全国で医師不足が深刻化するなか、富山大学附属病院の新たな働き方が注目されています。長時間の手術は交代制で急な呼び出しもなし。女性医師も子育てを両立しています。
この日行われていたのは60代女性のすい臓がん手術。すい臓の右側と十二指腸どちらも切除する手術で、消化器外科で難易度が最も高いといわれています。場合によっては10時間以上に及ぶことも…。
オペ室に医師たちが入って行きました。
*富山大学第二外科 藤井努教授
「交代しましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
全国的に珍しい手術中の医師の交代。背景には深刻な医師不足があります。
富山大学附属病院の膵臓・胆道センター。膵臓がんや胆道がんの手術など年間1000件行っています。
通常、最初から最後まで同じ医師のチームが担うがんの手術。ここでは複数の医師が交代で執刀にあたります。
チームを率いる第二外科の藤井努教授です。
*富山大学第二外科 藤井努教授
「医局員の心と身体の負担をなるべく減らそうと考えていくと、長時間手術ずっと固定のメンバーでやるのは、医療安全としても勤務管理としても良くない。午前の医師は午後1時前後で午後のチームと交代。夕方5時6時には、もし手術が長引けば夜のチームと午後のチームが交代する。やはり集中できる3時間4時間そこだけ手術を頑張って1日のうちの残り時間はそれ以外の病棟の仕事。患者の検査・処置をやって午後5時6時には帰れるようにする。交代制にした方が効率がいいと思ったのが最初のきっかけ」
日本消化器外科学会によると、国内の医師はこの20年で3割以上増えていますが、胃や腸などの手術を行う消化器外科医は2割以上減少。
さらに20年後には現在の半分以下にまで減ると予測されています。
長時間にわたる手術や夜間や休日の呼び出しといった医師の労働環境が背景にあると指摘されています。
*富山大学第二外科 藤井努教授
「消化器外科医が減っていくことによってがんの手術をやる人間がいなくなる。抗がん剤治療・集中治療室の管理・胃カメラや麻酔をかける人もいなくなる。病院の栄養管理や感染対策をする人もいなくなる。中小病院のレベルになると病院の存続そのものが機能しなくなってきて、病院として存続出来なくなる」
こうした状況を打破しようと藤井教授は8年前、「完全シフト制」を導入しました。
*富山大学第二外科 藤井努教授
「誰かが急に休んでも、誰をサポートで入れるかパパっと(フォロー)できる。急な用事でも休みやすい」
手術や外来は交代制で、夜間や休日の急な呼び出しは一切ありません。
*伊藤綾香医師
「すぐ急に休みますよね。急に休むのがOK。」
7年目の伊藤綾香さん。子育てをしながら外科医を続けています。
*富山大学第二外科 藤井努教授
「子どものお迎えもあるので午後4時5時くらいには帰る」
*伊藤綾香医師
「午後6時までに迎えにいかないと、保育園」
この働き方を知って外科医を志した人もいます。
*医師7年目 木村七菜さん
「女だから外科は難しそう、忙しそう。世間通りのイメージを持っていた。ここならできそうと働くことを決めた。後輩とかにいい職場だよと胸を張って言えるのはすごく良い。外科というと難しいですよね、大変ですよね、体力がないとできないのではと言われるが、そんなことはないとしっかり言えるのでいい職場だなと思う」
完全シフト制を導入してから膵臓・胆道センターに入る医師が増え、今は所属する25人のうち、8人が女性です。
来年度も女性2人、男性2人のあわせて4人の医師が入局する予定です。
*医師7年目 金谷瑛美医師
「実際に若い先生がたくさんいて、お子さんのいる先生も働いている。実際にそのような先生が働けているという事実を医学生は見て、私にも外科できるのかなと、外科に親近感がわく。『第二外科の先生はきれいにしている先生が多い』『身なり整えている先生が多いですね』と(医学生から)言われることが多い」
完全シフト制を導入してから8年。藤井教授は働き方改革だけでなく、手術の成果にも効果が出始めていると話します。
*富山大学第二外科 藤井努教授
「集中力を保つチームでリフレッシュしながらやっていくことで、(手術による)合併症率が少し低いという結果が出た。まだまだ全国的に働き方が改善されているわけではない。富山大学で上手くいっている部分を発信することで、お手本のようになれる1つのきっかけになれば」