腹をなでるとお産が軽くなると母親から聞いた」と話す。

西田教授によると、日本のツキノワグマは、琵琶湖周辺を境に「東日本集団」「西日本集団」「四国・紀伊集団」に分かれる。このクマの手を西田教授がDNA解析した結果、西日本集団の中でも、九州独自のタイプであることが判明した。
また宮崎県によると、宮崎でクマが確認されたのは、1957年に宮崎と大分の県境で捕獲されたのが最後だとされる。

1987年に大分と宮崎の県境で確認されたクマがいるが、遺伝子を調べてみると本州由来のクマであることがわかった。西田教授によると、人為的に、何らかの理由で持ち込んだものと考えられるという。
関門海峡を渡ってくる可能性

一方、九州に隣接する山口県ではクマの目撃情報が相次ぐ。

山口県下関市と福岡県北九州市との距離は、海をはさんで約700メートルだ。

関門海峡を泳いで渡ってくることはないのだろうか?
西田教授は、山口県と福岡県北九州市を隔てる関門海峡をクマが泳いで渡る可能性について「クマに泳ぐ力がないわけではないが、関門海峡は流れが速く、それに逆らうほどの遊泳力はない可能性がある」と指摘。さらに、「過去のツキノワグマのDNA解析では、九州の集団と西日本の集団が交わった証拠がなく、歴史的にも渡ってきていないとみられる」と説明した。
人里出没の原因と背景
西田教授によると、本来クマは人間を怖がる動物だ。

しかし、狩猟者が減り、人間を怖がる習慣が親グマから子グマへ伝達されなくなったことが、クマが人里に出没するようになった原因の一つと考えられている。
中山間地域の過疎化が、クマ被害として見える形で現れていると言えるだろう。
(テレビ宮崎)
